×鰤市
朽木ルキアの処刑時間が早まった。
夜が明けてから、そう時間の経たない内に、六道骸からその連絡を受けた。
「明日ぁ!?」
『ええ、異例の変更です。やはり、何かありますね。恐らく藍染が中央の連中を操って……いや、既に彼らも殺されているかもしれません。そっちの方が都合が良いですからね』
「マジかよ……」
困ったことになった。
ルキアの救出は黒崎達に任せるつもりだったが、明日の正午に処刑では、修行が間に合うかわからねぇ。
助けに入るか……?
しかし、白蘭達の指示もなく動くのは危険過ぎる。
『──だーいじょうぶ大丈夫!ルキアちゃんの奪還は、一護クン達に任せちゃってよ♪』
「なっ……白蘭!?」
突然、通信の中に軽薄な声が飛び込んでくる。
『骸さん!スクアーロさん!ご無事ですか!?』
『この声……ユニですか?』
「こっちは無事だぁ。しかし、奪還作戦は手助けしないで良いのかぁ?」
『うん。ユニちゃんの予知には、助け出されたルキアちゃんが見えている。つまり、助けるとこまでは上手く行くってことだよ♪』
「……なら、オレ達が狙う敵は……」
『クフフ。藍染惣右介、ですね』
『そーいうこと♪君達が狙うタイミングは一度だけ。彼が裏切りを暴露し、崩玉を手に入れて、尸魂界から逃げる、その瞬間』
『そこにのみ、私達異界の者が入り込める〈隙〉がある』
「……了解した。六道」
『ええ、まずは今夜。僕の部屋で合流しましょう。それまではお互い、罠を張るなり、情報を集めるなり、個人で動いた方が良い』
『じゃ、頼むよ二人とも♪』
『貴方に指図される謂れはありませんが』
「こんな時までつんけんしてんじゃねぇよ」
足並みは揃わないが、それでもやることは決まった。
修行を始めようとしていた二人に断って隠れ家を出る。
この間激しく争っていたのを見る限り、隊長同士も一枚岩ではないらしい。
彼らの動向は確認しておきたい。
そうだな、まずはこの間懺罪宮で会ったあの男……浮竹から。
奴の羽織の数字は、確か十三だった。
オレは十三番隊舎へと脚を踏み出したのだった。
* * *
「浮竹隊長は双極破壊のために四楓院へ、日番谷隊長は再び判決に異を唱えるために中央へ。ふむ、まあ順当な流れでしょうね」
夜、情報を集めたオレは、六道骸の私室を訪れていた。
顔の知らない隊長まではわからなかったが、知っている奴らの事はだいたい確認できたはずだ。
「阿散井さんが旅禍側についたのは、少々意外でしたが」
「そうかぁ?」
一護の修行している場所では、阿散井恋次が一緒に修行をしている。
現世で会ったときよりも、どこか吹っ切れたような印象だった。
「とにかく、どいつが安牌でどいつが危険なのか、それくらいの判別は出きんだろぉ」
「ええ、十分可能でしょう」
オレ達の調べでは、八、十、十三番隊は積極的にこちらと争う気はなさそうである。
次いで、四、十二番隊。
要注意なのはやはり、藍染の率いていた五番、そして腹心らしき男、市丸の三番、さらに、白蘭曰く東仙という男のいる九番隊も危険らしい。
「やはり、幻術の条件は斬魄刀を見ることでしょうね」
「何故だぁ?」
「東仙要九番隊長、彼は盲目です」
「……なるほどなぁ。自分の術中にはまらない奴を、先んじて手篭めにしていたわけかぁ」
ということは、その東仙も、いつかは捨てられるのだろう。
藍染にとっては便利な駒であり、しかし同時に、厄介な駒でもある。
「市丸ってやつは?」
「白蘭みたいなものです。僕には真意が掴めない」
「ああ……」
白蘭みたいなもの、という表現で納得してしまう辺り、あいつのキャラの濃さは影響力が強い。
まあ上手く言葉にするなら、掴み所のない男、というところか。
「処刑は正午。そして恐らく奪還もその時刻に行われるでしょう。藍染はその作戦の隙を突いて、朽木ルキアを捕らえ、例の崩玉とやらを手に入れる」
「崩玉を手に入れ、藍染が尸魂界から逃亡しようとするんだったかぁ。しかし、逃亡ったってどこに逃げるつもりなんだぁ?」
