×ぬら孫

妖怪が増えてきた。
それに、どうも様子がおかしい。
妖怪を斬ったつもりだったのに、気付くとそれが少女に変わっている。
一般人を守りつつ、一度退いて竜二と話し合う。
「う゛お゛ぉい、これはどうなってやがる!」
「これは……!人を妖怪に変えてるのか……?」
「面倒なぁ……。だがぁ、オレの炎は効くらしいなぁ!」
雨の炎を広げ、更にアーロを目の前の鬼にけしかける。
どうやら元人間の妖怪は、オレの扱う死ぬ気の炎に弱いらしく、強火で浴びせてやればわりと簡単に側が剥がれる。
少し時間と手間が掛かるが、まあ対処に問題はない。
頷き合い、竜二が防御、オレが攻撃と分担して掛かる。
炎単品の攻撃よりも、剣に纏わせて斬ったほうが効果が高いらしい。
何匹か切り裂けば、その後には斬った数だけの少女が現れる。
女……それも高校生くらいの子ばかり。
この事態の主犯はロリコンか何かか?
ムカつく……。
戦う力のない人間ばかりを巻き込んで、随分とまあ、陰湿なことだ。
「おらあ゛!」
「ぎゃあああ!」
イラつきはするが、剣を振る腕をぶらすわけにはいかない。
核が人間だってんなら、下手に切って中身まで死なせちゃまずいだろう。
かつてモスカごと9代目を焼き切った、沢田みたいにな。
「ふん……まあ、オレはそんなへまはしねぇが、なぁ!」
「おい、そっちので最後だ!」
「わかってる!くたばれやぁ!!」
「殺すなよ!」
「本気でやりゃあしねぇ!」
残った一体を倒す。
それと同時に、バイクに走る。
騒動の中心と見られる渋谷は、もう目と鼻の先。
着くのが早いに越したことはない。
乗り捨てていたバイクに股がり、竜二が後ろに座ったのを確認して、また先へと飛ばした。
後ろから、微かにサイレンが聞こえている。
倒れた少女達をそのままにしてきたのは心配だが、レスキューが来ているなら一先ずは大丈夫だろう。
オレ達が削り倒して開いた道の端から、更にまた妖怪が沸いて出てきている。
木っ端にも満たない雑魚ばかり。
しかしやはり、数は多い。
最初の数匹はアーロに任せて、数が増えてきたところで車を停めた。
少し先により大きな妖気の塊を感じる。
きっとそこに、奴良リクオがいる。
新しい妖怪はもう出てきていない。
産み出していた元凶は、奴らが倒したんだろう。
「よぉし、端からしらみ潰しに行くぞぉ」
「お前が命令してんじゃねぇ。さっきと同じだ。ツーマンで組んで攻守わかれて行くぞ。取り逃がすなよ」
「誰に言ってやがる!」
どがっと目の前の妖怪を蹴倒し、その首を炎を纏った剣ですぱんと切り落とした。
体の方が少女の姿を取り戻し、それを道の横にうずくまってた一般人の方へ押しやる。
「ぎゃー!なんで女の子!?」
「可愛いからって手ぇ出すんじゃねぇぞぉ!」
「わぎゃー!」
ついでに迫ってきていた純妖怪を、振り回した剣で電柱ごと切り飛ばした。
ここに来て人の変化した妖怪よりも、純粋な妖怪が増えた。
余計に変化した奴らを相手取るのが面倒になってきたな……。
「……くそうぜぇ。う゛お゛ぉい、一気に片付ける!竜二……少し離れてろぉ!」
「なにする気……おわっ!?」
数匹を蹴散らしてから、構えを取る。
──鮫特攻(スコントロ・ディ・スクアーロ)!
雨の炎が自分の周囲を固める。
力を込めた筋肉が、みしみしと軋む。
アスファルトを蹴り、塊になってる妖怪に突っ込んでいく。
「ふははは!テメェらぁ、雁首揃えてお優しいこったなぁ!今から纏めてぶった斬ってやるぜぇ!」
「完全に悪役の台詞じゃねーか!」
「黙ってろぉ!」
ずばん、と立ち並ぶ妖怪達の首を纏めて吹っ飛ばす。
すぐさま体勢を立て直し、方向を変えて走り出す。
スピードを落とさないままで、更に4、5匹の妖怪をアーロと共に齧り、突き殺す。
足を止めた先にはまた人の変化した妖怪。
今度のはでかい。
しかしそれを、一撃で斬り下ろす。
ずずん、と巨体が倒れ、その姿が消えた後にはまた少女が。
とりあえず、今目につくのはこれが最後か……?
この中心地から各方面へと散った奴らはまだ大量にいるのだろうが、一先ず周囲のでかいのは片付けられただろう。
後は、オレの攻撃を掻い潜った小物どもだが……。
もう渋谷は粗方決着が着いただろう。
通ってきた方からは、救急車のサイレン。
向こうからこっちはもう片が着いたと見て良いだろうか。
それに、奴良リクオがいると思われる方へ、ひとつの影が走っていくのが見える。
特徴的な長く波打つ髪に、再び地面を蹴って駆け出した。
何故か妙にどろどろと汚れている奴良リクオに近付き、隠し持った刃物を振り上げようとした化け物の頭を、躊躇なく貫いて殺す。
「……!?」
「ふん、久し振りだな、とでも言っておこうかぁ。奴良リクオぉ!」
にいっと笑って宣言すれば、帰ってくるのは驚きと殺意。
だが奴らが何かを言う前に、オレは後ろ頭に重たい拳骨を食らったのだった。


