×鳴門

その子供は、酷く虚ろな目をしていた。

「こんにちは」
「……?」

全身を真っ黒な服で固めていて、そのせいで肌と髪の白さが余計に際立って見える。

「俺は……、」
「いい、どうせすぐ忘れるし」

素っ気なく答えた声は、掠れていて低い。

「女の子だって聞いていたんだけど……」
「そうかぁ」
「男の子、だったんだね」
「そう」
「お母様のこと、残念だった」
「そうか」
「君、これから一体どうするんだい……?」
「ああ……」

何を言っても、空虚な返事が返ってくるばかりである。
今日、鬼と呼ばれた女性の葬式が行われた。
一人息子と、里の上層部の者数名だけが参加した、静かな静かな葬式。
飾られた遺影の中の彼女は、この上なく幸せそうな笑みを浮かべていて、棺の中に横たわった彼女は、安らかに笑んで、眠っている。
だがその眉は、八の字に下がっていて、不安そうに見えた。

「不安そうな、表情だったね」
「……」
「君のことが、心配なのかな」
「……1つ、」
「ん?」
「1つ、気付いたことがある」

葬式が終わり、誰もいなくなった家の中で、彼女の入った骨壷を抱えながら、ようやく彼は自分から話し出した。

「オレ達は殺人鬼の一族だった。しかし、母は人を殺したことも、好んで殺そうとしたこともなかったそうだ。……だが、そんな母でも、あの日襲われたとき、常とは思えねー力を発揮した」

少年は傷だらけの壁に近寄り、その表面を撫でる。
壁は深く抉れている。

「この傷、刃物の傷もあるが、ほとんどは違う。これは、人の爪でつけた傷だ。母は腕を切り落とされ、刀で床に縫い付けられていた。つまりあの時、敵はとんでもない力で暴れる母を、無理矢理押さえ付け殺そうとした。何故母が、穏やかだった母が、鬼の力を発現させたのか。オレは、命の危機に瀕したからじゃないかと考えた」

少年の鋭い瞳が、オレを射抜く。
この子は、5歳だと聞いていた。
この圧力は、この頭脳はなんだ?
まるで歴戦の猛者を目の前にしているかのような圧迫感。

「オレ達の血に掛けられた呪いは、命の危機に瀕するほどに、発現する確率が高かったんじゃないのか?そうでなければ、大きな負の感情が引き金になるんじゃないのか?ならば、人との繋がりを引き離して、命の危険のない場所においておくのが一番だろう。しかし、母は言っていた。『アカデミーに行かなければいけない』と」

そう、彼らには義務がある。
アカデミーに通う義務が。
その義務を守ることで、彼らの住処は守られてきた。

「母は力の扱い方を身に付けるためだと言ったが、本当は、違うんじゃねーのか」
「それは……、」
「アカデミーにオレたちを通わせて、お前達は選別してたんだ。鬼の血が、使えるか、使えないか。母は使えないと判断された。闘争本能なんてなかったし、運動神経も、鈍かったしなぁ」

そう、木の葉の里が彼ら一族を匿っていたのは、情に絆されたからなんかじゃない。
上層部が、使えると判断したからだ。

「オレは、強いぜ」
「その、ようだね」
「オレも、飼い殺しにするのか」

飼い殺し、だなんて、子供が使う言葉なのか?
だが、確かに、重役達の間で、彼を暗部として育てようという案が出ている。
真っ直ぐこっちを向く彼の瞳を覗き込む。
その奥に見た絶望に、反射的に言い放っていた。

「そんなこと、させないよ!」
「……はぁ?」
「絶対にさせない」

呆気にとられたようにポカンと口を開けた彼に、にかっと笑って、胸を張った。

「次期火影の名に懸けてね!ん!」
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