×ぬら孫
「ぬらりひょんとか言う奴、いねぇなぁ」
柱離宮に着いたとき、タイミングよく居合わせたぬら組の群れ。
見回したその中に、先程の特徴的なツートンカラーの髪の少年はいない。
「……先程の戦いで死んだのではないか?もしくは、傷を負って動けぬ、か。それとなぁ鮫弥、ぬらりひょんは奴の祖父じゃ。あれは孫……、まったく、才能があったとしても、若いだけの妖怪に、なぜあんな大物どもが着いていくのか……」
「俺に着いてきてるお前が言えることなのか、それは?」
「……お主は、別格、みたいな」
「あっそ」
みたいな、とか紫紺の柄じゃない気がするんだが、まあ別格らしいオレは、隠れたままぬら組の跡を尾行していく。
リングアニマル達は、ここ以外の地域へと放って、人を助けてやるようにと指示を出しているため、今はいない。
「柱離宮、だいぶ荒れてたなぁ」
「ぬら組の若いのがやったんだろう。人間に被害は出てないのだろう?ならば問題ないではないか」
「今はそうかもしんねぇけど、ずっとそうとは限らねぇだろぉ」
オレ達が到着したとき、京都の中でも指折りの観光名所である柱離宮は、凄まじい惨状を呈していた。
木は削られ、妖怪どもの血肉が散乱し、死臭が立ち込める、それはまるで地獄のような光景。
慣れてない人間が見たら、吐くこと間違いなしだ。
その妖怪、紫紺の言う通り若いのかもしれないが、相当な力を持つ妖なのだろう。
その力を、若さゆえに、暴走させてしまっている、と考えるべきか。
妖怪というのは、曖昧で、不透明で、酷く不安定な存在だ。
いつ、堕ちるかなど、わかったもんじゃない。
「ぬら組の方も、注意して見といた方が良いかもなぁ」
「お主の好きにしろ」
「……連れねぇなぁ」
ぬら組残党一行は、ゆっくりゆっくりと歩いていった。
* * *
龍炎寺、美しい枯山水の広がる寺。
この寺もまた、妖怪の血肉で地獄絵図と化していた。
「な、なんなのよこれー……!」
「良いから、黙って着いてきなさい」
「うぅ……」
巻き込まれた中学生達は、可哀想に。
まあ、命があるだけましだ。
首無という妖怪が現れなければ、あっという間に食われて、死んでいただろうからな。
「さ、この道を真っ直ぐ行きなさい。すぐに交番が見えるから、そこで電話を借りて、花開院という場所に電話しなさい」
「え、でも……!」
「番号はこれだから」
「また襲われるかも……!」
「オレが食い止める。安心して行きなさい」
背中を押して走らせる。
まったく、暴れるのは良いが、助けるなら中途半端にするなよな。
近くにいた妖怪どもを軽く伸して、破壊音の絶えない龍炎寺へと戻る。
「う、お゙……。凄まじいなぁ」
戻ったそこでは、雷撃でボロボロにされた鬼童丸と、完全に卒塔婆が取れて正気でなくなっている茨木童子の姿がある。
不意打ち使ったり、一対多数だったりと、京妖怪側が不利なのは確かだが、それでも奴らがここまで追い込まれるのは、なかなかに珍しい。
「あの坊主……妖怪かぁ?」
「坊主……ああ、あの黒い奴か。京の妖怪ではないなぁ」
「なら、ぬら組……江戸の方の妖怪か。スゴいな、あの暗器の数。オレもあれくらい仕込めればなぁ」
「お主、その時こそ人間でなくなるぞ」
「……それは、困るな」
まあ確かに、あれは人間が仕込んでおける量じゃないが……、というかあれだけ仕込んだら、動いただけで自分の体がザクザク切り刻まれることになりそうだが。
それでもちょっと、羨ましい。
尽きない手数ってのは、それだけ相手の精神にも来るものがあるだろうし。
