×ぬら孫
今日は乙女達が、鹿金寺を襲撃する。
護るのは、秋房を含めた花開院の精鋭3人。
でもたぶん……いいや、間違いなく、彼らは負ける。
その内の一人、秋房には借りがあった。
竹刀を選んでくれたって、ただそれだけのことだけれども、オレは楽しかったし、何よりあれだけの時間しか一緒にいなかったのに、彼はオレの名前を覚えていてくれた。
「エゴで良い。秋房のこと、助けてぇ」
「……ふん、お前が言うなら、我は手を貸してやるだけさ」
「ありがとなぁ、紫紺」
肩に乗る小さな狐を撫でてやりながら、夜の闇に沈む金色の寺を背にして構える、3人の人影を視界に映す。
秋房達は、オレの存在には気付いていないらしかった。
遠くに、京妖怪の作る百鬼夜行が見える。
天然パーマの男は日が沈む前に、鹿金寺を囲むように細工を施していた。
恐らく、結界使いだろう。
子供みたいな背格好の奴は、自分の式神らしき巨大な一つ目の怪物を水中に潜ませていた。
式神……と言っても、妖怪を使役する訳ではなく、自信の呪力を基にして作ったモノだろう。
丈夫そうな式神だ。
秋房は、怪しげな槍を構えて立っていた。
酷く嫌な感じのする槍で、漏れ出る瘴気にオレは顔をしかめる。
あれはきっと良くないものだ。
秋房にとって、とても良くないもの。
あの武器でどう戦うのだろうか。
「……いつ出るんだ?」
「ギリギリまでは、見守る。乙女……いや、羽衣狐との実力差を思い知った後に助けなけりゃ、アイツらは学習しないだろぉ」
下手な場所で助けたら、奴らはまた、羽衣狐に向かっていって命を捨てるのだろう。
よく知らない二人だけじゃなく、秋房も。
死を知らぬ人間は、怖い。
「……来た」
乙女の気配が近付いてきた。
ガヤガヤと騒がしい声が聞こえてくる。
しかしすぐに、声はふつりと途切れた。
天高く衝く結界のせいだろう。
気付けば、鹿金寺の回りを金色の結界が囲んでおり、中にいるのはオレと陰陽師の3人組、そして乙女だけとなる。
部下どもと引き離してもまだ、勝ち目などないと言うことを、3人は気付く様子もなかった。
式神も、乙女には特に効果もなく、結界もすぐに、がしゃどくろという妖に破られた。
逃げ腰になる二人に対して、秋房は動じなかった。
それだけその槍に、自信があると言うことなのだろうか。
「その自信は命取りにしかならねぇぞ、秋房……」
オレの声が秋房には届くことはない。
秋房の槍がどれだけ強かったとしても、乙女には叶わない。
それどころか、乙女の取り巻き達にも負けるだろう。
オレは立ち上がり、水面に結界で足場を作りながら、彼らに近寄る。
姿は幻術で隠している。
普通なら乙女には見破られるだろうが、今は戦いに夢中で、気付かれずに済んだ。
「……っ!」
ざわりと、秋房の周囲の空気が変わる。
間違いなく、それは妖気で、一瞬の後に、秋房の姿は妖怪のような異形のそれへと変貌を遂げていた。
「続け、行くぞ」
彼の声が聞こえるほどの距離にまで近付いたが、まだ誰にも気付かれていない。
槍を振り回す秋房と対峙したのは、意外にもしょうけらで、十字型の槍で秋房達を圧倒していく。
恐らく、秋房達は善戦した方だと思う。
ただの人間にしては、だいぶ長く持ちこたえていた。
近くで見ていて、何度も手を出しそうになるほど、ボロボロになって、それでもまだ、秋房は槍を振るう。
助けるとか、助けないとか、それ以前に、彼の放つ気迫に、オレは動くことが出来なかった。
だが、そんな彼にも限界は訪れる。
倒れそうになった秋房を見て、オレはついに手を出した。
肩を抱くようにして、その体を支える。
背の高さがそんなに変わらないから、結構キツいが、いざとなったら、後ろの陰陽師どもに預ければ良いだろう。
そう考えてから、オレは乙女を見据えて口を開いた。
「久々だなぁ……、羽衣狐殿?」
「……そうじゃな、久しく見掛けておらんかったが、ここで会うとは思っておらんかったぞ」
「オレも、昼間まではここに来る気なかったんだがなぁ……」
突然オレが現れたことに動揺を見せなかったのは、乙女一人だけで、秋房と戦っていたしょうけらや、周りの妖怪達は驚いて臨戦態勢に入る。
「だ……れだ……?」
ヘルメットを被っていたから、誰だかわからなかったのだろう。
腕の中の秋房が、途切れ途切れに口にした疑問にオレは何も返さず、ただ黙って、彼を後ろの二人に預ける。
「コイツ、ちょっとオレと縁があってなぁ。……悪いが、今回だけ、お前らの邪魔、させてもらうぜ」
「はっ……自分勝手な奴じゃのう。まあ、お主らしいと言えば、らしいかもしれん。しかし、妾達が大人しくお主の邪魔を許すと思うか?」
「ふん……そこまで都合の良い脳ミソはしてねぇよ」
乙女に睨まれ、殺気を飛ばされる。
オレの出現に驚いていた妖怪達も、落ち着いてくると同時に、激しい殺気を向けてくる。
苦笑を浮かべながら、オレは言った。
「まあ、今度はそう簡単に逃がしちゃくれねぇよなぁ」
コートの内側から、するりと剣を抜き放ち、乙女達へと向けた。
「今日は、正々堂々と戦ってやるよ。覚悟しなぁ、雑魚妖怪どもがぁ」
その一言で、簡単に怒りを爆発させた妖怪達が、一斉に襲い掛かってきた。
