×ぬら孫
相剋寺が破られた京都洛中は、酷いものだった。
残る封印も、すぐに破られるだろう。
このままでは、京都は人が出歩くことの出来ない街になる。
考えたオレはまず、祖父に会いに行った。
「今日から少しの間、仕事を休ませてください」
「……もちろん、構わない」
「……え?いいん、ですか?」
「断ってもらいたかったのかな?」
「そ、そういうわけじゃないですけど……」
思った以上に、祖父の返事は淡白だった。
こんなにあっさり受け入れてもらえるなんて、思ってもなくて、オレは困惑する。
祖父は座っていた椅子を立って、オレの前に立つ。
背が高いから、オレは彼の近くにいると見上げなければならない。
これでも、随分と距離は縮まったのだけれども、な。
顔を上げたオレの頬を、祖父はその手のひらで包んで、じっくりと見詰める。
「鮫、少し痩せたな」
「え……そう、ですか……?」
自分では、そこまで変わった自覚はなかった。
でも確かに、最近は運動量が増えたにも関わらず、食事量は減っていた。
痩せたのかもしれないけど、祖父に気付かれるほどとは、思わなかった。
「何か、やりたいことがあるんだろう」
「……はい、オレには、荷の重いことかもしれませんが。でも、どうしても、成し遂げたいことです」
この街を、人を、大切な妹が傷付けていくところは見たくない。
身勝手で、ずるいことばっかり言ってるかもしれないけれど。
暗殺者でもなく、誰かの右腕でもなく、……誰か別の人の代わりでもなく。
この世にたった一人の、鬼崎鮫弥として叶えたい願いなのだ。
「お祖父様には、ご迷惑をかけることになるかと思います。でもオレは……」
「迷惑なんて、思っちゃあいないよ」
「……なぜ?」
「これまで、お前にかけてきた苦労を思えば、こんなのは、大したことじゃあないさ」
「……」
「悔いの残らぬように、精一杯、励んでこい。……応援している」
小さい頃と変わらない、乱暴で大きな手が、頭をぐしゃぐしゃと撫でてくれる。
変わらない、本当に変わらない。
彼は一人息子を亡くしたばかりだと言うのに、それでも優しく、変わらず、オレの祖父で在り続けてくれる。
それが、自分が今まで望んでいた、平凡な日常のように感じて、不覚にもちょっと、泣きそうになった。
「ありがとう、ございます……」
「おう、くれぐれも、怪我だけはするなよ!」
「はい……!!」
祖父に送られて、部屋を出た。
あんな風に言われて、送り出されたんだ。
きっと無事に、帰ってこなければならない。
「……行くぞ、紫紺」
「む、どこにだ?」
「さっき川に、でかい船のようなものが落ちたと聞いたぁ。ここから伏見区の方まで、妖怪倒しながら下りて行って、その船の乗員どもを確認する」
「なるほどな」
紫紺を肩に乗せて、オレは目的地へと向かうことにした。
そこで、思わぬ強敵と出会うことになる。
残る封印も、すぐに破られるだろう。
このままでは、京都は人が出歩くことの出来ない街になる。
考えたオレはまず、祖父に会いに行った。
「今日から少しの間、仕事を休ませてください」
「……もちろん、構わない」
「……え?いいん、ですか?」
「断ってもらいたかったのかな?」
「そ、そういうわけじゃないですけど……」
思った以上に、祖父の返事は淡白だった。
こんなにあっさり受け入れてもらえるなんて、思ってもなくて、オレは困惑する。
祖父は座っていた椅子を立って、オレの前に立つ。
背が高いから、オレは彼の近くにいると見上げなければならない。
これでも、随分と距離は縮まったのだけれども、な。
顔を上げたオレの頬を、祖父はその手のひらで包んで、じっくりと見詰める。
「鮫、少し痩せたな」
「え……そう、ですか……?」
自分では、そこまで変わった自覚はなかった。
でも確かに、最近は運動量が増えたにも関わらず、食事量は減っていた。
痩せたのかもしれないけど、祖父に気付かれるほどとは、思わなかった。
「何か、やりたいことがあるんだろう」
「……はい、オレには、荷の重いことかもしれませんが。でも、どうしても、成し遂げたいことです」
この街を、人を、大切な妹が傷付けていくところは見たくない。
身勝手で、ずるいことばっかり言ってるかもしれないけれど。
暗殺者でもなく、誰かの右腕でもなく、……誰か別の人の代わりでもなく。
この世にたった一人の、鬼崎鮫弥として叶えたい願いなのだ。
「お祖父様には、ご迷惑をかけることになるかと思います。でもオレは……」
「迷惑なんて、思っちゃあいないよ」
「……なぜ?」
「これまで、お前にかけてきた苦労を思えば、こんなのは、大したことじゃあないさ」
「……」
「悔いの残らぬように、精一杯、励んでこい。……応援している」
小さい頃と変わらない、乱暴で大きな手が、頭をぐしゃぐしゃと撫でてくれる。
変わらない、本当に変わらない。
彼は一人息子を亡くしたばかりだと言うのに、それでも優しく、変わらず、オレの祖父で在り続けてくれる。
それが、自分が今まで望んでいた、平凡な日常のように感じて、不覚にもちょっと、泣きそうになった。
「ありがとう、ございます……」
「おう、くれぐれも、怪我だけはするなよ!」
「はい……!!」
祖父に送られて、部屋を出た。
あんな風に言われて、送り出されたんだ。
きっと無事に、帰ってこなければならない。
「……行くぞ、紫紺」
「む、どこにだ?」
「さっき川に、でかい船のようなものが落ちたと聞いたぁ。ここから伏見区の方まで、妖怪倒しながら下りて行って、その船の乗員どもを確認する」
「なるほどな」
紫紺を肩に乗せて、オレは目的地へと向かうことにした。
そこで、思わぬ強敵と出会うことになる。