×ぬら孫
言葉よりも行動が先にあった。
それは、前からずっとそうだった。
花開院に捕らえられてからも、オレにこき使われるようになってからも。
それが悪いとは思わない。
むしろ普段は、それは良い方に勘定されることだろう。
都市伝説の調査だって、こいつがいなけりゃ進みはかなり遅くなっていたはずだ。
花開院は人材資源こそそれなりにあるが、こういった調査に関していえばひどく疎い。
こいつの癖には助けられてきたのだ。
だけど、けれど、今ばかりは、まずい。
隣で爆発的に膨れ上がった殺気は、オレが止めるまもなく凝縮して、一直線に圓潮へと放たれた。
血潮の如く燃え盛る、紅い炎。
月のような銀色の長髪は見えなくなっていた。
横に立っていたのは、オレの見たことがない白人の大男。
炎と同じ真っ赤な瞳、短い黒髪、顔中……いや、身体中を覆う傷痕。
その手が握る双銃が、炎を噴いて圓潮へと襲い掛かっていた。
凄まじい早撃ち、そして威力。
それが奴へとぶつかる手前で、紅い火影に紛れて、丸い光の筋が見えた。
ごうごうと奴を呑み込もうとしていた炎が、弾かれて天井へと伸びる。
炎はそこで止まらずに、天井を塵に変えながらしばらく抉って止まった。
「ちっ!」
「おお、怖い怖い。やはりあんたのそれは、恐ろしいね。正体不明なところが、特に」
「鬼崎、止めろ。攻撃したところでどうにもならねえだろう」
「……っ」
声をかければ、隣の大男はたちまち姿を変えて、元の銀色の姿に戻る。
戻った瞬間、大きく息を吐いて、ゼエゼエと呼吸が乱れ始める。
あまり見たことはなかったが、この術、思っていたよりも負担がでかいらしい。
「──っおい!お前我を強引に使うんじゃあない!返りを受けるのはお前だぞ!」
「うるせぇ……げほっ」
「……強引な人式一体術、そりゃ負担も大きいはずだな」
「……文句あるかよ」
「ない。お陰かはわからんが、敵の一端が尻尾を出した」
あの光の円……法陣だ。
あれは妖怪が使うものじゃない。
あれは、人の使う術……!
そうしている内に、圓潮の語りが再び始まる。
奴の口上に合わせて、練り上げられた畏が寒気となって背筋を伝う。
一行の先頭に立っていた奴良リクオを、突然横から何かの塊が襲い、奴の体を吹っ飛ばした。
辛うじてクリティカルヒットこそ避けたようだったが、壁に叩き付けられて、身動きが取れなくなる。
相変わらず水越しの歪んだ声が、彼らの背後で動き出したものの正体を告げる。
現れたるは『青行燈』。
かつてより百物語の最後に現れると伝えられる、怪異全般を指す名称。
本来は女の姿で現れ、特に悪事を成すわけでもないと伝えられているが、この青行燈はどうやら、随分と好戦的なようである。
集まった畏は、人々が妖怪に、日本を滅ぼすとされる奴良リクオに抱く恐怖心。
そしてそれを受け取った青行燈は、奴良リクオを、妖怪を倒すまで止まらない。
しかもこの強い思念、尋常じゃあない。
圓潮の力で、底上げされてるとでもいうのか!?
あまりにも簡単に吹き飛ばされた奴良リクオ達。
それでも果敢に飛びかかるが、その刃は届くことなく、さらにこちらが引けば次には頭の方から光線が飛んでくる。
飛んでもない化け物だ。
妖怪を倒してくれという願いを込められた器……ただではここまでの威力はないだろうそれを、圓潮の言霊がそう在れかしと縛り付け、結果としてこの姿を顕現させるに至ったか。
光線を避け、何とか被害の外へと避難する。
「くっ……」
にしても範囲が広すぎる……!
