×ぬら孫
「きゃあー!狐様よ!」
「お兄様と揃ってお美しい……」
影で囁かれる、そんな会話を耳にしながら、オレは乙女に話し掛けた。
「入学2ヶ月でこの慕われようって……、まあ何となくわかるけどよ」
「カリスマ性というやつであろう。妾は妖怪の中でも、人の中でも、常に中心におるのじゃよ」
ふふん、と偉そうに笑う乙女の脇腹を小突いて、オレは持ってきていた弁当を広げる。
学校は弁当の日と給食の日があって、今日は弁当の日。
食堂もあるが、柏木達使用人の手製弁当の方が美味いんだよな。
乙女も自分の分を広げて、真っ先にお揚げを口に運ぶ。
やっぱり狐なんだな……。
乙女は弁当を食べるときには、必ずお揚げをリクエストしている。
「勉強とか、色々と大丈夫かぁ?」
「うん?何も問題はないぞ。鮫弥、お主こそどうなのじゃ?最近あまり、寝ておらぬじゃろ?」
「あん?……まあ前よりは寝なくなったが、普通じゃねぇか?」
「睡眠時間平均三時間は普通ではない」
そんなもんか?
オレ的には、今までが寝過ぎだったようにさえ思うんだけどな。
だって1日は24時間しかないんだから、フルに使ってかねぇともったいねーだろ。
「お前の方こそ、昼は学校で、夜には仲間達と悪巧みして……ちゃんと寝られてるのかぁ?」
「悪巧みとは……心外じゃのう。妾は宿願のために動いているだけ。悪巧みなど、してはおらぬ」
「……ふぅん、ま、別に無理してねぇなら、良いんだけどな」
いつもオレが深夜に出掛けるときと、戻るとき、乙女の部屋には妖怪の気配がたくさんあって、見る度に、気になっていた。
だが乙女はそれに答える気はないらしく、オレだって別に無理に聞き出す気もなかったから、そこでその会話は終わってしまう。
……無理に聞く気はないが、オレだってその『宿願』とか『鵺』とかが気にならない訳じゃない。
深夜の妖怪退治のついでに、色々と調べ回ってはいるのだが、彼らの『宿願』や『鵺』という存在については、ほとんど何もわからなかった。
辛うじてわかったことは、『宿願』には『鵺』が大きく関わっていること、そして、その『鵺』は、恐ろしく強大な妖怪らしいということくらいだ。
「なあ、乙女」
「なんじゃ鮫弥?」
「お前らの『宿願』っての、時が来たら、オレにもわかるか?」
「……その時が来たら、そうじゃな、主には少し、話をしてやろう」
妖しい微笑みを携えて言う乙女に、オレは少し嬉しいと思う。
オレの存在、乙女にも少しは、認められているのかな、と思えるから。
「……そうだ、最近狂骨に会ってねぇが、元気かぁ?」
「元気じゃぞ。お主の作る菓子が食べたいと言っていた」
「じゃあ今度は……豆花(トーファ)でも作っかなぁ」
「妾の分も用意しておけ。」
「そんな頼み方じゃ作ってやんねぇ」
「む……妾も食べたい」
「うん、なら作ってやる」
狂骨とお菓子の話になった途端、乙女の纏っていた妖しげな空気は霧散して、オレは思わず笑いを溢す。
最後には口を尖らせて言う彼女が可愛らしくて、つい頭を撫でてしまい、嫌がられた上に怒られてしまった。
うーん、オレもそろそろ、妹離れの時期、なのか……。
早いな、時が過ぎるのは……。
「そろそろ時間だぞ鮫弥。さっさと教室に戻れ」
「へいへい、お前も遅刻すんじゃねーぞ」
「わかっておるわ」
半ば喧嘩腰の乙女と言葉を交わして、それぞれの教室に帰る。
怒っていたようだったのに、オレが手を振れば、それに応えてくれる乙女はやはり愛おしいと思う。
「オレもう完璧にシスコンじゃねーかぁ?」
『……手遅れだなぁ』
一人呟いた言葉に、紫紺の呆れた声が答えてくれた。
「お兄様と揃ってお美しい……」
影で囁かれる、そんな会話を耳にしながら、オレは乙女に話し掛けた。
「入学2ヶ月でこの慕われようって……、まあ何となくわかるけどよ」
「カリスマ性というやつであろう。妾は妖怪の中でも、人の中でも、常に中心におるのじゃよ」
ふふん、と偉そうに笑う乙女の脇腹を小突いて、オレは持ってきていた弁当を広げる。
学校は弁当の日と給食の日があって、今日は弁当の日。
食堂もあるが、柏木達使用人の手製弁当の方が美味いんだよな。
乙女も自分の分を広げて、真っ先にお揚げを口に運ぶ。
やっぱり狐なんだな……。
乙女は弁当を食べるときには、必ずお揚げをリクエストしている。
「勉強とか、色々と大丈夫かぁ?」
「うん?何も問題はないぞ。鮫弥、お主こそどうなのじゃ?最近あまり、寝ておらぬじゃろ?」
「あん?……まあ前よりは寝なくなったが、普通じゃねぇか?」
「睡眠時間平均三時間は普通ではない」
そんなもんか?
