×ぬら孫
その日、花開院本家は、上を下への大騒ぎだった。
らせんの封印が、柱離宮まで破られた。
どちらの守護者も殺されて、次の封印の地、龍炎寺まで妖気が満ちるのも、時間の問題である。
何よりも問題なのは、この結果が、正体も知れない何者かに預言されていたことである。
「『狐が封印を狙っている。直ぐにでも守護者を退かせろ。死なせたくなければ』……。まったく、一体誰がこんな手紙を……」
「何としてでもあの女狐を止めなければ!」
「次だ!次の封印は……豪羅か!奴の技ならあるいは……」
終わりのない会議を続けている男達を尻目に、花開院竜二は問題の手紙を観察していた。
紙は高級な和紙である。
だが販売店に問い合わせても、それを買った人物に、心当たりはないらしい。
文字は目立った特徴のない、まるで教科書の印字のような丁寧な字である。
狐が封印を解こうとしていること、そして、今配置されている守護者では殺されるだろうことが、簡潔に、淡々と記されていた。
手紙は2通。
どちらも、守護者の二人が殺された日の昼間に発見された。
片方は矢文として撃ち込まれ、片方はカラスの足にくくりつけられていた。
極秘に警察を頼り、指紋などの痕跡を調べてもらったが、花開院の者以外の指紋は1つも見付けられず、他の痕跡も見付からずに返ってきた。
矢や、カラスからも、特に何も見つからなかったと言う。
一体どんな奴が、何の目的でこの手紙を送ってきたのか、まるでわからない。
明日にはもう、龍炎寺まで妖気が満ちる。
豪羅は、退くつもりはないようだった。
年寄連中も、豪羅を退かせるつもりはないらしい。
「次に死ぬのは、豪羅か……」
誰にも聞こえないように、ぼそりと呟いた。
竜二は部屋から出て、外で待っていた魔魅流を連れて家を出る。
そろそろ日が暮れる。
妖怪達が動き出す時間だ。
「チッ、今がどういう時かも知らずに、のうのうと出歩いてやがるバカどもがうじゃうじゃいるな……」
人々の群れを苛立たしげに見渡し、光の届かない暗がりに目を向けたとき、大きな妖気が、竜二の肌を粟立たせた。
「魔魅流、わかるな?」
「こっちに妖がいる」
「倒すぞ」
「わかった」
猟犬のような鋭い眼差しで暗がりを見据え、二人は走り出す。
感じた妖気は、遠ざかっている。
……いや、そうではない。
どうやらその妖気は、徐々に弱まってきているようだった。
「……っ!これは!?」
角を曲がった途端、二人の嗅覚を刺激したのは濃い血の臭いだった。
持っていたライトで道を照らすと、そこには凄惨な光景が広がっていた。
妖の肉片が散らばっている。
一匹ではない。
何匹もの妖怪が殺されて、その肉塊を真っ赤な血が覆っていた。
まだ残っている微かな妖気を追って視線を向けると、僅かだが息のある妖怪が壁に寄り掛かり、荒く呼吸をしていた。
「おい妖怪、ここで何があった」
「クソッ!クソッ!!銀色の次は……陰陽師かよ……!クソォォオ!!!」
「……チッ、話にならねーな。魔魅流、やれ」
「わかった」
魔魅流の電撃が、残った力を振り絞って立ち上がった妖怪を襲う。
断末魔の悲鳴を背中に受けながら、竜二は地面にキラキラと光るものが落ちていることに気が付く。
ライトの光を跳ね返すそれは、白銀色の髪の毛であった。
妖怪の発した銀色という言葉、そしてこの髪の毛。
「陰陽師以外の何者かが、妖を退治して回ってるってことか……?」
もしかすると、銀色という者と、花開院に警告を送ってきた人物は同じかもしれない。
もどかしそうに舌打ちをして、竜二と魔魅流は再び闇の中へと踏み出した。
らせんの封印が、柱離宮まで破られた。
どちらの守護者も殺されて、次の封印の地、龍炎寺まで妖気が満ちるのも、時間の問題である。
何よりも問題なのは、この結果が、正体も知れない何者かに預言されていたことである。
「『狐が封印を狙っている。直ぐにでも守護者を退かせろ。死なせたくなければ』……。まったく、一体誰がこんな手紙を……」
「何としてでもあの女狐を止めなければ!」
「次だ!次の封印は……豪羅か!奴の技ならあるいは……」
終わりのない会議を続けている男達を尻目に、花開院竜二は問題の手紙を観察していた。
紙は高級な和紙である。
だが販売店に問い合わせても、それを買った人物に、心当たりはないらしい。
文字は目立った特徴のない、まるで教科書の印字のような丁寧な字である。
狐が封印を解こうとしていること、そして、今配置されている守護者では殺されるだろうことが、簡潔に、淡々と記されていた。
手紙は2通。
どちらも、守護者の二人が殺された日の昼間に発見された。
片方は矢文として撃ち込まれ、片方はカラスの足にくくりつけられていた。
極秘に警察を頼り、指紋などの痕跡を調べてもらったが、花開院の者以外の指紋は1つも見付けられず、他の痕跡も見付からずに返ってきた。
矢や、カラスからも、特に何も見つからなかったと言う。
一体どんな奴が、何の目的でこの手紙を送ってきたのか、まるでわからない。
明日にはもう、龍炎寺まで妖気が満ちる。
豪羅は、退くつもりはないようだった。
年寄連中も、豪羅を退かせるつもりはないらしい。
「次に死ぬのは、豪羅か……」
誰にも聞こえないように、ぼそりと呟いた。
竜二は部屋から出て、外で待っていた魔魅流を連れて家を出る。
そろそろ日が暮れる。
妖怪達が動き出す時間だ。
「チッ、今がどういう時かも知らずに、のうのうと出歩いてやがるバカどもがうじゃうじゃいるな……」
人々の群れを苛立たしげに見渡し、光の届かない暗がりに目を向けたとき、大きな妖気が、竜二の肌を粟立たせた。
「魔魅流、わかるな?」
「こっちに妖がいる」
「倒すぞ」
「わかった」
猟犬のような鋭い眼差しで暗がりを見据え、二人は走り出す。
感じた妖気は、遠ざかっている。
……いや、そうではない。
どうやらその妖気は、徐々に弱まってきているようだった。
「……っ!これは!?」
角を曲がった途端、二人の嗅覚を刺激したのは濃い血の臭いだった。
持っていたライトで道を照らすと、そこには凄惨な光景が広がっていた。
妖の肉片が散らばっている。
一匹ではない。
何匹もの妖怪が殺されて、その肉塊を真っ赤な血が覆っていた。
まだ残っている微かな妖気を追って視線を向けると、僅かだが息のある妖怪が壁に寄り掛かり、荒く呼吸をしていた。
「おい妖怪、ここで何があった」
「クソッ!クソッ!!銀色の次は……陰陽師かよ……!クソォォオ!!!」
「……チッ、話にならねーな。魔魅流、やれ」
「わかった」
魔魅流の電撃が、残った力を振り絞って立ち上がった妖怪を襲う。
断末魔の悲鳴を背中に受けながら、竜二は地面にキラキラと光るものが落ちていることに気が付く。
ライトの光を跳ね返すそれは、白銀色の髪の毛であった。
妖怪の発した銀色という言葉、そしてこの髪の毛。
「陰陽師以外の何者かが、妖を退治して回ってるってことか……?」
もしかすると、銀色という者と、花開院に警告を送ってきた人物は同じかもしれない。
もどかしそうに舌打ちをして、竜二と魔魅流は再び闇の中へと踏み出した。