×ぬら孫

「なんかこの感じ……懐かしいなぁ……」
「む?懐かしい?」
「戦いの中で生活してる感じ……かな。こんな生活に、戻りたくはなかったけれど」

オレは自室で、紫紺を膝の上において撫でながら、仕事をこなしていた。
学校休んで、仕事も休む、その為には、まだ幾らか整理しなければならないことがある。
カリカリと、紙にペンを走らせる音に耳を傾けながら、紫紺はのんびりとした声でオレと会話をしてくれる。

「しかしお主、昼も夜も働き続けるとは、大変なのではないか?ちゃんと寝ておらぬのだろう?」
「別に3、4日寝なくても問題ねーだろぉ?つーか、そうでもしねーと仕事片付かねーし、時間足りないんだもん」
「もんとか言うなぁ。可愛くない」
「ひっでーなぁ」

そんな酷いことを言いながらも、紫紺はオレに顎を撫でられて喉を鳴らしている。

「そう言えば、昼間に鬼崎の大旦那が来ていたなぁ?」
「うん?……ああ、お祖父様がいらっしゃっていた」
「お前のその猫被りモード……気持ちが悪いぞ。いやそれよりも、大旦那は大丈夫だったのか?」
「ん……取り乱していたなぁ。自分の実の息子が死んだんだぁ。どんだけ気丈な人でも、辛いだろうよ」
「まあ、だろうよなぁ」
「仲悪かったけど、……親子だしなぁ」
「お前はどうなんだ?」
「オレ?オレは……」

正直、何にも思わなかった。
何も思わないことに、罪悪感も抱けない。
そもそも、オレはあの人を、親とすら思っていなかった。
あの人がオレを、自分の子どもだと思っていなかったのと同様に。

「オレ達の親子関係は、破綻していたからなぁ」
「だから、哀しまないと?親子関係よりも、人間性が破綻しているんじゃないのか?」
「妖怪に言われたくねぇよ」
「まあ、その通りだなぁ」

滅茶苦茶してることはよくわかっている。
実の父を助けず、徹夜してまで他人を助けているんだから。
でも、父親を助ける気にはなれなかった。
例え時を遡れたとしても、助ける事はないだろう。

「何でかなぁ……」
「父親の自業自得だと思っているんだろう?だから助けないのではないのか?」
「いや……そうじゃないかなぁ。あ゙ー……たぶん、助けても、どうして良いかわからないんじゃねーのかなぁ」
「はあ?」

机によじ登った紫紺が、こてりと首を傾げてオレを見る。
黙ってりゃ可愛いんだけどなぁ。

「助けてさ、そしたらたぶん、あの人はオレのことを、余計に化け物染みた存在として見るんだろうなぁ。それが、嫌で、だから、助けて嫌悪の目で見られるよりは、見殺しした方が良い、って思っちまったのかもなぁ」
「……どっちにしろ、お主クズ野郎だなぁ。まあ我は一々気にせんが……いつか人間どもには嫌われるぞ」
「……本当?紫紺は、自分勝手で引いたりしない?」
「……バカが。その程度で、我が引いたりするわけないだろうが」

ぽふ、と前足が手の甲に乗せられる。
オレが手を翳すと、紫紺はすりすりと擦り寄って来る。

「お主は転生だの何だのと経験しているけれど、結局、まだまだガキだなぁ」
「……悪かったなぁ、ガキで」
「気にするなぁ。ガキだからこそ、面白いのさ」
「何だそれ」

クスクスと笑う。
何となく、今まで整理しきれなかった気持ちが整理出来て、スッキリした気がする。
紫紺のおかげで、上手く腰を、落ち着けられたような。

「……さて、仕事も終わったし、そろそろ行くかぁ」
「む、今夜はどこら辺だ?」
「伏見稲荷から……柱離宮に掛けてかな。そろそろ、柱離宮までの道にも妖気が満ちるだろうからなぁ」
「うむ、そうだなぁ。それが良いだろう」

そして今日も、オレ達は京都の町を行く。
そしてその先で……

「出たな銀色ぉ!今夜こそ……ぎゃぁああ!?」
「……おい、銀色って何だおい。オレのあだ名かぁ?」
「お主の名もついに、京妖怪の間に聞こえるようになってきたようだなぁ。良かったな」
「いや良くねぇだろぉ!!」

2代目剣帝、人間凶器(ヴァリアーでの悪口)、アクーラ、ガットネロ(9代目守護者の悪口)、その他諸々の他に、銀色の妖殺しという二つ名をゲットしてしまったのだった。
もうオレは変な2つ名なんていらねぇってのに!
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