「……とりあえず、ここはもう良いだろぉ。コイツらもいい加減、引き際は心得ているだろうし、さっき戦ってた首無とかは撤退したらしい。陰陽師の女の子もいなくなったようだし、オレ達はまた別の場所でパトロール再開するぞ」
「どこら辺を行く?」
「このまま中京区の方まで、妖倒しつつ進んでいこう。奴らはどうやら、一度休憩をとるようだしなぁ。オレ達はその間に、別の場所を見回るぜぇ」
「向こうの方がたくさんいるだろうしなぁ。にしても、ぬら組の奴らは随分と悠長な。奴らに付いて回るより、お主が単独で動いた方がずっと早いのではないか?」
「まあそうだな。でも、奴らの監視も兼ねてんだから、これでいんだよ。本当は休憩中の観察が一番したいんだが……、まあ途中に花開院の本家通るし、そこでちょっと見ていけば良いだろぉ」
「ほんと、お主は大雑把だなぁ」
さっきから大雑把だ大雑把だと言われているが、別にオレは奴らをそこまで重要視しているわけではないと、ただそれだけの話だ。
打倒乙女、もとい羽衣狐が目的だというのなら、黙っていてもその内弐條城までは来るだろうし、来なかったのなら、それまで。
どっちにしろあの実力じゃあ、幹部を相手にするならまだしも、乙女相手じゃ敵いはしないだろう。
放っておいて、幹部どもと潰しあってくれればラッキー。
ただし、万が一人を襲ったり、京妖怪と結託されると厄介なため、一応見張っておく。
「今は、奴らも消耗している分、そこまで派手には動かねぇだろぉ。なら、その内にオレは働いておこうと思った、それだけだ。だから、別に大雑把とかじゃねぇ」
「む、そうか。ならばまあ、手伝ってやる」
「そうかよチビ狐、ありがとなぁ」
「どういたしましてだクソガキ」
お互い悪口を言い合って、べっと舌を出す。
我ながら下らねぇとは思ったけれど、それでもその下らないことが楽しくて、ちょっとだけ笑った。
柱離宮に着いたとき、タイミングよく居合わせたぬら組の群れ。
見回したその中に、先程の特徴的なツートンカラーの髪の少年はいない。
「……先程の戦いで死んだのではないか?もしくは、傷を負って動けぬ、か。それとなぁ鮫弥、ぬらりひょんは奴の祖父じゃ。あれは孫……、まったく、才能があったとしても、若いだけの妖怪に、なぜあんな大物どもが着いていくのか……」
「俺に着いてきてるお前が言えることなのか、それは?」
「……お主は、別格、みたいな」
「あっそ」
みたいな、とか紫紺の柄じゃない気がするんだが、まあ別格らしいオレは、隠れたままぬら組の跡を尾行していく。
リングアニマル達は、ここ以外の地域へと放って、人を助けてやるようにと指示を出しているため、今はいない。
「柱離宮、だいぶ荒れてたなぁ」
「ぬら組の若いのがやったんだろう。人間に被害は出てないのだろう?ならば問題ないではないか」
「今はそうかもしんねぇけど、ずっとそうとは限らねぇだろぉ」
オレ達が到着したとき、京都の中でも指折りの観光名所である柱離宮は、凄まじい惨状を呈していた。
木は削られ、妖怪どもの血肉が散乱し、死臭が立ち込める、それはまるで地獄のような光景。
慣れてない人間が見たら、吐くこと間違いなしだ。
その妖怪、紫紺の言う通り若いのかもしれないが、相当な力を持つ妖なのだろう。
その力を、若さゆえに、暴走させてしまっている、と考えるべきか。
妖怪というのは、曖昧で、不透明で、酷く不安定な存在だ。
いつ、堕ちるかなど、わかったもんじゃない。
「ぬら組の方も、注意して見といた方が良いかもなぁ」
「お主の好きにしろ」
「……連れねぇなぁ」
ぬら組残党一行は、ゆっくりゆっくりと歩いていった。
* * *
