×ぬら孫
高校、という場所は、オレが思っていたよりもずっと、何でもない場所だった。
前世では、山本が色々と話してくれるのを聞いていたから、一体どんなところなのかと思っていたのだが、実際に通ってみれば、ただガキがたくさん集まっているだけの鬱陶しい場所だ。
山本の話は、ばぁー!とか、ぐわー!とかの擬音語ばかりで、あまり内容が良くわからなかったが、話し振りはとても楽しそうで、ここに通い始める前は少し期待してたんだが、拍子抜けだ。
そしてそんなオレも、もう高校2年生。
そして乙女は中学3年生、受験生である。
「まあ受験、と言っても、お前の行く女子高はうちの会社と繋がりが深い。裏口入学になるが、お前ならそれを理由にいじめを受けたりもねぇだろぉ」
「ふむ、ならば妾は何も気にしないで良い、と言うことじゃな?」
「いや、お前は裏口使わなけりゃ入学出来ねぇてめぇの学力を気にしろぉ」
「……無礼な」
「そんなこと言う暇があるなら勉強しろ」
乙女の学力は、オレが見ていない間に、正直目も当てられない事になっていた。
こんなことが何の役に立つ、などと反抗期の中学生らしい事を言いながら宿題を放り投げる彼女を、使用人達が何度も見ている。
この家が金持ちで良かったな……、と今更ながら本気で思った。
「本当に酷いんだからなぁ?俗に言う赤点だぞぉ。初めて見たぜオイ」
「文句なら、こんな点数を寄越した教師に言うんじゃな」
「教師だって寄越したくてこんな点数を寄越してるんじゃねぇだろうが」
呆れて頭が痛くなってきた。
一旦は学力平均値辺りまでいってたのにどうしてこうなったんだろう。
……オレの目がないからか?
いや、まさかな……。
「やっぱり今度から一緒に宿題しよう。オレも手伝ってやるから、な?」
「要らぬ!だいたい妾は、勉強しなくても生きていけるのだから、宿題などやる必要はないだろう!」
「宿題をやり遂げる事が大切なんだぁ。お前に定められたことが出来ないような奴になってほしくないんだよ、オレ達はぁ」
「妾は大妖怪羽衣狐じゃぞ!?悪い事をしようと約束を破ろうと、妾には関係ない!」
「関係ある!さっさと宿題広げろぉ!!」
「ふぎゅ!?」
ごりごりと乙女の頭に拳をぶつけながら、オレは厳しく叱りつける。
だってほら、こうして叱ってやれるのってオレだけだし。
でもそういうオレの態度が気に食わない奴は結構いるわけで、背後に感じた突然の殺気に反応して、オレは振り向き様に懐から抜いた小刀を構えて攻撃を弾き返した。
「よぉ、久々だなぁ茨木童子?」
「テメーは何、京妖怪のお頭に容赦なく拳向けていやがる!ドタマかち割ってやろうかぁ?あ゙あ!?」
「久々だけど、攻撃は変わり映えしねぇな」
「会話をしろ、このクソガキが!」
怒りながら攻撃してきたのは、あの茨木童子であった。
初めて会ったときから、もう何年も経っているが、本当に攻撃が変わらず正直言ってつまらない男である。
対して、後から出てきた鬼童丸は、持ち技をなかなか全て晒さないから、戦っていても面白い。
考えて戦ってくれるタイプだし。
「鮫弥!お姉様に乱暴したら、この私が許さないんだからね!」
「でもな狂骨、お前の主がガキの勉強も出来ないような奴だと、周りの人間にバカにされたらどうする?オレはそんなのが嫌だからこうして、心を鬼にして乙女を怒ってるんだぁ」
「そ、そうだったの?」
呆気なく納得しかけているのは狂骨だ。
ここ数年で、彼女のオレへの好感度はだいぶ上がったと思う。
お菓子で釣ったことがやっぱりでかかったらしい。
少し不甲斐なくも感じるな。
「闇の聖母……お痛わしい……。ですがオレには何も出来ない……」
「テメーしょうけら……、何も出来なくねぇだろうが!そこのクソガキをぶっ殺せばそれで良いんだよ!!」
しょうけらはどこまでもマイペースだ。
彼らは常に乙女……、いや、彼ら風に言えば羽衣狐か……の周囲にいて、オレを睨んでいたり、話し掛けたりしてくる。
その荒々しい気性や、マイペースさは、ヴァリアーの奴らを思い出させた。
「鮫弥?……どうかしたの?」
「……ん、いや。何でもねぇよ」
ああ、少ししんみりしてしまった。
不思議そうに見上げてくる狂骨の頭を撫でて、オレは改めて乙女に言う。
「まあ、オレのわがままに付き合ってくれるつもりで、頼むよ、乙女」
「……ふん、そこまで言うなら良いだろう。ここの問題を教えろ」
「ん、喜んでお嬢様」
偉そうに言う乙女に、オレはにっこり笑って、宿題の手伝いを始めた。
コイツらは騒がしいし、いつもピリピリしている奴も多いけれど、オレはこの落ち着かない感じが結構好きだった。
でもきっと、今のような状態は長く続かない。
その数ヵ月後、オレが高校三年生、乙女が高校一年生のとある日、オレ達は今までで一番酷い兄妹喧嘩をする。