戦いの余波を食らいそうになって、守護符で何とか防ごうと構える。
だがオレと光線の間に、鬼崎の姿が滑り込んだ。
揺らめく青い炎が、光線の進路を逸らした。
「モタモタしてるなぁ!巻き込まれて殺されるぞぉ!」
「お前と違って身体能力は人並みなんだよ……!」
「とにかくあの化け物の攻撃範囲外まで下がる。今の内だぁ、足元に気を付けて進め」
「わかってる。……圓潮達も動いた。追うぞ」
青行燈が暴れる影で、圓潮達が水路の一つへと入るのが見えた。
鬼崎の逸らした光線がまた飛んでくる前に、奴らの消えた通路へ踏みいる。
「先行しろ。次はいきなり攻撃すんじゃねえぞ」
「わかってる。拘束して、何がなんでも吐かせる」
「……いや、まあ……良いか」
元々オレだって相手を捕らえて聞き出そうとはしていたのだ。
突然相手を殺そうとするよりは、大分ましだ。
通路入り口の向こうの広場では、まだ奴良リクオ達が戦いを続けている。
オレはたぶん、あそこじゃ大して役には立てん。
鬼崎なら使えるだろうが……あっちよりも大元を断つ方に力を借りたい。
正直、オレの力だけで奴らを捕まえるのは難しい。
奴らの力を借りることは出来ないが、鬼崎はこちらの手駒だ。
少しばかり後ろ髪は引かれるが、あそこは任せるしかない。
曲がり角で様子を窺っていた鬼崎が、こちらへ来いとハンドサインを出す。
気付かれないように歩く度に鳴る水の音を抑えながら、ゆっくりと歩み寄る。
先を進む鬼崎は……何故だろうか、まるで気配も音も感じさせずに、するすると水の上を滑るかのように進んでいく。
それが京都を暗躍した事で培われた技術なのか、それとも元々こういう術を知っていたのかはわからないが……どうせ後で聞いたところで、黙り込むか誤魔化されるかでろくに答えやしないだろう。
いつまで続くのかもわからなかった、酷く悠長な追いかけっこはしかし、始めてから程なくして見えた開けた場所で終わりを迎える。
先ほどと似たような……けれど乱立する柱で視界がかなり遮られる。
追い付いた鬼崎の隣で耳を澄ませ、奴らの話し声を拾い取る。
ボソボソと顔を寄せて話し合う内容はどうしても聞こえない。
だがそんな彼らへ、声をかけるものがある。
「圓潮師匠!」
着物姿の男は、まるで待ち望んだ子が産まれたのを知らされたばかりの親のような、歓びと期待に頬を赤く染めて、涙ぐんだ目で圓潮に問いかける。
「もしや山ン本様が……復活なされたのか?」
正体はわからない。
だが恐らくはこいつも一派の人間で、けれど圓潮のやらかした裏切りの事は、全く知るよしもないのだろう。
鬼崎に指で合図を送る。
こいつを潜ませて、オレが気を引いている間にこいつを捕まえさせる。
脳が倒れたことを教えられ、動揺する男を見る圓潮の目は、酷く冷たい。
言言で作るオレ自身の影を使って、奴へと囁きかける。
地下水路全体がずしんと揺れた。
そろそろ向こうも片が着いたか?
姿を現し鵺の話を出してみれば、奴の表情が重たくなるのがわかる。
もっと話を聞き出さなければ。
真っ直ぐ圓潮に向けて言言を撃つ。
その防御にあの人影が前に飛び出してきた。
オレの攻撃は当然のごとく下される。
あちらの力のが圧倒的に強いのだ。
言言は届くことなく地面に引きずり落とされる。
わかってる、鬼崎の攻撃を防いだ以上、オレの攻撃などろくに効きやしないだろう事は。
しかしこちらの攻撃と同時に、奴らの背後から『二つの影』が飛び出す。
先に飛び出した影が、圓潮を護るように立っていた薙刀持ちの妖怪に抑えられる。
だがそれは、奴の式神。
二人いた護衛を両方抑え、その隙を衝いて素早く飛び出した鬼崎が、圓潮の脚に向けて剣を振り下ろした。
決まるかと、思った。
けれどその切っ先を、再びあの法陣が止めた。
陣が衝撃を受け止めた重たい音と、二つが競り合い火花を散らす音。
直後、鬼崎の体はふわりと宙へ舞い上がり、浮いたままにバランスを取り直して、オレの目の前へと着地した。
人間業とは思えぬ攻防。
そしてその相手の姿が、光の照らす元へと現れる。
白い狩衣、構えた手剣、纏う法力の類いがオーラとなってこちらに伝わる。
「君は、花開院家の者だね。そちらの子は、少し変わっているようだけれども」
一瞬の内に、己の心臓を捕まれたかのような怖気に襲われる。
奴の正体についての推測が、鵺との繋がりについてが、奴らが何故ここまで執拗に奴良組を狙うのかが、全て繋がる。
気が付くと自分を囲むように、光の輪が……いいやこれは、七芒星が……、間違いない、この術は『あの一族』の……!
