×ぬら孫

「ったくよぉ……秋房を助けるつもりだったのが、なんで秋房以外のオマケ二人助けちまったんだろぉなぁ?」
「だ……誰がオマケだ!」
「酷いよねーオマケなんてさ」

鹿金寺で助けた陰陽師二人。
彼らを自宅に連れていくわけにもいかず、かと言ってそのまま放置するわけにもいかねぇし、かといって念も押さずに花開院に帰すのもなぁ……。
悩んだ末にオレは、とある場所に彼らを連れていった。
そこはよくあるマンションの一室。
と言うか、オレのとても身近な人物の部屋。

「ぼ……えーと若旦那様ぁ、彼らは……?」
「拾ってきたんだぁ。悪いが暫く世話してやってくれないか?」
「若旦那様のご命令とあらば」
「プライベートまで固い物言いしなくて良いよ。ただ頼んでるだけなんだから」
「頼んでるってったって……、どうせはなからここに置いてくつもりなんでしょう?」
「まあなぁ!」
「清々しいまでのドヤ顔っすね!!」

そんな会話を交わしているのは、今日の昼間も一緒に行動していた柏木と松原。
なんで二人が一緒にいるのかって、それは単純に二人が婚姻関係にあるからである。
つまり夫婦なのだ。
まあ柏木は、仕事の時は元の姓を使っているから、あんまり変わった感じしないんだけど。
でもお似合いの二人だし、オレは大いに祝って、大量の贈り物をしてしまったんだけれどもな。
あの時のはしゃぎ様を思い出すと、自分で自分が恥ずかしい。
それはさておき、二人は、オレが突然怪しげな黒尽くめの服装で、謎の和服姿の人間達を連れてきたにも関わらず、何も聞かずに部屋に入れてくれた。
新婚なのになぁ。
マジで申し訳ねぇ……。

「お、お前は何者なんだ……?」
「……何者、ねぇ?」

前世持ちで、今は大財閥の跡取りで、戦闘能力が飛び抜けている、京妖怪の頭の兄貴……って言っても信じてくれなさそうな気がする。
どんな小説にだって、こんなメチャクチャな設定ないだろう。

「……まあ、ちょっとした会社の若旦那ってところかな。とりあえず、オレぁ今んとこ、あんたらを傷付ける気はねぇよ。安心しなぁ」
「なっ……安心できるか!」
「あんなメチャクチャな事してる奴に拉致られて、はいそーですかって頷けるわけないじゃん」
「……と、言われたのだが」
「確かにメチャクチャな方ですからねぇ」
「メチャクチャという意味では概ね同意しますね!」
「あれ、オレの味方っていねぇのか?」

どうやらオレを優しく慰めてくれる味方はいないらしくて、ガックリと項垂れる。
柏木と松原の前じゃ妖怪の話出来ないし、紫紺に慰めてももらえない……っつーか紫紺に慰めを求めること自体間違ってる気がする……。
ちなみに、ここに来る前に、柏木と松原には『オレの素性について』、花開院の二人には『妖怪の事について』を話さないように、念を押してある。
だからたぶん、面倒事にはならない……と良いなぁ。

「とりあえず、お前らは回復するまでここにいろぉ。その後は……まあ、オレの事を話さないのならば、花開院に帰ろうと、何しようと、構いやしねぇよ」
「……オレ達を捕まえて、何か企んでいるんじゃないのか?」
「んな面倒くせぇ事はしねぇよ。さっきも言ったが、お前ら助けたのは云わば成り行きだぁ。オレのことを話さない限りは、何をしようとも構いやしねぇ」

秋房助ける代わりに、偶然助けちまっただけ、ってわけ。
コイツらには、興味も関心もない。
その事が伝わったのだろう。
天パ眼鏡の花開院は、少し不快そうな顔をした後、柏木と松原に向けて頭を下げた。

「よろしく、お願いします。」
「雅次!でも……」
「とにかく今は傷を癒すんだ、破戸。オレ達が今出来るのは、それだけだ」
「ぐ……っ!」
「……まぁ、話し合いは勝手にしてくれ。柏木、松原、頼んだぜぇ」
「はい、若旦那様。雅次さん、破戸さん、よろしくお願い致しますね」
「よろしくな、雅次に破戸!」

何とか、花開院の二人も落ち着き、彼らを手当てしようと柏木達が動き出した。
オレもそろそろ帰ろうか。
そう思って、立ち上がった。

「……ぼっ……じゃなくて若旦那様、どちらへ行かれるんですか?」
「ん゙、散歩ついでに歩いて家に戻る。悪かったな、面倒事押し付けたりして」
「誰が面倒事だ誰が!」
「あなた様に限って心配する必要はないでしょうが……、どうぞお気を付けてお帰りくださいませ、若旦那様」
「お゙う。……あぁ、明日は二人とも、休んで良いからなぁ」
「ありがとうございます」

散歩……って言ったが、このまましばらく街を見回って、人を襲う妖怪がいたら退治する予定だった。
鹿金寺が崩れたから、妖怪は更に京都の内側にまで入ってくる。
まったく、困ったもんだな。
だがかと言って、あいつらが封印を壊していくのを止められはしない。
乙女が二条城を目指している以上、オレが止めるわけにはいかない。
柏木と松原に見送られて、マンションを出て、オレは蒸し暑い京都の街を歩き出した。
出来る限り薄着しているつもりだが、服の内側にはじっとりと汗をかいていた。

「……嫌な季節だなぁ」
「まったくだ……」

人目がなくなり、肩の上に出てきた紫紺と、愚痴り合った。
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