護るのは、秋房を含めた花開院の精鋭3人。
でもたぶん……いいや、間違いなく、彼らは負ける。
その内の一人、秋房には借りがあった。
竹刀を選んでくれたって、ただそれだけのことだけれども、オレは楽しかったし、何よりあれだけの時間しか一緒にいなかったのに、彼はオレの名前を覚えていてくれた。
「エゴで良い。秋房のこと、助けてぇ」
「……ふん、お前が言うなら、我は手を貸してやるだけさ」
「ありがとなぁ、紫紺」
肩に乗る小さな狐を撫でてやりながら、夜の闇に沈む金色の寺を背にして構える、3人の人影を視界に映す。
秋房達は、オレの存在には気付いていないらしかった。
遠くに、京妖怪の作る百鬼夜行が見える。
天然パーマの男は日が沈む前に、鹿金寺を囲むように細工を施していた。
恐らく、結界使いだろう。
子供みたいな背格好の奴は、自分の式神らしき巨大な一つ目の怪物を水中に潜ませていた。
式神……と言っても、妖怪を使役する訳ではなく、自信の呪力を基にして作ったモノだろう。
丈夫そうな式神だ。
秋房は、怪しげな槍を構えて立っていた。
酷く嫌な感じのする槍で、漏れ出る瘴気にオレは顔をしかめる。
あれはきっと良くないものだ。
秋房にとって、とても良くないもの。
あの武器でどう戦うのだろうか。
「……いつ出るんだ?」
「ギリギリまでは、見守る。乙女……いや、羽衣狐との実力差を思い知った後に助けなけりゃ、アイツらは学習しないだろぉ」
下手な場所で助けたら、奴らはまた、羽衣狐に向かっていって命を捨てるのだろう。
よく知らない二人だけじゃなく、秋房も。
死を知らぬ人間は、怖い。
「……来た」
乙女の気配が近付いてきた。
ガヤガヤと騒がしい声が聞こえてくる。
しかしすぐに、声はふつりと途切れた。
天高く衝く結界のせいだろう。
気付けば、鹿金寺の回りを金色の結界が囲んでおり、中にいるのはオレと陰陽師の3人組、そして乙女だけとなる。
部下どもと引き離してもまだ、勝ち目などないと言うことを、3人は気付く様子もなかった。
式神も、乙女には特に効果もなく、結界もすぐに、がしゃどくろという妖に破られた。
逃げ腰になる二人に対して、秋房は動じなかった。
それだけその槍に、自信があると言うことなのだろうか。
「その自信は命取りにしかならねぇぞ、秋房……」
オレの声が秋房には届くことはない。
秋房の槍がどれだけ強かったとしても、乙女には叶わない。
それどころか、乙女の取り巻き達にも負けるだろう。
オレは立ち上がり、水面に結界で足場を作りながら、彼らに近寄る。
姿は幻術で隠している。
普通なら乙女には見破られるだろうが、今は戦いに夢中で、気付かれずに済んだ。
「……っ!」
ざわりと、秋房の周囲の空気が変わる。
間違いなく、それは妖気で、一瞬の後に、秋房の姿は妖怪のような異形のそれへと変貌を遂げていた。
「続け、行くぞ」
彼の声が聞こえるほどの距離にまで近付いたが、まだ誰にも気付かれていない。
槍を振り回す秋房と対峙したのは、意外にもしょうけらで、十字型の槍で秋房達を圧倒していく。
恐らく、秋房達は善戦した方だと思う。
ただの人間にしては、だいぶ長く持ちこたえていた。
近くで見ていて、何度も手を出しそうになるほど、ボロボロになって、それでもまだ、秋房は槍を振るう。
助けるとか、助けないとか、それ以前に、彼の放つ気迫に、オレは動くことが出来なかった。
だが、そんな彼にも限界は訪れる。
倒れそうになった秋房を見て、オレはついに手を出した。
肩を抱くようにして、その体を支える。
背の高さがそんなに変わらないから、結構キツいが、いざとなったら、後ろの陰陽師どもに預ければ良いだろう。
そう考えてから、オレは乙女を見据えて口を開いた。
「久々だなぁ……、羽衣狐殿?」
「……そうじゃな、久しく見掛けておらんかったが、ここで会うとは思っておらんかったぞ」
「オレも、昼間まではここに来る気なかったんだがなぁ……」
突然オレが現れたことに動揺を見せなかったのは、乙女一人だけで、秋房と戦っていたしょうけらや、周りの妖怪達は驚いて臨戦態勢に入る。
「だ……れだ……?」
ヘルメットを被っていたから、誰だかわからなかったのだろう。
腕の中の秋房が、途切れ途切れに口にした疑問にオレは何も返さず、ただ黙って、彼を後ろの二人に預ける。
「コイツ、ちょっとオレと縁があってなぁ。……悪いが、今回だけ、お前らの邪魔、させてもらうぜ」
「はっ……自分勝手な奴じゃのう。まあ、お主らしいと言えば、らしいかもしれん。しかし、妾達が大人しくお主の邪魔を許すと思うか?」
「ふん……そこまで都合の良い脳ミソはしてねぇよ」
乙女に睨まれ、殺気を飛ばされる。
オレの出現に驚いていた妖怪達も、落ち着いてくると同時に、激しい殺気を向けてくる。
苦笑を浮かべながら、オレは言った。
「まあ、今度はそう簡単に逃がしちゃくれねぇよなぁ」
コートの内側から、するりと剣を抜き放ち、乙女達へと向けた。
「今日は、正々堂々と戦ってやるよ。覚悟しなぁ、雑魚妖怪どもがぁ」
その一言で、簡単に怒りを爆発させた妖怪達が、一斉に襲い掛かってきた。