×鳴門
「なー母さん。オレ、女なのになんでコウヤって名前なんだ?」
「あら、どうしたの突然?」
「気になったから」
突然だが、例によって例のごとく、オレは女である。
だが名前は変わらず、男名。
母さんは一寸だけ居住まいを正して、理由を話した。
「昔からね、女の子には男の子の、男の子には女の子の名前をつけると、死神さんが混乱しちゃって、あの世に連れていかれなくなるんだって、言い伝えがあるの。コウヤちゃんが長生き出来るようにって思って、お母さんがつけたのよ」
「そっか」
それは確か、前世でも聞いたことがある。
陰陽師達のおまじないだそうだ。
そして名前は、その人を守る力があると言う。
「じゃあ、オレきっと長生きできるな!!」
「勿論よ!100才くらいまで生きてね!!」
今までは、平均寿命まで生きたことなかったからな……。
今度こそは長生きしてやるぜ。
「それに、男の子みたいに強くなってほしかったからね!」
「強く?」
「そう、血に負けないくらいに!!」
「血……。母さん、その、血って……何?」
また、血の話が出て、ついにオレは、聞いてしまった。
母さんは、少し間を置いて、話した。
「コウヤちゃん、賢いから。難しいと思うけど、話すね」
「……うん」
「私達に流れる血はね。殺人鬼の、血なの」
「え……」
遠回しに、とか。
そんなの全然なしに、そう言われた。
さ、殺人鬼……。
オレはまだ、前世、前々世があれだったからわかるけど、母さんが、殺人鬼?
「昔々に、お母さん達のご先祖様は、たくさん人を殺したんだって。好きで殺したわけじゃないけど、殺された人達は恨んで恨んで、ついに、その人の一族に呪いをかけたの。そのせいで、私達の髪は白くなり、目は銀色に、肌も色がなくなってしまったの。そして、私達は本能的に、殺しを喜ぶようになってしまった……。呪われて、私達は本物の鬼になってしまったの」
突拍子もない話。
だが語る母の目は真剣で、視線が逸らせなくなる。
鬼……オレ達は、殺人の、鬼。
「でも、でもねコウヤちゃん!これはもうずっとずっと前の話なの。血は薄れてきている……。私だって、人を殺したいなんて思ったことないし、殺したこともない!!コウヤちゃんは殺人鬼なんかじゃないし、本当に優しい子だもの!」
「母さん、」
「角も、ないしね?」
「角……?」
母さんは笑うと、前髪を書き上げて額を露にした。
その額の生え際のところ。
小さな小さな灰色の突起が、2つ、確かにあった。
なんで今まで気付かなかったんだろう。
「これ、角……?」
「そう、角。お母さんの角」
手を伸ばして触らせてもらう。
ちょっと固くて、温かな角。
「ふふ、」
「コウヤちゃん……?」
「温かい。それに、小さくて、可愛い」
「まあ……」
嬉しそうに、母さんが微笑んだのを見て、安心した。
「そんなこと言ってもらえて、嬉しい……」
「角があってもなくても、母さんは可愛い」
「コウヤちゃんが、私の子で良かったわ……」
ぎゅうと抱きすくめられて、母さんの額が肩に押し付けられた。
「生まれてきてくれて、ありがとう」
洋服の肩は、少しだけ湿っていた。
「あら、どうしたの突然?」
「気になったから」
突然だが、例によって例のごとく、オレは女である。
だが名前は変わらず、男名。
母さんは一寸だけ居住まいを正して、理由を話した。
「昔からね、女の子には男の子の、男の子には女の子の名前をつけると、死神さんが混乱しちゃって、あの世に連れていかれなくなるんだって、言い伝えがあるの。コウヤちゃんが長生き出来るようにって思って、お母さんがつけたのよ」
「そっか」
それは確か、前世でも聞いたことがある。
陰陽師達のおまじないだそうだ。
そして名前は、その人を守る力があると言う。
「じゃあ、オレきっと長生きできるな!!」
「勿論よ!100才くらいまで生きてね!!」
今までは、平均寿命まで生きたことなかったからな……。
今度こそは長生きしてやるぜ。
「それに、男の子みたいに強くなってほしかったからね!」
「強く?」
「そう、血に負けないくらいに!!」
「血……。母さん、その、血って……何?」
また、血の話が出て、ついにオレは、聞いてしまった。
母さんは、少し間を置いて、話した。
「コウヤちゃん、賢いから。難しいと思うけど、話すね」
「……うん」
「私達に流れる血はね。殺人鬼の、血なの」
「え……」
遠回しに、とか。
そんなの全然なしに、そう言われた。
さ、殺人鬼……。
オレはまだ、前世、前々世があれだったからわかるけど、母さんが、殺人鬼?
「昔々に、お母さん達のご先祖様は、たくさん人を殺したんだって。好きで殺したわけじゃないけど、殺された人達は恨んで恨んで、ついに、その人の一族に呪いをかけたの。そのせいで、私達の髪は白くなり、目は銀色に、肌も色がなくなってしまったの。そして、私達は本能的に、殺しを喜ぶようになってしまった……。呪われて、私達は本物の鬼になってしまったの」
突拍子もない話。
だが語る母の目は真剣で、視線が逸らせなくなる。
鬼……オレ達は、殺人の、鬼。
「でも、でもねコウヤちゃん!これはもうずっとずっと前の話なの。血は薄れてきている……。私だって、人を殺したいなんて思ったことないし、殺したこともない!!コウヤちゃんは殺人鬼なんかじゃないし、本当に優しい子だもの!」
「母さん、」
「角も、ないしね?」
「角……?」
母さんは笑うと、前髪を書き上げて額を露にした。
その額の生え際のところ。
小さな小さな灰色の突起が、2つ、確かにあった。
なんで今まで気付かなかったんだろう。
「これ、角……?」
「そう、角。お母さんの角」
手を伸ばして触らせてもらう。
ちょっと固くて、温かな角。
「ふふ、」
「コウヤちゃん……?」
「温かい。それに、小さくて、可愛い」
「まあ……」
嬉しそうに、母さんが微笑んだのを見て、安心した。
「そんなこと言ってもらえて、嬉しい……」
「角があってもなくても、母さんは可愛い」
「コウヤちゃんが、私の子で良かったわ……」
ぎゅうと抱きすくめられて、母さんの額が肩に押し付けられた。
「生まれてきてくれて、ありがとう」
洋服の肩は、少しだけ湿っていた。