×ぬら孫

この春、オレは中学生になった。
背は、うん……今やっと165くらい。
普通よか高いんだが、紫紺にはまだまだと言われる。
まだ体が成長しきってなく、技術も未発達で危ないのだとか。
いつになったら式神融合とか言うの、出来るようになるのだろう……。

「……はあ」

下駄箱を開けて、ため息。
そこには何枚かの封筒が。
いわゆるラブレターって奴。

「モテモテだなぁ鮫弥?」
「……こういうの、困るんだがなぁ」

鞄の中に潜んでいる紫紺に言われて、他の人間には聞こえない程度の音量で話す。
オレはあくまで女で、悪いけど同性に恋愛感情は抱けないし、そもそも彼女達も、オレの事を男と思ってこんなことしているんだろうから、ものすごく困るんだ。
手紙は一応ポケットに突っ込んで、教室に向かった。
挨拶をしてくる同級生や先輩に、なるべく柔らかい表情で挨拶を返し、自分の席についた。

「……猫被りめ」
「仕方ねぇだろ」

お金持ち、成績優秀、スポーツ万能、加えて容姿端麗となれば、嫉妬や恨みの対象となることは避けがたい。
その上性格まで悪いとなったら、もう手が付けられない。
面倒なことになるくらいなら、愛想よくする方がずっと安い。
荷物を置いたオレは、トイレに向かう。
……男子トイレだ。
個室にこもって、パラパラと手紙の束を捲ると、好きとか、愛してるとか、そんな安っぽい言葉が目に飛び込んできた。
直接的な言葉のない手紙には、大体が何時にどこどこに来て欲しいとか、お話がしたいのでこのアドレスに連絡をくださいとか、そんな言葉が書いてある。

「乙女心は今も昔も変わらないなぁ」
「……はあ」

学ランの中に忍び込んでいた紫紺が襟から這い出てきて、肩の上から文字列を追う。
オレは全部確かめ終わると、個室を出てさっさと教室に戻る。
ああ、今日の学校も憂鬱だ。
窓の外を眺めると、1羽の雀がベランダに止まっていた。

「鳥になりたい……」
「年寄り臭い願いだ」

はあ、と一息。
飛び立つ雀を見送った。
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