×ぬら孫
「五分でつぶす、だー?この茨木童子もナメられたもんじゃねぇか、ああ?」
「ばぁーか、それだけオレ様がぁ!強いってことだぁ!!」
ギィンッ!!という耳障りな金属音を、容易く掻き消す程の大音声。
ここ最近の陰陽師達の、必死の捜索を嘲笑うかのように、銀色の男は現れ、そして敵の幹部級の妖と戦い始めた。
しかも驚いたことに、そいつは先の鹿金寺の戦いで死んだと思われていた、雅次と破戸まで引き連れて来やがった。
オレはイライラと舌打ちをしながら、周囲を見回す。あの男を捕まえて問い質したいところだが、今の状況ではそんなことをしている余裕は無さそうだ。
言言を放って、秋房にやられそうになっていた、バカな妹を助ける。
全く、何体も何体も、大量に式神を分散させていて、敵うような敵じゃあないだろうが。
「竜二兄ちゃん」
膝をつくゆらの前に降り立って、仰言を仕込みながら、一人ごちた。
「ふう、やっかいな奴が敵に回ったもんだぜ」
味方の様子を見るが、どう見ても劣勢、勝てる気がしない。
ゆらに幾つか指示を出して、オレは秋房と向かい合った。
八十流は元々、妖と交わりやすい性質を持っていた。
灰色の性質、それを使って戦い、傷付き弱ったその隙を、妖怪に狙われたのだろう。
「来るぞ!!いそげゆら!!」
ぐずぐずとしているゆらを急かし、霧を纏う秋房を見据える。
「竜二、お前が……ゆらを守るなんてな」
秋房の言葉に、オレは一瞬口を閉ざす。
こいつはオレのことを、悪魔かなにかだとでも思っているのか。
「ゆらは、お前より……"才ある者"だからな」
妹を守った理由は、別にそんなことではないし、才能なんてもんは人それぞれだ。
秋房が、ゆらより劣るなんて思っちゃいない。
だがオレは嘘吐き。
言葉を操る陰陽師。
その言葉を放つとともに、にたりと笑みを張り付けた。
オレに化けた仰言に飛び掛かった秋房に気付かれぬよう、息を止めた。
* * *
「……秋房の方には、強そうな奴が行ったようだなぁ」
「うつけが、そんなこと確認している暇があるなら、さっさと奴らを倒してこんか」
「っせぇ、バカ狐。倒せるもんならとっくに倒してるっつーの」
秋房の方を見れば、花開院……って、ここにいる人間みんな花開院か、花開院竜二が向かい合って戦っていた。
学校じゃ基本苗字呼びだから、ややこしい。
「おい!!あの餓鬼どこに隠れやがった!?」
「見つからないならば、ここら一帯を更地に変えるか」
オレが隠れている木の近くから聞こえるのは、茨木童子としょうけらの声。
茨木童子一人なら、五分だって余裕で勝ててたのに、そこにしょうけらが乱入してきたため、一旦隠れて態勢を立て直している最中なのだ。
あいつら、なんだかんだでオレの手中を知り尽くしているわけだから、二人揃われると物凄く戦いづらい。
しかし、このままここにじっとしていたところで、しょうけらによって建物ごと切られるだけだろう。
隠れていた木の枝の上から、音を立てずに飛び降りて、茨木童子の首を狙った。
「っ!後ろだ茨木童子!」
「うおっ!」
ギリギリで気付かれ、距離を取られた。
さっきからこの繰り返しだ。
しかも攻撃の時も、深入りはしてこず、常に一定の距離を保たれている。
昔……ヴァリアーだった頃と違って、銃やら何やらを持てねぇから、その分オレは遠距離戦が苦手になっているのだ。
……しかしまあ、打つ手がないわけじゃねぇがな。
「はっ!やっと出てきやがったなクソ餓鬼……」
「よぉ、いいのか茨木童子ぃ、『そんなところ』にいてよぉ」
「はあ?」
「そこは、オレのテリトリーだぜ」
ピッ、と、茨木童子の足が、ワイヤーに触れる。
その瞬間、茂みから幾つもの刃物が飛び出し、一斉に二人を襲う。
ナイフから鋏まで、刃物ばかりが種類豊富に取り揃えてあるのは、単純にナイフやら何やらが手に入りにくいので、身近なもので代用してあるってだけの理由だ。
……鋏をどこで手に入れたか?
