×ぬら孫

オレが風邪で寝込んでいる間、色んな人が心配してくれていたらしい。
紫紺の話だと、乙女も見舞いに来ていたらしい。
寝ている最中に来たらしい。
『らしい』ばかりなのは、あれだ、オレが意識朦朧としていていたり、ほとんど寝て過ごしていたのが理由である。
乙女が来たとき位は、起きていたかったなぁ。
それと、風邪が治って直ぐ、オレは紫紺に自分の事を話した。
つまりは前世、そして炎の事を。
紫紺の反応は、思っていたよりも淡白で、ちょっとつまらない。

「まあ、これでも驚いているんだぞ?……しかし、お主がその身の上を明かしたのならば、我も己の事を余すところなく明かさねばなぁ」
「己の事?」
「ああ、我の畏のことよ」
「畏……?」
「む、お主、畏を知らんのか!?」

畏……、と言うのは、妖怪の力の総称の事だそうだ。
人を怖がらせること、信仰させること、憧れさせることでその力は得られる。
畏とは、その妖怪の存在そのもの。
その妖怪のアイデンティティと呼べるものなのだそうだ。
アイデンティティなのだからして、その畏には一つ一つ特色がある。

「我の畏は再現、具現化だ」
「再現……茶の先生に化けていたのもその力なのかぁ?」
「ああ、あれもそうだなぁ。見たものならば人だろうと、物だろうと、化けることが出来るのだ。スゴいだろう?」
「おお、スゲーなぁ」
「ふふん、もっと誉めろ!」
「紫紺はスゴいなー、オレには真似できないぜー」
「棒読みではないか!」

だって自分で誉めろって言われちゃったら、萎えちゃうじゃねーか。
でも確かに紫紺の畏はスゴいな。

「その畏っての?オレには使えねぇのかぁ?こう、化けたり、炎出したりとか……あれ?オレ畏がなくても炎使えるな……」
「む、どっちにしろ、人には畏は使えない。だが妖と出会ったとき、畏に飲まれればそれはもう負けたも同然。妖の前では、誰しもが常に毅然としていなければならない」
「なるほど、妖と戦うときの心得、だな」

今まで陰陽術や妖怪の知識は独学で学んできたけど、やっぱり誰かに教わるのは良いな。
わからないことも直ぐに解決するし、思いもしなかった知識が手に入る。

「……ああ、そう言えば、1つだけ人間が妖の力を借りる方法があったなぁ」
「え……本当かぁ!?」
「式神融合と言うものだ。本来なら式神同士を融合させて強化するのだが、確か自分に式神を憑かせることで、式神の力を……」
「それやりてぇ!」

だってそうしたら、霧の炎が無くても色んな物に変身出来るんだよな?
それはスゴい、ヤバい、半端ない。
何か一気にテンションが上がってきたオレとは逆に、紫紺のテンションは下がってきている。
な、何か問題でもあるのか……?

「式神との融合は、相当高度な技術だと聞いている。それに、今は子供のお主には負担も大きい。……もうすこぅし、大きくなるまでは我慢だなぁ」
「そ、そんな……!オレ成長早いし!大丈夫だろ!?確かに松原とかと比べるとまだ小さいけど、あと1年もすれば一気に170越えるぜ!」
「ならばあと1年、じっくりと耐えるんだなぁ」
「ゔぅーっ……!」

怒ろうと拗ねようと、紫紺の考えを変えることは出来ず、オレは結局170越えるまでは式神融合は禁止にされた。
でも小学5年生過ぎてからぐんぐん伸びてきたし……。
140だったのがもう160行きそうだし……。
く、悔しくなんか…………やっぱりちょっと悔しいぞチクショウ……!
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