×ぬら孫
あの時出会った男が、安倍晴明の子孫であり、かつての安倍家当主であったと言われ、妙に納得がいった。
あの戦い慣れた動きや、見た目に合わない言動。
延命して何百年も生き続けていると言うのならば、納得だ。
怯える赤河童を横目に、竜二の隣でちびちびと団子を食べていた。
朝食後だと言うのに、こいつらよくもまあ、こんなでかいパフェなんて食えたもんだな。
「相手が誰だろうと、やることは変わらねぇだろぉ」
「だが相手の正体がわかったのは大きい。それに、祢々切丸を取りに行かなければならないことに、変わりはない」
「その通りだな!ほれ、お前らの分の防寒具だ。冷麗が持ってきてくれたぜ」
「……」
受け取った服を持ち上げ、視線を少し離れた場所に送る。
上機嫌に笑顔を浮かべる彼女に、気持ち程度の笑顔を張り付けてお礼を伝えた。
小さな子供が、憧れのヒーローを見るようなキラキラの瞳。
そんな人間じゃねぇって言うべきだろうけど、何も言われてねぇのにいきなり反論するのもおかしくて、仕方なしに好意を受けとり続けるわけだ。
ただ、別れは思いの外あっさりとしたものだった。
じゃあ行くかと、奴良リクオが荷物を持ち上げると、別れを惜しむわけでもなく、負けんじゃねぇぞとか、気を付けてとか言いながら、親しげだった連中が見送りに立つ。
オレもその横で見送られながら、一際大きく手を振る冷麗に、小さく手を振り返していた。
「誰も引き留めねぇんだな」
「は?」
「仲良しこよしの妖怪一家なら、仲間が死地に向かうのを引き留めるのかと思ったが」
「ちょっと何?あんた馬鹿にしてるの?」
「……オレ達は奴良組と違って、妖怪世界の傭兵集団の流れだ。死地に向かうのを一々泣いて惜しむ奴はいない」
「……そうかい。思ってたよりも」
「酷い?」
「はっ!真逆だ。好きだぜぇ、そういうの」
脱いでいたスーツの上着を肩に掛けて、駅へと脚を向けた。
奴良組のいやに過保護な連中はイラつくが、遠野勢の在り方は悪くなかった。
死も生も日常の一部として振る舞う彼らは、荒くれの中で生きてきた自分に馴染む。
足取り軽く列車に乗り込み、目的地へはその日の内に辿り着いた。
恐山。
修験の者共が力を磨く霊峰。
普通なら寄り付く妖怪はいない。
そんなところに百鬼の主が踏み込めば、寄って集って祓いにかかられる……かと思ったが、明らかに陰陽師然としている竜二や、スーツ姿のオレがいるせいか、様子を窺うばかりでこちらに手を出してくる様子はない。
コツコツと米神を叩いて、周囲をざっと見渡す。
こちらを窺う人影が幾つかあり、その中にひとつ、異様な空気を纏う黒い人影が。
「……う゛お゛ぉい、何か来るぞぉ!」
「!これは、死霊……!?」
固く冷たい土塊を掻き分けて、枯れ枝のような手が伸び上がる。
骨、まごうことなき死体が、群れをなして道を塞いでいた。
先程の人影は、死霊の群れの向こうでぼそぼそと何かを呟いている。
これはきっと奴の術だろう。
死霊操術(ネクロマンシー)なんて、生死を超越しようとする御門院の連中らしいもんじゃねぇか。
懐から取り出した折り畳み式の剣を、目の前に飛び込んできた骸骨を大上段から斬り倒す。
だがすぐに、バラバラに砕けた骨が再生し、同じ姿で立ち塞がる。
「ちっ、キリがねぇ」
「おい、お前こいつら燃やせねぇのか」