七芒星の陣が、あっという間に力を増して、首を落とさんと迫り来る。
鬼崎を呼ぶような時間はなかった。
それどころか、目を閉じる程の間も。
視界がぐるんと回転する。
黒い布、青い炎、黒い炎……一瞬だけだが、首が落ちたにも関わらず、意識が残っているのかと思わされた。
「っ……大丈夫かぁ!?」
「あ、ああ……」
二人の手がオレを支えていた。
一人は鬼崎、こいつも首から血を流していて、攻撃を受けたのだと理解する。
そしてもう片方は、たしかこいつは奴良組の妖怪だったはず。
いや、あの騙された男を追っていたのか。
しかし、まずい、まずいぞ……。
この一族が出てきたって事は、つまりそう言うこと……!
「黒!竜二!銀色!」
「三代目……!!」
「踏み込むな奴良リクオ!!」
「!?」
鬼崎は既に退いている。
奴もまた、手を挙げてリクオ達を制していた。
地面には既に、あの七芒星が広がっている。
「結界……?竜二、誰だ……?こいつは」
問い掛けに、答えようとする口は重たい。
「こいつは……『御門院家』だ」
「御門院家……?」
「──安倍晴明の、子孫だ」
かつての因縁から奴良組を恨む百物語組。
晴明復活の為に、目上の瘤である奴良組を潰したい鵺の陣営。
奴らが、手を組んでいるのなら、敵は予想していた以上に、強大且つ、凶悪だ。
それは、前からずっとそうだった。
花開院に捕らえられてからも、オレにこき使われるようになってからも。
それが悪いとは思わない。
むしろ普段は、それは良い方に勘定されることだろう。
都市伝説の調査だって、こいつがいなけりゃ進みはかなり遅くなっていたはずだ。
花開院は人材資源こそそれなりにあるが、こういった調査に関していえばひどく疎い。
こいつの癖には助けられてきたのだ。
だけど、けれど、今ばかりは、まずい。
隣で爆発的に膨れ上がった殺気は、オレが止めるまもなく凝縮して、一直線に圓潮へと放たれた。
血潮の如く燃え盛る、紅い炎。
月のような銀色の長髪は見えなくなっていた。
横に立っていたのは、オレの見たことがない白人の大男。
炎と同じ真っ赤な瞳、短い黒髪、顔中……いや、身体中を覆う傷痕。
その手が握る双銃が、炎を噴いて圓潮へと襲い掛かっていた。
凄まじい早撃ち、そして威力。
それが奴へとぶつかる手前で、紅い火影に紛れて、丸い光の筋が見えた。
ごうごうと奴を呑み込もうとしていた炎が、弾かれて天井へと伸びる。
炎はそこで止まらずに、天井を塵に変えながらしばらく抉って止まった。
「ちっ!」
「おお、怖い怖い。やはりあんたのそれは、恐ろしいね。正体不明なところが、特に」
「鬼崎、止めろ。攻撃したところでどうにもならねえだろう」
「……っ」
声をかければ、隣の大男はたちまち姿を変えて、元の銀色の姿に戻る。
戻った瞬間、大きく息を吐いて、ゼエゼエと呼吸が乱れ始める。
あまり見たことはなかったが、この術、思っていたよりも負担がでかいらしい。
「──っおい!お前我を強引に使うんじゃあない!返りを受けるのはお前だぞ!」
「うるせぇ……げほっ」
「……強引な人式一体術、そりゃ負担も大きいはずだな」
「……文句あるかよ」
「ない。お陰かはわからんが、敵の一端が尻尾を出した」
あの光の円……法陣だ。
あれは妖怪が使うものじゃない。
あれは、人の使う術……!
