×鰤市

「らっしゃーい」
「え!?スクアーロ君!」
暑い夏の深夜。
浦原商店の前に集まった奴らを迎え入れるために、内側から鍵を開けてやる。
出迎えたオレを見て、目を見開いて驚く皆を見ると、悪戯が成功したようなうずうずとした気持ちを感じる。
「はは、驚いたかぁ?」
「ビックリしたぁ!そっか、スクアーロ君も来てくれるんだね!」
「……てっきり、井上さんや茶渡君と一緒に修行しているのかと思っていたのだけど、違ったのかい?」
「ム、スクアーロは一緒ではなかった。大丈夫なのか?」
「まあ、こいつは喧嘩強いし、何とかなるだろ。な?」
「まーぁな」
「でも、なんで浦原さんの店から?」
「ちょっとした手伝いを頼まれてたんだよ。まあ、バイトみたいなもん?」
「ほぉ」
特に怪しまれずに受け入れてもらえて……、ちょっと心配になる。
これから敵陣に攻め込むのに、この悠長さで大丈夫?
敵の中には搦め手で来る奴も絶対居るぜ?
ほらそこ、オレの服装が暑そうだの石田とは対極だのとチェックしてる場合じゃないぞ。
というかお前ら軽装過ぎるだろ。
向こうについたとき食べ物とか応急処置とかどうするんだ。
やっぱり着いてきて正解だった。
いや、初めから尸魂界には行く気だったが、浦原に無理言って一人で行かなくて良かった。
こいつらと別行動をするのは、不安でしんどい。
「とにかく、中に入ろうぜぇ。浦原達も待ってる」
元気に返事をしてくれる連中を伴って、地下へと降りる。
地下に降りてすぐに、そのドでかい空間に感動する井上と、その言葉に喜ぶ握菱。
カオスな空間だ。
後の説明は浦原達にバトンタッチして、オレは自分の持ち物を整理する。
一番大事なのは白蘭に持たされたこれだ。
「……通信の具合は?」
『──良好だよ♪そっちはようやく全員揃ったみたいだね?』
耳に付けたピアス型の通信機からは、いつも通りの軽薄そうな声が聞こえてくる。
「おう、準備万端だぜ」
『OK、向こうについたらまた連絡を頂戴。死神が来たときと、虚が出たときの観測を元に、ある程度の空間移動には耐えられるようになってるはずだけど、計算違いがあるかもしれないからね』
「了解」
『──スクアーロさん!お怪我をしないように、気を付けていってきてください!』
「安心しろぉ。無事にあの馬鹿連れ帰ってくるよ」
さて、そろそろ浦原の説明も終わる頃合いか。
通信を切って、オレも門の前に移動する。
尸魂界に繋がるこの門は、断界と呼ばれる道に繋がっているそうだ。
そこは世界とは隔絶された場所。
もしそこから出られないまま、閉じ込められるようなことになれば、そこでゲームオーバー。
だからオレ達は、何としてでもそこを抜けねばならない。
浦原と握菱が詠唱を終えると同時に、門に光が満ちる。
夜一を先頭にして、オレ達は門へと飛び込んだ。


