×鳴門

昔々、オレはたくさんの人を殺した。
ただそれは、殺したかった訳じゃなくて、守りたかった人が、大切な人達がいたからだ。
ザンザス、ディーノ、ヴァリアーの奴ら。
ちょっとムカつくが、並盛に住むアイツらとか、他にもたくさん。
生まれ変わってからは乙女や妖怪、生意気な陰陽師達、家族。
再び生まれ変わってからは、母さんを守りたいと思った。
二人で、質素でも、幸せに暮らしたいと思っていた。

「……え?」

ある日、外に買い物に行って帰ってきた時だった。
家から、嫌な臭いがした。
人里離れた場所に建つオレ達の家。
近くに他の家はない。
臭いの元は、間違いなくその家だった。
知っている、臭いだった。
過去に何度となく嗅いだ、生臭い臭い。

「何が……っ!」

飛び込んだ家の中は、それはもう、酷いものだった。
壁紙は剥がされて破かれて、家具は割られて壊されて、そして何より、部屋中を真っ赤な血が覆っていた。

「母さんっ!!!」

リビングのまん中、家具が凪ぎ払われて、開けたところに、複数の男が立っていた。
一人は、母さんを、母さんを足蹴にした状態で。

「何して、やがる……」
「ガキか」
「ちょうどいい、母親は殺して、息子は連れて帰るぞ」
「逃げて……逃げてコウヤ!!」

母さんは、酷い姿だった。
腕が、片方ない。
胸には細い刀が刺さっていた。
そんな、瀕死の姿で、母さんはオレに逃げろと叫んだ。
カーペットには、どす黒い血が滲んでいて。
オレは、男達に視線を向けて。
そして久々に、本気で叫んだ。

「何してやがるってぇ!いってんだろうがぁぁあ゙あ゙あ゙!!!!!」

有幻覚で創った剣を振りかざした。
頭が、焼けるように熱い。
反対に、体は羽根が生えたように軽かった。
あっという間に、男の首をハネる。
1、2、3……全部で5人。
全員雑魚じゃねーか。
何だよ、何なんだよ!!
オレが、オレがもっと本気で母さんのことを守ろうとしてれば、こんなことにはならなかったはずなのに!!

「コウヤ……」
「母さんっ、今、助けるからな!!」
「コウヤ……あなた、角が……」
「そんなこといい!しゃべるなよ!!」
「コウヤ、あなた、本当に優しい子。やっぱり、殺人鬼なんかじゃ、なかった……」
「良いからっ、もうっ!」
「いい、コウヤ……強く、生きるの。力じゃなくて、心を、強く……」

霧の炎で補って、幻覚で傷を塞ごうとする。
だが、オレの力では足りなくて、血は流れていくばかりだった。
傷口を焼いて無理矢理止めたが、母さんの鼓動は弱まっていくばかりだった。

「母さん……っ!!」
「生きて、ね?夢も、叶えて……。幸せ、に……コウヤ、ちゃん……」
「いや、だ……、母さんっ!!」

初めてできた母さん。
優しくて、強くて、美しくて、カッコよくて。
抱き締めてくれたときに感じた温もり。
頭を撫でてくれた、あの手の柔らかさ。
全部オレには初めてで、母さんと過ごした全ての時間が、幸せだった。

「母さん……?」

取った手は、力なく垂れ下がるだけで、オレの手を握り返すことはなかった。



声にならない叫び声が、木霊した。
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