そうしている内に、圓潮の語りが再び始まる。
奴の口上に合わせて、練り上げられた畏が寒気となって背筋を伝う。
一行の先頭に立っていた奴良リクオを、突然横から何かの塊が襲い、奴の体を吹っ飛ばした。
辛うじてクリティカルヒットこそ避けたようだったが、壁に叩き付けられて、身動きが取れなくなる。
相変わらず水越しの歪んだ声が、彼らの背後で動き出したものの正体を告げる。
現れたるは『青行燈』。
かつてより百物語の最後に現れると伝えられる、怪異全般を指す名称。
本来は女の姿で現れ、特に悪事を成すわけでもないと伝えられているが、この青行燈はどうやら、随分と好戦的なようである。
集まった畏は、人々が妖怪に、日本を滅ぼすとされる奴良リクオに抱く恐怖心。
そしてそれを受け取った青行燈は、奴良リクオを、妖怪を倒すまで止まらない。
しかもこの強い思念、尋常じゃあない。
圓潮の力で、底上げされてるとでもいうのか!?
あまりにも簡単に吹き飛ばされた奴良リクオ達。
それでも果敢に飛びかかるが、その刃は届くことなく、さらにこちらが引けば次には頭の方から光線が飛んでくる。
飛んでもない化け物だ。
妖怪を倒してくれという願いを込められた器……ただではここまでの威力はないだろうそれを、圓潮の言霊がそう在れかしと縛り付け、結果としてこの姿を顕現させるに至ったか。
光線を避け、何とか被害の外へと避難する。
「くっ……」
にしても範囲が広すぎる……!
戦いの余波を食らいそうになって、守護符で何とか防ごうと構える。
だがオレと光線の間に、鬼崎の姿が滑り込んだ。
揺らめく青い炎が、光線の進路を逸らした。
「モタモタしてるなぁ!巻き込まれて殺されるぞぉ!」
「お前と違って身体能力は人並みなんだよ……!」
「とにかくあの化け物の攻撃範囲外まで下がる。今の内だぁ、足元に気を付けて進め」
「わかってる。……圓潮達も動いた。追うぞ」
青行燈が暴れる影で、圓潮達が水路の一つへと入るのが見えた。
鬼崎の逸らした光線がまた飛んでくる前に、奴らの消えた通路へ踏みいる。
「先行しろ。次はいきなり攻撃すんじゃねえぞ」
「わかってる。拘束して、何がなんでも吐かせる」
「……いや、まあ……良いか」
元々オレだって相手を捕らえて聞き出そうとはしていたのだ。
突然相手を殺そうとするよりは、大分ましだ。
通路入り口の向こうの広場では、まだ奴良リクオ達が戦いを続けている。
オレはたぶん、あそこじゃ大して役には立てん。
鬼崎なら使えるだろうが……あっちよりも大元を断つ方に力を借りたい。
正直、オレの力だけで奴らを捕まえるのは難しい。
奴らの力を借りることは出来ないが、鬼崎はこちらの手駒だ。
少しばかり後ろ髪は引かれるが、あそこは任せるしかない。
曲がり角で様子を窺っていた鬼崎が、こちらへ来いとハンドサインを出す。
気付かれないように歩く度に鳴る水の音を抑えながら、ゆっくりと歩み寄る。
先を進む鬼崎は……何故だろうか、まるで気配も音も感じさせずに、するすると水の上を滑るかのように進んでいく。
それが京都を暗躍した事で培われた技術なのか、それとも元々こういう術を知っていたのかはわからないが……どうせ後で聞いたところで、黙り込むか誤魔化されるかでろくに答えやしないだろう。
いつまで続くのかもわからなかった、酷く悠長な追いかけっこはしかし、始めてから程なくして見えた開けた場所で終わりを迎える。
先ほどと似たような……けれど乱立する柱で視界がかなり遮られる。
追い付いた鬼崎の隣で耳を澄ませ、奴らの話し声を拾い取る。
ボソボソと顔を寄せて話し合う内容はどうしても聞こえない。
だがそんな彼らへ、声をかけるものがある。
「圓潮師匠!」
着物姿の男は、まるで待ち望んだ子が産まれたのを知らされたばかりの親のような、歓びと期待に頬を赤く染めて、涙ぐんだ目で圓潮に問いかける。
「もしや山ン本様が……復活なされたのか?」
正体はわからない。
だが恐らくはこいつも一派の人間で、けれど圓潮のやらかした裏切りの事は、全く知るよしもないのだろう。
鬼崎に指で合図を送る。
こいつを潜ませて、オレが気を引いている間にこいつを捕まえさせる。
脳が倒れたことを教えられ、動揺する男を見る圓潮の目は、酷く冷たい。
言言で作るオレ自身の影を使って、奴へと囁きかける。
地下水路全体がずしんと揺れた。
そろそろ向こうも片が着いたか?