 * * *


「う゛お゛ぉい!!ボケッとしてんなぁドカス!」
「うわぁ!?」
断界の中、拘流という壁に追い掛けられながら、オレ達は必死に脚を動かしていた。
最後尾を走りながら、拘流に服の端を取られそうになった石田を引っ張り回避させる。
自分一人ならば、とっとと突っ走って抜け出すのだが、この人数ではそれも難しい。
石田をひっぱり、スピードを上げて走るが、それでも間に合うかどうかは怪しい。
ふと振り向いた先に、何やら怪しく光るものが見えて叫ぶ。
「夜一!何か来る!」
「チッ!拘突じゃ!七日に一度しか現れぬ"掃除屋"が、何も今出ずともよいものを!!」
逃げろと叫ぶ夜一に、オレ達もさらにスピードを上げる。
だが、この拘突、やたらと速い。
このままでは恐らく追い付かれる。
ならばその前に……。
「捕まれ、井上!」
「え?きゃ!?」
「乗れ、夜一!」
「すまぬな」
井上を右脇に抱え、夜一を肩に乗せる。
そして残った左腕で、チャクラ糸を伸ばして残りの三人にくっつけた。
本業の傀儡師なら体全体を操ることができるだろうが、オレにできるのは精々思いっきり引っ張るだけ。
だが、今はそれだけあれば十分。
「全員跳ぶぞぉ!構えろ!!」
「うぉあ!!?」
「っ……!!」
「か、体が勝手に……!」
チャクラを脚に込めて地面を蹴る。
拘流にぶつからないよう、うまく調節しながらギリギリのスピードで走り、そして出口をくぐり抜けると……。
「っ!空か!」
「私が!火無菊、梅厳、リリィ、『三天結盾!!私は……拒絶する』!」
上空に浮いた出口から、全員為す術なく落下していく。
井上の髪に飾られたヘアピンから、鳥のような何かが現れ、地面へ大きな盾のような物を張った。
脚をオーラで多い強化する。
『堅』では堅いだけで、衝撃を受け流せない。
筋肉を強化してバネのようにし、落下の衝撃を受け流した。
「……ふぅ、大丈夫かぁ?」
「ぷうっ!私は全然平気!ありがとうスクアーロ君!」
「儂も問題ない。ギリギリじゃったのぅ」
「わあっ!黒崎君の着地姿勢芸術的!」
「うるせぇよ」
どうやら全員無事に着地できたらしい。
井上曰く芸術的に着地している黒崎と、こちらも同じく芸術的に落ちてる石田。
それからちゃっかり綺麗に着地しているチャド。
それぞれ怪我もないようで、ひとまずは安心と言ったところか。
しかしこれだけ派手に落ちたからには、敵に見付かってもおかしくないはずなのだが、近くに敵意のある気配は感じられない。
弱い霊体が複数いることは、円を広げているのでわかるのだが、彼らは隠れたまま、出てくる様子が見られない。
土煙が晴れ、次第に露になる景色に、夜一が説明することには、ここは『郛外区』、もしくは『流魂街』と呼ばれる、死神以外の一般的な死者の霊魂が住む街らしい。
なるほど、それなら隠れたままなのも納得だな。
そして流魂街から先、街並みがガラリと変わる方へと目を移す。
恐らくあれが瀞霊廷だろう。
何も考えてないらしい黒崎が、瀞霊廷へと一直線に走っていくのを掴まえて止める。
思わず頭を掴んだ手に力が入りすぎてしまったのは、ご愛嬌だと思っていただきたい。
「いっでぇ!?てめっ、何すんだよスク……」
「空から何か降ってくるぞぉ」
「え?」
黒崎がポカンとこちらを見てきたその瞬間。
空から壁が降ってきた。
鼓膜が割れそうな程の轟音。
落ちてくる壁が、相当重くて頑丈なのだろう事が察せられる。
あの浦原の計画ならば、正面からの侵入なんて元から考えちゃいなかったろうが、たぶんこいつは、どれだけ強い人間だろうと破れない。
あの壁、普通の壁じゃない。
ただ重いだけじゃなくて、異様な気を放っている。
目にオーラを集め、凝をして見れば、壁の上部からも、莫大な気が発されていることがわかる。
まともな手段じゃ通れそうにない。
「久す振りだなぁ……。通廷証もなすに、ごの瀞霊門をくぐろうどすだ奴は……」
壁が現れると同時に、ぬぅと大きな影がオレ達の前に姿を表す。
巨人と言って差し支えないほどの巨躯。
その男は大地を震わせる程の声で喋りながら、オレ達への前へと立ち塞がった。
「久々のオラの客だ。もてなすど、小僧ども!」
うん?これはもしや、オレも含まれている?
大男の構えた斧が真っ直ぐに空を指し、そして風を押し潰しながら、オレ達へと襲い掛かってきた。
38/58ページ
スキ