×ぬら孫
他者の姿を真似る妖怪の、その目的が明らかになったのは、飛んできた妖怪……烏、だろうか、そいつの伝令によってだった。
敵妖怪の目的は、奴良組本家。
そしてそこにいるリクオの母親、若菜だという。
助けに行くか行かないかで惑う少年の姿を、オレは遠目に眺めるだけだ。
竜二がこいつらの味方をすると言うのなら、オレもまた味方として動くことになる。
望むのならば、今すぐその本家とやらに向かったって良い。
……が、そもそもの目的は、この騒動を生み出した中心、百物語組とやらを潰すことだ。
竜二は当然犯人を追うつもりだろうし、オレを野放しにもしないだろう。
先程、奴良組の連中と話した限り、敵の目的は奴良組の孤立にあるようだった。
人に悪と謗られて、百物語組からは壊滅を狙われている。
頼れるものはごく僅か。
奴良リクオの友人らしき少年からは、どれ程現場の映像を流しても、真犯人がいると訴えても、誰もそれを信じてくれないと報告がある。
ネット中にばらまかれた言葉。
その発信者を、オレ達は言霊使いと呼んでいる。
奴の発する言葉の全てが、人の思考を縛り付ける呪詛になる。
そして新しい呪詛が……。
「夜明けと共に救世主が現れ、奴良リクオを殺すだろう……。ん゛、こっちでも確認したぜぇ。あちこちで書き込まれてる。また件の予言なんて言ってるがぁ……十中八九、例の都市伝説を作ってた野郎の仕業だろうなぁ」
「……このタイミングだ。間違いないだろう」
がしがしと頭を掻く。
全く次から次へと面倒くせぇ。
一番腹が立つのは、情報不足や準備不足ゆえに、こちらが全て後手に回っていることだ。
少し下がって、奴の話した圓潮という名を調べる。
烏が来たのは、その時だった。
その話を一応は耳に入れつつ、ネットの海へと潜る。
野郎の巣である青蛙亭はこの騒ぎで閉められている。
ここに潜んでる可能性もなくはないだろうが、しかしそんな分かり易い所をアジトにはしないだろう。
ならば、もっと人目につかないところ。
異形が集まっても、目立たない場所。
相手が人ならば、人の多い場所に紛れて潜むこともあるだろうが、どれ程外見を取り繕ったところでその本性は化け物。
人で溢れる東京で、一体どこならば奴らが潜めるだろう。
元々、百物語組という連中は、深川の辺りを拠点としていた。
山ン本五郎左衛門という奴の住居がそこだったからだ。
ただ、単純にそこに向かっても、奴らを見付けることは出来んだろう。
見付けづらい場所、人の目が届かない場所、闇の中……奴らがいるのは、さて、どこだ?
「鬼崎、怪しいところは見付けたか?」
竜二の問い掛けに、少しばかり顎に手を当てて考え込む。
はっとした様子でこちらを見る奴良リクオ達を視界に捉えつつ、一先ずの見解を伝える。
「居るなら、人の目がない所だろう。広くて、閉ざされた場所」
「そんな曖昧な答えは必要ない。お前、どこにいるかわかってるだろう」
「おいおい、わかんねぇもんを無理に聞き出すのは……」
「この馬鹿は、肝心なところを隠す癖がある。
下手に引けば聞き逃す」
鋭い目、涼しげな目、まあるい目、厳つい目、敵意を隠さない目……色んな目に見詰められて、自分が苦い顔になってしまったのが分かる。
面倒だ、まったく、面倒くさい。
「少しは自分で考えろぉ。東京でそう言う場所は少ない。考えられるとしたら、地下水路が最も可能性が高い。東京中の地下に張り巡らされてるし、移動の利便性を考えても、そこほど条件の良い場所はないだろうなぁ」
「……ホントに当たり付けてたのね」
「なるほど、確かに一理あるな」
「そこまで分かっていて、どうしてお前、黙ってた」
「おお、そうだよ!お前京都じゃ好き勝手やってたみたいだがなぁ……ここは奴良組のシマだ!ここに来たからにゃオレ達に協力してもらわねえと困るぜ」
「……ちっ」
「あー!舌打ち!リクオ様~、今この人舌打ちしてましたよ!」
「まあ良いじゃねーか。とりあえずは二人とも、人を護るって点じゃあオレらと同じ、味方だろう?頼むぜ、銀色の」
騒がしい奴らだ。
どうにも、イラつく。
奴良リクオが差し出した手は、一瞥した後、握り返すことなく無視した。
それに対して雪女らしき妖怪が怒っていたが、オレには関係ない。
経緯はともかく、地下水路を目指すことを決めたらしい連中が東京の道を走り出す。
その後ろを着いて走りながら、唯一真っ当な人間である竜二が遅れないよう、少しだけ気に掛けてやる。
「……お前、体調に変化はないか」
「はぁ?」
「呪いの事だ。あれだけ暴れて、悪化してないだろうな」
ああ、気遣われていたのはオレの方もか。
今のところ体調に変化はない。
素直に答えるのも癪で、軽く肩をすくめるだけで返した。
「油断するなよ」
「へーへー」
「っ……くそ、あいつら早いな」
「背負ってやろうかぁ?」
「いらん」