姿を現し鵺の話を出してみれば、奴の表情が重たくなるのがわかる。
もっと話を聞き出さなければ。
真っ直ぐ圓潮に向けて言言を撃つ。
その防御にあの人影が前に飛び出してきた。
オレの攻撃は当然のごとく下される。
あちらの力のが圧倒的に強いのだ。
言言は届くことなく地面に引きずり落とされる。
わかってる、鬼崎の攻撃を防いだ以上、オレの攻撃などろくに効きやしないだろう事は。
しかしこちらの攻撃と同時に、奴らの背後から『二つの影』が飛び出す。
先に飛び出した影が、圓潮を護るように立っていた薙刀持ちの妖怪に抑えられる。
だがそれは、奴の式神。
二人いた護衛を両方抑え、その隙を衝いて素早く飛び出した鬼崎が、圓潮の脚に向けて剣を振り下ろした。
決まるかと、思った。
けれどその切っ先を、再びあの法陣が止めた。
陣が衝撃を受け止めた重たい音と、二つが競り合い火花を散らす音。
直後、鬼崎の体はふわりと宙へ舞い上がり、浮いたままにバランスを取り直して、オレの目の前へと着地した。
人間業とは思えぬ攻防。
そしてその相手の姿が、光の照らす元へと現れる。
白い狩衣、構えた手剣、纏う法力の類いがオーラとなってこちらに伝わる。
「君は、花開院家の者だね。そちらの子は、少し変わっているようだけれども」
一瞬の内に、己の心臓を捕まれたかのような怖気に襲われる。
奴の正体についての推測が、鵺との繋がりについてが、奴らが何故ここまで執拗に奴良組を狙うのかが、全て繋がる。
気が付くと自分を囲むように、光の輪が……いいやこれは、七芒星が……、間違いない、この術は『あの一族』の……!
七芒星の陣が、あっという間に力を増して、首を落とさんと迫り来る。
鬼崎を呼ぶような時間はなかった。
それどころか、目を閉じる程の間も。
視界がぐるんと回転する。
黒い布、青い炎、黒い炎……一瞬だけだが、首が落ちたにも関わらず、意識が残っているのかと思わされた。
「っ……大丈夫かぁ!?」
「あ、ああ……」
二人の手がオレを支えていた。
一人は鬼崎、こいつも首から血を流していて、攻撃を受けたのだと理解する。
そしてもう片方は、たしかこいつは奴良組の妖怪だったはず。
いや、あの騙された男を追っていたのか。
しかし、まずい、まずいぞ……。
この一族が出てきたって事は、つまりそう言うこと……!
「黒!竜二!銀色!」
「三代目……!!」
「踏み込むな奴良リクオ!!」
「!?」
鬼崎は既に退いている。
奴もまた、手を挙げてリクオ達を制していた。
地面には既に、あの七芒星が広がっている。
「結界……?竜二、誰だ……?こいつは」
問い掛けに、答えようとする口は重たい。
「こいつは……『御門院家』だ」
「御門院家……?」
「──安倍晴明の、子孫だ」
かつての因縁から奴良組を恨む百物語組。
晴明復活の為に、目上の瘤である奴良組を潰したい鵺の陣営。
奴らが、手を組んでいるのなら、敵は予想していた以上に、強大且つ、凶悪だ。