「霊子濃度の高い崩玉を扱うつもりなら、恐らくは虚圏。であれば奴は虚とも手を組んでいる」
「話通じんのかぁ?」
「強い虚であれば、話の通じる輩もいます」
「てことは、あの虚どもが使ってる黒い穴みてぇなのを使って逃げる気か。くそ、面倒くせぇ」
「貴女の白氷であれば、穴そのものを攻撃して閉じさせることも可能でしょう。上手く塞いで、即座に我々のフィールドに引き込む」
「なら、引き込む役目はてめぇに任せるぞぉ」
「無論です。そして貴女は……」
じっと、骸の視線がオレの顔を貫く。
何が言いたいのかは、何となく伝わった。
「当然、全力を出す。全霊を懸ける。そうでもしなくちゃあ、殴れねぇような奴なんだろぉ」
「ええ。……しかし、あの技は貴女の肉体にかなりの無理を強いる。使い処を間違えないでくださいね」
「わかってる」
上手く使わなければ、自滅も有り得る。
それだけの強力な技。
藍染の強さは未だにわからず、それどころか面と向かって会ったことすらない。
明日、どれだけ奴と接触できるかが鍵になる。
「その為にも、まずは奴の拠点へ向かいましょう」
「……は!?拠点もうわかってんのかぁ!?」
「僕をなめないでください。奴の居所くらい見当は着いてます。……問題は突撃のタイミングだ。早すぎてもダメですし、遅すぎてもダメ。貴女が奴の力を見極めるためにも、奴の逃亡のタイミングよりも前に、一度は接触しておきたい」
「……難しいな」
「こればかりは、その場で判断しなければなりませんね」
ここが、一番の難関だろう。
はじめの接触をどのタイミングで行うか。
また、その場では藍染の斬魄刀の術に掛からないよう、細心の注意を払う必要がある。
さらに、そこで余計な力を使わないように調節して、最後の戦いまで余力を残しておくこと。
「……ともかくも、今日は休みましょう。本番は明日、正午からです」
「わかった」
藍染惣右介は、強い上に、めちゃくちゃ面倒くさい。
ため息を吐きたい気持ちを抑えて、骸の言葉に素直に頷いた。
決戦は正午。
それまではゆっくりと体を休めるために、オレは薄べったい座布団に身を横たえた。
* * *
翌日、早朝に起きたオレ達は、藍染が身を潜めていると思われる場所……清浄塔居林へと向かった。
本来は死神の立ち入ることができない場所。
高貴な身分の者達のみに許された聖域。
故に……死神に見られずに身を隠すには、もってこいの場所。
清浄塔居林の手前、四十六室に入ってすぐ、濃密な血の匂いを嗅ぎ取った。
中は酷い有り様で、議会の席についた全ての議員達が、惨殺されている。
「……いない、ですね」
オレよりも円の範囲が広い骸が、首を振りながらそう言った。
隠しているか、本当にいないのか。
オレも、生きている人間の気配は感じ取れない。
勿論塔居林の中も確認したが人はおらず、念のため、奥の方まで詳しく探るが、どこにも人の姿はなかった。
「ここ以外であれば、考えられるのは地下の回廊……」
「待つか?」
「……動きがあるならば、ここでしょう。待ちます」
少し影になっている場所に腰を下ろす。
暫くはここから動けない。
ルキア奪還は完全に黒崎達に任せている。
向こうに藍染らしき反応が出れば、オレの式神が感知するだろうけれど、出来ればここは外れてほしくない。
緊張を解すように頬を揉み、懐から水筒を取り出した。
「とりあえず、茶でも飲むかぁ」
「貴女、緊張感って言葉知ってます?」
「バカにすんなてめぇ」
神経尖らせ過ぎて気疲れして、いざってときに動けないと困るだろ。
二人で茶をすすりながら、人が来るのをぼんやりと待った。
夜が明けてから、そう時間の経たない内に、六道骸からその連絡を受けた。
「明日ぁ!?」
『ええ、異例の変更です。やはり、何かありますね。恐らく藍染が中央の連中を操って……いや、既に彼らも殺されているかもしれません。そっちの方が都合が良いですからね』
「マジかよ……」
困ったことになった。
ルキアの救出は黒崎達に任せるつもりだったが、明日の正午に処刑では、修行が間に合うかわからねぇ。
助けに入るか……?