龍炎寺、美しい枯山水の広がる寺。
この寺もまた、妖怪の血肉で地獄絵図と化していた。
「な、なんなのよこれー……!」
「良いから、黙って着いてきなさい」
「うぅ……」
巻き込まれた中学生達は、可哀想に。
まあ、命があるだけましだ。
首無という妖怪が現れなければ、あっという間に食われて、死んでいただろうからな。
「さ、この道を真っ直ぐ行きなさい。すぐに交番が見えるから、そこで電話を借りて、花開院という場所に電話しなさい」
「え、でも……!」
「番号はこれだから」
「また襲われるかも……!」
「オレが食い止める。安心して行きなさい」
背中を押して走らせる。
まったく、暴れるのは良いが、助けるなら中途半端にするなよな。
近くにいた妖怪どもを軽く伸して、破壊音の絶えない龍炎寺へと戻る。
「う、お゙……。凄まじいなぁ」
戻ったそこでは、雷撃でボロボロにされた鬼童丸と、完全に卒塔婆が取れて正気でなくなっている茨木童子の姿がある。
不意打ち使ったり、一対多数だったりと、京妖怪側が不利なのは確かだが、それでも奴らがここまで追い込まれるのは、なかなかに珍しい。
「あの坊主……妖怪かぁ?」
「坊主……ああ、あの黒い奴か。京の妖怪ではないなぁ」
「なら、ぬら組……江戸の方の妖怪か。スゴいな、あの暗器の数。オレもあれくらい仕込めればなぁ」
「お主、その時こそ人間でなくなるぞ」
「……それは、困るな」
まあ確かに、あれは人間が仕込んでおける量じゃないが……、というかあれだけ仕込んだら、動いただけで自分の体がザクザク切り刻まれることになりそうだが。
それでもちょっと、羨ましい。
尽きない手数ってのは、それだけ相手の精神にも来るものがあるだろうし。
「……とりあえず、ここはもう良いだろぉ。コイツらもいい加減、引き際は心得ているだろうし、さっき戦ってた首無とかは撤退したらしい。陰陽師の女の子もいなくなったようだし、オレ達はまた別の場所でパトロール再開するぞ」
「どこら辺を行く?」
「このまま中京区の方まで、妖倒しつつ進んでいこう。奴らはどうやら、一度休憩をとるようだしなぁ。オレ達はその間に、別の場所を見回るぜぇ」
「向こうの方がたくさんいるだろうしなぁ。にしても、ぬら組の奴らは随分と悠長な。奴らに付いて回るより、お主が単独で動いた方がずっと早いのではないか?」
「まあそうだな。でも、奴らの監視も兼ねてんだから、これでいんだよ。本当は休憩中の観察が一番したいんだが……、まあ途中に花開院の本家通るし、そこでちょっと見ていけば良いだろぉ」
「ほんと、お主は大雑把だなぁ」
さっきから大雑把だ大雑把だと言われているが、別にオレは奴らをそこまで重要視しているわけではないと、ただそれだけの話だ。
打倒乙女、もとい羽衣狐が目的だというのなら、黙っていてもその内弐條城までは来るだろうし、来なかったのなら、それまで。
どっちにしろあの実力じゃあ、幹部を相手にするならまだしも、乙女相手じゃ敵いはしないだろう。
放っておいて、幹部どもと潰しあってくれればラッキー。
ただし、万が一人を襲ったり、京妖怪と結託されると厄介なため、一応見張っておく。
「今は、奴らも消耗している分、そこまで派手には動かねぇだろぉ。なら、その内にオレは働いておこうと思った、それだけだ。だから、別に大雑把とかじゃねぇ」
「む、そうか。ならばまあ、手伝ってやる」
「そうかよチビ狐、ありがとなぁ」
「どういたしましてだクソガキ」
お互い悪口を言い合って、べっと舌を出す。
我ながら下らねぇとは思ったけれど、それでもその下らないことが楽しくて、ちょっとだけ笑った。