走る速度を上げたのを見ながら、オレも再び前を見据えて、脚の回転を早めた。
敵妖怪の目的は、奴良組本家。
そしてそこにいるリクオの母親、若菜だという。
助けに行くか行かないかで惑う少年の姿を、オレは遠目に眺めるだけだ。
竜二がこいつらの味方をすると言うのなら、オレもまた味方として動くことになる。
望むのならば、今すぐその本家とやらに向かったって良い。
……が、そもそもの目的は、この騒動を生み出した中心、百物語組とやらを潰すことだ。
竜二は当然犯人を追うつもりだろうし、オレを野放しにもしないだろう。
先程、奴良組の連中と話した限り、敵の目的は奴良組の孤立にあるようだった。
人に悪と謗られて、百物語組からは壊滅を狙われている。
頼れるものはごく僅か。
奴良リクオの友人らしき少年からは、どれ程現場の映像を流しても、真犯人がいると訴えても、誰もそれを信じてくれないと報告がある。
ネット中にばらまかれた言葉。
その発信者を、オレ達は言霊使いと呼んでいる。
奴の発する言葉の全てが、人の思考を縛り付ける呪詛になる。
そして新しい呪詛が……。
「夜明けと共に救世主が現れ、奴良リクオを殺すだろう……。ん゛、こっちでも確認したぜぇ。あちこちで書き込まれてる。また件の予言なんて言ってるがぁ……十中八九、例の都市伝説を作ってた野郎の仕業だろうなぁ」
「……このタイミングだ。間違いないだろう」
がしがしと頭を掻く。
全く次から次へと面倒くせぇ。
一番腹が立つのは、情報不足や準備不足ゆえに、こちらが全て後手に回っていることだ。
少し下がって、奴の話した圓潮という名を調べる。
烏が来たのは、その時だった。
その話を一応は耳に入れつつ、ネットの海へと潜る。
野郎の巣である青蛙亭はこの騒ぎで閉められている。
ここに潜んでる可能性もなくはないだろうが、しかしそんな分かり易い所をアジトにはしないだろう。
ならば、もっと人目につかないところ。
異形が集まっても、目立たない場所。
相手が人ならば、人の多い場所に紛れて潜むこともあるだろうが、どれ程外見を取り繕ったところでその本性は化け物。
人で溢れる東京で、一体どこならば奴らが潜めるだろう。
元々、百物語組という連中は、深川の辺りを拠点としていた。
山ン本五郎左衛門という奴の住居がそこだったからだ。
ただ、単純にそこに向かっても、奴らを見付けることは出来んだろう。
見付けづらい場所、人の目が届かない場所、闇の中……奴らがいるのは、さて、どこだ?
「鬼崎、怪しいところは見付けたか?」
竜二の問い掛けに、少しばかり顎に手を当てて考え込む。
はっとした様子でこちらを見る奴良リクオ達を視界に捉えつつ、一先ずの見解を伝える。
「居るなら、人の目がない所だろう。広くて、閉ざされた場所」
「そんな曖昧な答えは必要ない。お前、どこにいるかわかってるだろう」
「おいおい、わかんねぇもんを無理に聞き出すのは……」
「この馬鹿は、肝心なところを隠す癖がある。
下手に引けば聞き逃す」
鋭い目、涼しげな目、まあるい目、厳つい目、敵意を隠さない目……色んな目に見詰められて、自分が苦い顔になってしまったのが分かる。
面倒だ、まったく、面倒くさい。
「少しは自分で考えろぉ。東京でそう言う場所は少ない。考えられるとしたら、地下水路が最も可能性が高い。東京中の地下に張り巡らされてるし、移動の利便性を考えても、そこほど条件の良い場所はないだろうなぁ」
「……ホントに当たり付けてたのね」
「なるほど、確かに一理あるな」
「そこまで分かっていて、どうしてお前、黙ってた」
「おお、そうだよ!お前京都じゃ好き勝手やってたみたいだがなぁ……ここは奴良組のシマだ!ここに来たからにゃオレ達に協力してもらわねえと困るぜ」
「……ちっ」
「あー!舌打ち!リクオ様~、今この人舌打ちしてましたよ!」
「まあ良いじゃねーか。とりあえずは二人とも、人を護るって点じゃあオレらと同じ、味方だろう?頼むぜ、銀色の」
騒がしい奴らだ。
どうにも、イラつく。
奴良リクオが差し出した手は、一瞥した後、握り返すことなく無視した。
それに対して雪女らしき妖怪が怒っていたが、オレには関係ない。
経緯はともかく、地下水路を目指すことを決めたらしい連中が東京の道を走り出す。
その後ろを着いて走りながら、唯一真っ当な人間である竜二が遅れないよう、少しだけ気に掛けてやる。
「……お前、体調に変化はないか」
「はぁ?」
「呪いの事だ。あれだけ暴れて、悪化してないだろうな」
ああ、気遣われていたのはオレの方もか。
今のところ体調に変化はない。
素直に答えるのも癪で、軽く肩をすくめるだけで返した。
「油断するなよ」
「へーへー」
「っ……くそ、あいつら早いな」
「背負ってやろうかぁ?」
「いらん」
走る速度を上げたのを見ながら、オレも再び前を見据えて、脚の回転を早めた。