前世では、山本が色々と話してくれるのを聞いていたから、一体どんなところなのかと思っていたのだが、実際に通ってみれば、ただガキがたくさん集まっているだけの鬱陶しい場所だ。
山本の話は、ばぁー!とか、ぐわー!とかの擬音語ばかりで、あまり内容が良くわからなかったが、話し振りはとても楽しそうで、ここに通い始める前は少し期待してたんだが、拍子抜けだ。
そしてそんなオレも、もう高校2年生。
そして乙女は中学3年生、受験生である。
「まあ受験、と言っても、お前の行く女子高はうちの会社と繋がりが深い。裏口入学になるが、お前ならそれを理由にいじめを受けたりもねぇだろぉ」
「ふむ、ならば妾は何も気にしないで良い、と言うことじゃな?」
「いや、お前は裏口使わなけりゃ入学出来ねぇてめぇの学力を気にしろぉ」
「……無礼な」
「そんなこと言う暇があるなら勉強しろ」
乙女の学力は、オレが見ていない間に、正直目も当てられない事になっていた。
こんなことが何の役に立つ、などと反抗期の中学生らしい事を言いながら宿題を放り投げる彼女を、使用人達が何度も見ている。
この家が金持ちで良かったな……、と今更ながら本気で思った。
「本当に酷いんだからなぁ?俗に言う赤点だぞぉ。初めて見たぜオイ」
「文句なら、こんな点数を寄越した教師に言うんじゃな」
「教師だって寄越したくてこんな点数を寄越してるんじゃねぇだろうが」
呆れて頭が痛くなってきた。
一旦は学力平均値辺りまでいってたのにどうしてこうなったんだろう。
……オレの目がないからか?
いや、まさかな……。
「やっぱり今度から一緒に宿題しよう。オレも手伝ってやるから、な?」
「要らぬ!だいたい妾は、勉強しなくても生きていけるのだから、宿題などやる必要はないだろう!」
「宿題をやり遂げる事が大切なんだぁ。お前に定められたことが出来ないような奴になってほしくないんだよ、オレ達はぁ」
「妾は大妖怪羽衣狐じゃぞ!?悪い事をしようと約束を破ろうと、妾には関係ない!」
「関係ある!さっさと宿題広げろぉ!!」
「ふぎゅ!?」
ごりごりと乙女の頭に拳をぶつけながら、オレは厳しく叱りつける。
だってほら、こうして叱ってやれるのってオレだけだし。
でもそういうオレの態度が気に食わない奴は結構いるわけで、背後に感じた突然の殺気に反応して、オレは振り向き様に懐から抜いた小刀を構えて攻撃を弾き返した。
「よぉ、久々だなぁ茨木童子?」
「テメーは何、京妖怪のお頭に容赦なく拳向けていやがる!ドタマかち割ってやろうかぁ?あ゙あ!?」
「久々だけど、攻撃は変わり映えしねぇな」
「会話をしろ、このクソガキが!」
怒りながら攻撃してきたのは、あの茨木童子であった。
初めて会ったときから、もう何年も経っているが、本当に攻撃が変わらず正直言ってつまらない男である。
対して、後から出てきた鬼童丸は、持ち技をなかなか全て晒さないから、戦っていても面白い。
考えて戦ってくれるタイプだし。
「鮫弥!お姉様に乱暴したら、この私が許さないんだからね!」
「でもな狂骨、お前の主がガキの勉強も出来ないような奴だと、周りの人間にバカにされたらどうする?オレはそんなのが嫌だからこうして、心を鬼にして乙女を怒ってるんだぁ」
「そ、そうだったの?」
呆気なく納得しかけているのは狂骨だ。
ここ数年で、彼女のオレへの好感度はだいぶ上がったと思う。
お菓子で釣ったことがやっぱりでかかったらしい。
少し不甲斐なくも感じるな。
「闇の聖母……お痛わしい……。ですがオレには何も出来ない……」
「テメーしょうけら……、何も出来なくねぇだろうが!そこのクソガキをぶっ殺せばそれで良いんだよ!!」
しょうけらはどこまでもマイペースだ。
彼らは常に乙女……、いや、彼ら風に言えば羽衣狐か……の周囲にいて、オレを睨んでいたり、話し掛けたりしてくる。
その荒々しい気性や、マイペースさは、ヴァリアーの奴らを思い出させた。
「鮫弥?……どうかしたの?」
「……ん、いや。何でもねぇよ」
ああ、少ししんみりしてしまった。
不思議そうに見上げてくる狂骨の頭を撫でて、オレは改めて乙女に言う。
「まあ、オレのわがままに付き合ってくれるつもりで、頼むよ、乙女」
「……ふん、そこまで言うなら良いだろう。ここの問題を教えろ」
「ん、喜んでお嬢様」
偉そうに言う乙女に、オレはにっこり笑って、宿題の手伝いを始めた。
コイツらは騒がしいし、いつもピリピリしている奴も多いけれど、オレはこの落ち着かない感じが結構好きだった。
でもきっと、今のような状態は長く続かない。
その数ヵ月後、オレが高校三年生、乙女が高校一年生のとある日、オレ達は今までで一番酷い兄妹喧嘩をする。