茨木童子のをパクッ……永久にお借りしただけだ。
「くそ!!いつの間にこんなもんっ……!」
「罠を仕掛けるために身を隠していたのか」
「ゔお゙ぉい!隙ありだぁ!」
「がっ!」
ここまでして、何とか一太刀入れることができた。
その後もワイヤーと罠をうまく使って、二人に攻撃を加えていく。
しかし致命傷には繋がりそうもない。
くそ……、結局は、オレも無力な人間ってわけか?
イライラと舌打ちをした、その時、突如として現れた力の塊に、一瞬二人の意識が奪われた。
「くたばれぇ!」
「ぐぉっ!?」
しょうけらの肩を、剣で抉る。
直後に襲ってきた茨木童子の雷は炎で防ぎ、オレは奴らの射程圏外まで逃れた。
こちらは無傷、あちらは一人が重傷。
くそみてぇな結果だが、妖怪の猛者一人に深手を負わせられたのだ、良しとしよう。
オレは先程現れた力の塊を見る。
妖力ではない。
あれは恐らく、霊力か。
「あれが、破軍……」
紫紺の呟きに、首を傾げた。
破軍ってのは、確か星の名前の一つだった気がするが。
あの力の名も、破軍と言うのか。
そしてその破軍から上に視線を上げる。
「乙女……!」
がしゃどくろの上で、戦場を見下ろす妹に、胸の中に靄が立ち込める。
乙女の見下ろす戦場を見る。
「秋房は……無事か……」
その事にだけは、少しホッとして、オレは再び襲い掛かってきた茨木童子と相対した。
「ばぁーか、それだけオレ様がぁ!強いってことだぁ!!」
ギィンッ!!という耳障りな金属音を、容易く掻き消す程の大音声。
ここ最近の陰陽師達の、必死の捜索を嘲笑うかのように、銀色の男は現れ、そして敵の幹部級の妖と戦い始めた。
しかも驚いたことに、そいつは先の鹿金寺の戦いで死んだと思われていた、雅次と破戸まで引き連れて来やがった。
オレはイライラと舌打ちをしながら、周囲を見回す。あの男を捕まえて問い質したいところだが、今の状況ではそんなことをしている余裕は無さそうだ。
言言を放って、秋房にやられそうになっていた、バカな妹を助ける。
全く、何体も何体も、大量に式神を分散させていて、敵うような敵じゃあないだろうが。
「竜二兄ちゃん」
膝をつくゆらの前に降り立って、仰言を仕込みながら、一人ごちた。
「ふう、やっかいな奴が敵に回ったもんだぜ」
味方の様子を見るが、どう見ても劣勢、勝てる気がしない。
ゆらに幾つか指示を出して、オレは秋房と向かい合った。
八十流は元々、妖と交わりやすい性質を持っていた。
灰色の性質、それを使って戦い、傷付き弱ったその隙を、妖怪に狙われたのだろう。
「来るぞ!!いそげゆら!!」
ぐずぐずとしているゆらを急かし、霧を纏う秋房を見据える。
「竜二、お前が……ゆらを守るなんてな」
秋房の言葉に、オレは一瞬口を閉ざす。
こいつはオレのことを、悪魔かなにかだとでも思っているのか。
「ゆらは、お前より……"才ある者"だからな」
妹を守った理由は、別にそんなことではないし、才能なんてもんは人それぞれだ。
秋房が、ゆらより劣るなんて思っちゃいない。
だがオレは嘘吐き。
言葉を操る陰陽師。
その言葉を放つとともに、にたりと笑みを張り付けた。
オレに化けた仰言に飛び掛かった秋房に気付かれぬよう、息を止めた。
* * *
「……秋房の方には、強そうな奴が行ったようだなぁ」