しかし、白蘭達の指示もなく動くのは危険過ぎる。
『──だーいじょうぶ大丈夫!ルキアちゃんの奪還は、一護クン達に任せちゃってよ♪』
「なっ……白蘭!?」
突然、通信の中に軽薄な声が飛び込んでくる。
『骸さん!スクアーロさん!ご無事ですか!?』
『この声……ユニですか?』
「こっちは無事だぁ。しかし、奪還作戦は手助けしないで良いのかぁ?」
『うん。ユニちゃんの予知には、助け出されたルキアちゃんが見えている。つまり、助けるとこまでは上手く行くってことだよ♪』
「……なら、オレ達が狙う敵は……」
『クフフ。藍染惣右介、ですね』
『そーいうこと♪君達が狙うタイミングは一度だけ。彼が裏切りを暴露し、崩玉を手に入れて、尸魂界から逃げる、その瞬間』
『そこにのみ、私達異界の者が入り込める〈隙〉がある』
「……了解した。六道」
『ええ、まずは今夜。僕の部屋で合流しましょう。それまではお互い、罠を張るなり、情報を集めるなり、個人で動いた方が良い』
『じゃ、頼むよ二人とも♪』
『貴方に指図される謂れはありませんが』
「こんな時までつんけんしてんじゃねぇよ」
足並みは揃わないが、それでもやることは決まった。
修行を始めようとしていた二人に断って隠れ家を出る。
この間激しく争っていたのを見る限り、隊長同士も一枚岩ではないらしい。
彼らの動向は確認しておきたい。
そうだな、まずはこの間懺罪宮で会ったあの男……浮竹から。
奴の羽織の数字は、確か十三だった。
オレは十三番隊舎へと脚を踏み出したのだった。
* * *
「浮竹隊長は双極破壊のために四楓院へ、日番谷隊長は再び判決に異を唱えるために中央へ。ふむ、まあ順当な流れでしょうね」
夜、情報を集めたオレは、六道骸の私室を訪れていた。
顔の知らない隊長まではわからなかったが、知っている奴らの事はだいたい確認できたはずだ。
「阿散井さんが旅禍側についたのは、少々意外でしたが」
「そうかぁ?」
一護の修行している場所では、阿散井恋次が一緒に修行をしている。
現世で会ったときよりも、どこか吹っ切れたような印象だった。
「とにかく、どいつが安牌でどいつが危険なのか、それくらいの判別は出きんだろぉ」
「ええ、十分可能でしょう」
オレ達の調べでは、八、十、十三番隊は積極的にこちらと争う気はなさそうである。
次いで、四、十二番隊。
要注意なのはやはり、藍染の率いていた五番、そして腹心らしき男、市丸の三番、さらに、白蘭曰く東仙という男のいる九番隊も危険らしい。
「やはり、幻術の条件は斬魄刀を見ることでしょうね」
「何故だぁ?」
「東仙要九番隊長、彼は盲目です」
「……なるほどなぁ。自分の術中にはまらない奴を、先んじて手篭めにしていたわけかぁ」
ということは、その東仙も、いつかは捨てられるのだろう。
藍染にとっては便利な駒であり、しかし同時に、厄介な駒でもある。
「市丸ってやつは?」
「白蘭みたいなものです。僕には真意が掴めない」
「ああ……」
白蘭みたいなもの、という表現で納得してしまう辺り、あいつのキャラの濃さは影響力が強い。
まあ上手く言葉にするなら、掴み所のない男、というところか。
「処刑は正午。そして恐らく奪還もその時刻に行われるでしょう。藍染はその作戦の隙を突いて、朽木ルキアを捕らえ、例の崩玉とやらを手に入れる」
「崩玉を手に入れ、藍染が尸魂界から逃亡しようとするんだったかぁ。しかし、逃亡ったってどこに逃げるつもりなんだぁ?」
「霊子濃度の高い崩玉を扱うつもりなら、恐らくは虚圏。であれば奴は虚とも手を組んでいる」