「塵にしてやっても良いがぁ……如何せん数が多すぎる。ここでぐだぐだしてる内に、敵が秋房の方に行く。ムカつくがぁ、奴良リクオ、道は開けてやる。お前、先に秋房を探してこい」
「助かる!氷麗、イタク、お前らは……」
「ここで敵を食い止めます!」
「お前は行け、リクオ!」
「ああ、頼んだぞ!」
紫紺を呼び出し、人式一体を発動させる。
変異した獣の腕を振るい上げ、その腕の先に嵐の炎を乗せた。
切り裂いたその軌道を、真っ赤な炎が走っていく。
炎に当てられた屍どもは、塵になって崩れ落ちていく。
その道を奴良リクオが走っていくのを追うように、再び屍どもが埋め尽くしていく。
「てめぇらの相手はこっちだぁ!」
派手に死ぬ気の炎を噴き上げて、亡者達の意識を引き付ける。
死ぬ気の炎は生命エネルギーだ。
死体どもには魅惑的だろう。
オレに向かってきた骸骨の群れの一部が、二振りの鎌に吹き飛ばされていく。
鎌鼬の仕業か。
後から生えてきた氷を足場にして、竜二の前まで戻る。
一応、今はこいつとバディ組んでるようなもんだしな。
亡者の群れの中に、か弱い陰陽師一人を残していくのは薄情だろうよ。
「言言が効きづらいな」
「ただの骨を術式で動かしてる。粉々にするか術者を殺すかのどちらかしかねぇ」
「なら、溶かしてやるまでだ」
僅かな光を受けて金色に輝く蓮の花が、亡者の頭上に浮かび上がる。
降り注ぐ黄金の水が、どろりと骸骨を溶かした。
「やるじゃねぇかぁ」
「当然だろう」
どうも連中は斬っても撃っても関係ないらしいから、仕方なしに嵐の炎で塵にするより他手段がない。
しかし塵にしたところで、亡者の数は山程あって、倒した端から新しいのが沸いて出る。
結局奴らを倒しきることが出来ないまま、奴良リクオの手で術者が倒されるまで、オレ達は戦い続けたのであった。
あの戦い慣れた動きや、見た目に合わない言動。
延命して何百年も生き続けていると言うのならば、納得だ。
怯える赤河童を横目に、竜二の隣でちびちびと団子を食べていた。
朝食後だと言うのに、こいつらよくもまあ、こんなでかいパフェなんて食えたもんだな。
「相手が誰だろうと、やることは変わらねぇだろぉ」
「だが相手の正体がわかったのは大きい。それに、祢々切丸を取りに行かなければならないことに、変わりはない」
「その通りだな!ほれ、お前らの分の防寒具だ。冷麗が持ってきてくれたぜ」
「……」
受け取った服を持ち上げ、視線を少し離れた場所に送る。
上機嫌に笑顔を浮かべる彼女に、気持ち程度の笑顔を張り付けてお礼を伝えた。
小さな子供が、憧れのヒーローを見るようなキラキラの瞳。
そんな人間じゃねぇって言うべきだろうけど、何も言われてねぇのにいきなり反論するのもおかしくて、仕方なしに好意を受けとり続けるわけだ。
ただ、別れは思いの外あっさりとしたものだった。
じゃあ行くかと、奴良リクオが荷物を持ち上げると、別れを惜しむわけでもなく、負けんじゃねぇぞとか、気を付けてとか言いながら、親しげだった連中が見送りに立つ。
オレもその横で見送られながら、一際大きく手を振る冷麗に、小さく手を振り返していた。
「誰も引き留めねぇんだな」
「は?」
「仲良しこよしの妖怪一家なら、仲間が死地に向かうのを引き留めるのかと思ったが」
「ちょっと何?あんた馬鹿にしてるの?」
「……オレ達は奴良組と違って、妖怪世界の傭兵集団の流れだ。死地に向かうのを一々泣いて惜しむ奴はいない」