オレ的には、今までが寝過ぎだったようにさえ思うんだけどな。
だって1日は24時間しかないんだから、フルに使ってかねぇともったいねーだろ。
「お前の方こそ、昼は学校で、夜には仲間達と悪巧みして……ちゃんと寝られてるのかぁ?」
「悪巧みとは……心外じゃのう。妾は宿願のために動いているだけ。悪巧みなど、してはおらぬ」
「……ふぅん、ま、別に無理してねぇなら、良いんだけどな」
いつもオレが深夜に出掛けるときと、戻るとき、乙女の部屋には妖怪の気配がたくさんあって、見る度に、気になっていた。
だが乙女はそれに答える気はないらしく、オレだって別に無理に聞き出す気もなかったから、そこでその会話は終わってしまう。
……無理に聞く気はないが、オレだってその『宿願』とか『鵺』とかが気にならない訳じゃない。
深夜の妖怪退治のついでに、色々と調べ回ってはいるのだが、彼らの『宿願』や『鵺』という存在については、ほとんど何もわからなかった。
辛うじてわかったことは、『宿願』には『鵺』が大きく関わっていること、そして、その『鵺』は、恐ろしく強大な妖怪らしいということくらいだ。
「なあ、乙女」
「なんじゃ鮫弥?」
「お前らの『宿願』っての、時が来たら、オレにもわかるか?」
「……その時が来たら、そうじゃな、主には少し、話をしてやろう」
妖しい微笑みを携えて言う乙女に、オレは少し嬉しいと思う。
オレの存在、乙女にも少しは、認められているのかな、と思えるから。
「……そうだ、最近狂骨に会ってねぇが、元気かぁ?」
「元気じゃぞ。お主の作る菓子が食べたいと言っていた」
「じゃあ今度は……豆花(トーファ)でも作っかなぁ」
「妾の分も用意しておけ。」
「そんな頼み方じゃ作ってやんねぇ」
「む……妾も食べたい」
「うん、なら作ってやる」
狂骨とお菓子の話になった途端、乙女の纏っていた妖しげな空気は霧散して、オレは思わず笑いを溢す。
最後には口を尖らせて言う彼女が可愛らしくて、つい頭を撫でてしまい、嫌がられた上に怒られてしまった。
うーん、オレもそろそろ、妹離れの時期、なのか……。
早いな、時が過ぎるのは……。
「そろそろ時間だぞ鮫弥。さっさと教室に戻れ」
「へいへい、お前も遅刻すんじゃねーぞ」
「わかっておるわ」
半ば喧嘩腰の乙女と言葉を交わして、それぞれの教室に帰る。
怒っていたようだったのに、オレが手を振れば、それに応えてくれる乙女はやはり愛おしいと思う。
「オレもう完璧にシスコンじゃねーかぁ?」
『……手遅れだなぁ』
一人呟いた言葉に、紫紺の呆れた声が答えてくれた。