「話通じんのかぁ?」
「強い虚であれば、話の通じる輩もいます」
「てことは、あの虚どもが使ってる黒い穴みてぇなのを使って逃げる気か。くそ、面倒くせぇ」
「貴女の白氷であれば、穴そのものを攻撃して閉じさせることも可能でしょう。上手く塞いで、即座に我々のフィールドに引き込む」
「なら、引き込む役目はてめぇに任せるぞぉ」
「無論です。そして貴女は……」
じっと、骸の視線がオレの顔を貫く。
何が言いたいのかは、何となく伝わった。
「当然、全力を出す。全霊を懸ける。そうでもしなくちゃあ、殴れねぇような奴なんだろぉ」
「ええ。……しかし、あの技は貴女の肉体にかなりの無理を強いる。使い処を間違えないでくださいね」
「わかってる」
上手く使わなければ、自滅も有り得る。
それだけの強力な技。
藍染の強さは未だにわからず、それどころか面と向かって会ったことすらない。
明日、どれだけ奴と接触できるかが鍵になる。
「その為にも、まずは奴の拠点へ向かいましょう」
「……は!?拠点もうわかってんのかぁ!?」
「僕をなめないでください。奴の居所くらい見当は着いてます。……問題は突撃のタイミングだ。早すぎてもダメですし、遅すぎてもダメ。貴女が奴の力を見極めるためにも、奴の逃亡のタイミングよりも前に、一度は接触しておきたい」
「……難しいな」
「こればかりは、その場で判断しなければなりませんね」
ここが、一番の難関だろう。
はじめの接触をどのタイミングで行うか。
また、その場では藍染の斬魄刀の術に掛からないよう、細心の注意を払う必要がある。
さらに、そこで余計な力を使わないように調節して、最後の戦いまで余力を残しておくこと。
「……ともかくも、今日は休みましょう。本番は明日、正午からです」
「わかった」
藍染惣右介は、強い上に、めちゃくちゃ面倒くさい。
ため息を吐きたい気持ちを抑えて、骸の言葉に素直に頷いた。
決戦は正午。
それまではゆっくりと体を休めるために、オレは薄べったい座布団に身を横たえた。
* * *
翌日、早朝に起きたオレ達は、藍染が身を潜めていると思われる場所……清浄塔居林へと向かった。
本来は死神の立ち入ることができない場所。
高貴な身分の者達のみに許された聖域。
故に……死神に見られずに身を隠すには、もってこいの場所。
清浄塔居林の手前、四十六室に入ってすぐ、濃密な血の匂いを嗅ぎ取った。
中は酷い有り様で、議会の席についた全ての議員達が、惨殺されている。
「……いない、ですね」
オレよりも円の範囲が広い骸が、首を振りながらそう言った。
隠しているか、本当にいないのか。
オレも、生きている人間の気配は感じ取れない。
勿論塔居林の中も確認したが人はおらず、念のため、奥の方まで詳しく探るが、どこにも人の姿はなかった。
「ここ以外であれば、考えられるのは地下の回廊……」
「待つか?」
「……動きがあるならば、ここでしょう。待ちます」
少し影になっている場所に腰を下ろす。
暫くはここから動けない。
ルキア奪還は完全に黒崎達に任せている。
向こうに藍染らしき反応が出れば、オレの式神が感知するだろうけれど、出来ればここは外れてほしくない。
緊張を解すように頬を揉み、懐から水筒を取り出した。
「とりあえず、茶でも飲むかぁ」
「貴女、緊張感って言葉知ってます?」
「バカにすんなてめぇ」
神経尖らせ過ぎて気疲れして、いざってときに動けないと困るだろ。
二人で茶をすすりながら、人が来るのをぼんやりと待った。