「……そうかい。思ってたよりも」
「酷い?」
「はっ!真逆だ。好きだぜぇ、そういうの」
脱いでいたスーツの上着を肩に掛けて、駅へと脚を向けた。
奴良組のいやに過保護な連中はイラつくが、遠野勢の在り方は悪くなかった。
死も生も日常の一部として振る舞う彼らは、荒くれの中で生きてきた自分に馴染む。
足取り軽く列車に乗り込み、目的地へはその日の内に辿り着いた。
恐山。
修験の者共が力を磨く霊峰。
普通なら寄り付く妖怪はいない。
そんなところに百鬼の主が踏み込めば、寄って集って祓いにかかられる……かと思ったが、明らかに陰陽師然としている竜二や、スーツ姿のオレがいるせいか、様子を窺うばかりでこちらに手を出してくる様子はない。
コツコツと米神を叩いて、周囲をざっと見渡す。
こちらを窺う人影が幾つかあり、その中にひとつ、異様な空気を纏う黒い人影が。
「……う゛お゛ぉい、何か来るぞぉ!」
「!これは、死霊……!?」
固く冷たい土塊を掻き分けて、枯れ枝のような手が伸び上がる。
骨、まごうことなき死体が、群れをなして道を塞いでいた。
先程の人影は、死霊の群れの向こうでぼそぼそと何かを呟いている。
これはきっと奴の術だろう。
死霊操術(ネクロマンシー)なんて、生死を超越しようとする御門院の連中らしいもんじゃねぇか。
懐から取り出した折り畳み式の剣を、目の前に飛び込んできた骸骨を大上段から斬り倒す。
だがすぐに、バラバラに砕けた骨が再生し、同じ姿で立ち塞がる。
「ちっ、キリがねぇ」
「おい、お前こいつら燃やせねぇのか」
「塵にしてやっても良いがぁ……如何せん数が多すぎる。ここでぐだぐだしてる内に、敵が秋房の方に行く。ムカつくがぁ、奴良リクオ、道は開けてやる。お前、先に秋房を探してこい」
「助かる!氷麗、イタク、お前らは……」
「ここで敵を食い止めます!」
「お前は行け、リクオ!」
「ああ、頼んだぞ!」
紫紺を呼び出し、人式一体を発動させる。
変異した獣の腕を振るい上げ、その腕の先に嵐の炎を乗せた。
切り裂いたその軌道を、真っ赤な炎が走っていく。
炎に当てられた屍どもは、塵になって崩れ落ちていく。
その道を奴良リクオが走っていくのを追うように、再び屍どもが埋め尽くしていく。
「てめぇらの相手はこっちだぁ!」
派手に死ぬ気の炎を噴き上げて、亡者達の意識を引き付ける。
死ぬ気の炎は生命エネルギーだ。
死体どもには魅惑的だろう。
オレに向かってきた骸骨の群れの一部が、二振りの鎌に吹き飛ばされていく。
鎌鼬の仕業か。
後から生えてきた氷を足場にして、竜二の前まで戻る。
一応、今はこいつとバディ組んでるようなもんだしな。
亡者の群れの中に、か弱い陰陽師一人を残していくのは薄情だろうよ。
「言言が効きづらいな」
「ただの骨を術式で動かしてる。粉々にするか術者を殺すかのどちらかしかねぇ」
「なら、溶かしてやるまでだ」
僅かな光を受けて金色に輝く蓮の花が、亡者の頭上に浮かび上がる。
降り注ぐ黄金の水が、どろりと骸骨を溶かした。
「やるじゃねぇかぁ」
「当然だろう」
どうも連中は斬っても撃っても関係ないらしいから、仕方なしに嵐の炎で塵にするより他手段がない。
しかし塵にしたところで、亡者の数は山程あって、倒した端から新しいのが沸いて出る。
結局奴らを倒しきることが出来ないまま、奴良リクオの手で術者が倒されるまで、オレ達は戦い続けたのであった。