 * * *


「合流早々問題を起こすな、阿呆犬が」
「あ゛あ?挨拶してるだけで何が問題なんだぁ!?」
登場早々、毛倡妓の姿を頭から一刀両断し、不敵に笑った派手な男が、直ぐ様その後頭部をぶん殴られる。
大してダメージもなさそうに、殴られた場所を擦りながら、だいぶ柄の悪い態度でもう一人の男……花開院竜二へと言葉に返す。
持っていた大きな剣を降ろし、痩躯の男が長い銀髪を掻き上げる。
その色に記憶が想起された。
伏見稲荷で出会った土蜘蛛とそれと対峙した男。
二條城の上で羽衣狐……山吹乙女に兄と呼ばれたその人。
「確か……妖殺しの銀色?」
「そ、それよりリクオ様!毛倡妓が!何すんのよいきなりー!!」
「何って、陰陽師は基本、妖怪退治だろうが」
「……オレは陰陽師じゃねぇ」
「はっ、じゃあ陰陽師の飼い犬か?」
「またそれか。芸がない奴だなぁ」
「飼い主に芸は必要ないだろう」
「けっ」
軽快なテンポのやり取りと竜二の言葉に、彼が花開院の手の内にあるのだろう事が窺える。
倒された毛倡妓の姿へと目を移す。
……そこには、左の顔が破れ、化け物の姿を露出する死体が転がるのみである。
「この偽物があちこちに出てやがる。何人か斬ったがぁ……まだいそうだなぁ」
オレの疑問を察したか、銀色が面倒くさそうに死体を見下ろして言った。
しかしまあ、こいつが偽物だってのは明らかだった。
オレの部下に、人間が襲われるのを放って逃げ出して来るような妖怪はいねぇ。
そんな奴なら、どの道オレが切り捨てていた。
にしても、こいつらは一体何故、京都くんだりからわざわざ東京まで出てきたのだろうか。
素直に問い掛けると、伝えたいことがあってきたと返される。
それが何かを聞くことは、今は叶わなそうだ。
駆け付けた小妖怪達が、遅れて毛倡妓の偽物の情報を持ち込む。
奴らはこいつが、オレを狙っていたのだと言ったがしかし……。
「んな訳あるかぁ。こいつは大将首狙うようなレベルの妖怪じゃねぇ」
「……確かに、どう見ても雑魚だな。幹部じゃねえ。ほっといてやれよ」
こいつを斬った張本人と、助っ人であるイタクからの言葉となれば、これは間違いなく雑魚なのだろう。
だがこの変装妖怪は奴良組の幹部を倒している。
雑魚であるはずがないのだ。
「……また、撒かれたか?」
「ちょっと待て、じゃあこいつの本体は、誰を……狙ってんだよ!?」
銀色は興味なさげに鼻を鳴らす。
背中を悪寒が這い上った。
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