「うつけが、そんなこと確認している暇があるなら、さっさと奴らを倒してこんか」
「っせぇ、バカ狐。倒せるもんならとっくに倒してるっつーの」
秋房の方を見れば、花開院……って、ここにいる人間みんな花開院か、花開院竜二が向かい合って戦っていた。
学校じゃ基本苗字呼びだから、ややこしい。
「おい!!あの餓鬼どこに隠れやがった!?」
「見つからないならば、ここら一帯を更地に変えるか」
オレが隠れている木の近くから聞こえるのは、茨木童子としょうけらの声。
茨木童子一人なら、五分だって余裕で勝ててたのに、そこにしょうけらが乱入してきたため、一旦隠れて態勢を立て直している最中なのだ。
あいつら、なんだかんだでオレの手中を知り尽くしているわけだから、二人揃われると物凄く戦いづらい。
しかし、このままここにじっとしていたところで、しょうけらによって建物ごと切られるだけだろう。
隠れていた木の枝の上から、音を立てずに飛び降りて、茨木童子の首を狙った。
「っ!後ろだ茨木童子!」
「うおっ!」
ギリギリで気付かれ、距離を取られた。
さっきからこの繰り返しだ。
しかも攻撃の時も、深入りはしてこず、常に一定の距離を保たれている。
昔……ヴァリアーだった頃と違って、銃やら何やらを持てねぇから、その分オレは遠距離戦が苦手になっているのだ。
……しかしまあ、打つ手がないわけじゃねぇがな。
「はっ!やっと出てきやがったなクソ餓鬼……」
「よぉ、いいのか茨木童子ぃ、『そんなところ』にいてよぉ」
「はあ?」
「そこは、オレのテリトリーだぜ」
ピッ、と、茨木童子の足が、ワイヤーに触れる。
その瞬間、茂みから幾つもの刃物が飛び出し、一斉に二人を襲う。
ナイフから鋏まで、刃物ばかりが種類豊富に取り揃えてあるのは、単純にナイフやら何やらが手に入りにくいので、身近なもので代用してあるってだけの理由だ。
……鋏をどこで手に入れたか?
茨木童子のをパクッ……永久にお借りしただけだ。
「くそ!!いつの間にこんなもんっ……!」
「罠を仕掛けるために身を隠していたのか」
「ゔお゙ぉい!隙ありだぁ!」
「がっ!」
ここまでして、何とか一太刀入れることができた。
その後もワイヤーと罠をうまく使って、二人に攻撃を加えていく。
しかし致命傷には繋がりそうもない。
くそ……、結局は、オレも無力な人間ってわけか?
イライラと舌打ちをした、その時、突如として現れた力の塊に、一瞬二人の意識が奪われた。
「くたばれぇ!」
「ぐぉっ!?」
しょうけらの肩を、剣で抉る。
直後に襲ってきた茨木童子の雷は炎で防ぎ、オレは奴らの射程圏外まで逃れた。
こちらは無傷、あちらは一人が重傷。
くそみてぇな結果だが、妖怪の猛者一人に深手を負わせられたのだ、良しとしよう。
オレは先程現れた力の塊を見る。
妖力ではない。
あれは恐らく、霊力か。
「あれが、破軍……」
紫紺の呟きに、首を傾げた。
破軍ってのは、確か星の名前の一つだった気がするが。
あの力の名も、破軍と言うのか。
そしてその破軍から上に視線を上げる。
「乙女……!」
がしゃどくろの上で、戦場を見下ろす妹に、胸の中に靄が立ち込める。
乙女の見下ろす戦場を見る。
「秋房は……無事か……」
その事にだけは、少しホッとして、オレは再び襲い掛かってきた茨木童子と相対した。