×鰤市
「……行ってこい」
かさかさと紙の擦れる音は、人混みの喧騒に紛れて誰にも気付かれない。
鳥の形をした紙人形は、人々の頭の上を通り過ぎ、観音寺という派手な男の背中にぴとりと貼り付いた。
番組の収録開始直後、ヘリからダイナミックに飛び降りたドン観音寺?とかなんとかいう男は、よくよく見てみれば随分と精度の高い察知能力を持っているようで、廃病院で叫びまくる幽霊を見付けるや否や、空きかけた胸の穴に向けて躊躇なく持っていたステッキをぶっ刺した。
……大丈夫なのかあれ?
あの穴って要するに、空いてなければ整(プラス)の霊で、空いてる奴が虚ってことなんだろ?
客席に視線を走らせれば、人混みを掻き分けて前に出ようとする奴が数人見える。
朽木と黒崎のコンビ。
そして……何故お前がいる、石田雨竜。
いや、聞いてはいたけれど、お前この観衆の中によく一人で来られたなぁ、と感心せずにいられない。
しかしこの顔ぶれが焦って止めに入ろうとしているのを見るに、どうやらこれはダメな奴らしい。
白蘭から聞く限り、石田は止めておいた方が良いんだったよな。
ヤモリの紙人形を走らせて、石田の足を絡めとる。
一瞬脚を縺れさせた石田の少し離れた場所をすり抜けていくように、黒崎が走り、柵を飛び越えて観音寺を止めようと叫んだ。
「やめろォっ!!」
飛び越えたところまでは良かった。
うん、そこまではな。
カメラの前に飛び出た直後、警備員がその背にのし掛かっていく。
……って!多い多い!
黒崎の奴、潰れちまうんじゃないのか?
ちらりと周囲を見渡すと、黒崎に続いて朽木が飛び出して行くのが見える。
同じく捕まってる辺り、二人揃ってちょっと頭が……。
いや、とにもかくにも、これじゃあアイツら、観音寺を止められないじゃないか。
さらに周囲をぐるりと眺める。
チラチラと、特徴的な縞模様の帽子が見え隠れしている。
……そうだ、アイツが浦原。
白蘭からは、情報を引き出してほしいと言われているが、さて、まずは相手と同じ土俵まで上がらないとならない。
ひとまず、人混みを掻き分けて、少しずつ前へ前へと進み出ていく彼らを、前から強引に引っ張って黒崎の元へと導いた。
少し驚いたような雰囲気が隣を通りすぎる。
浦原の持つ杖の先が、黒崎の後頭部にぶち当たると、そのまま奴の魂だけを押し出して、するりと体をすり抜けた。
「う……浦原……!!」
「どうも♡」
「ス、スクアーロも……!」
「よっ」
黒崎にはとっとと行けと顎で指し、残った朽木と話す浦原ご一行に視線を戻す。
怪しげな、というか見るからに怪しい浦原達に対して、朽木は不信感を隠せないらしい。
その背後に忍び寄る影が一つ。
あ、あれはまずい。
オレは一人、すぅっと体を引いて人混みに隠れる。
浦原の肩が軽く叩かれた。
振り返った先にいたのは、朽木を捕まえている男達と揃いの制服を着た警備員。
まああんな風に仲良く話してりゃあ、会場に飛び込んだ迷惑な客の仲間だって思われるよなぁ……。
警備員の問い掛けに言葉を詰まらせた浦原。
どうやって切り抜けるんだろう、と様子を眺めていると、奴は躊躇なく懐から何かを取り出してスイッチを入れた。
ボンッという間の抜けた音。
あれって確かオレが朽木に食らって、しばらく動けなくなった記憶置換機?
向こうの道具をそんなほいほい使うんじゃねぇって。
しかしその機械のお陰で、近くにいた警備員達は記憶を吹っ飛ばされて地面に懐く。
横からさっと手を出して、黒崎の体を抱えた。
「おっ?」
「こっちだ。人混みに紛れながら逃げんぞぉ」
「た、助かる、スクアーロ」
「おう」
やはりどこか意外そうな様子の浦原一行と朽木を引き連れて、人混みの合間を縫いながら会場から遠ざかる。
観音寺のいる場所からは、酷い苦悶の悲鳴が響き渡っている。
さっきまでの不安定さとは比べ物にならない霊圧の揺らぎ。
これは……このまま奴は虚になるのか。
変質したての虚ならば、きっと黒崎には敵じゃないんだろうけれど、観音寺が一緒にいるのが心配だな。
まあそれについては、白蘭が見ておくって言ってたし、任せるか。
朽木に視線を送り、ひとまず立ち止まる。
そのまま人混みを離れていく浦原達に、一言だけ言葉を投げ付けた。
「こんなに派手に動いていいのかぁ?……元、たいちょーさん」
「!」
一瞬、浦原が目を見開く。
だが今はこの場から遠ざかることを優先させたらしい。
子ども達を伴って走り去っていくその背から視線をそらした。
今回は、これだけでいい。
浦原というのは、随分と用心深い男のようだから、またすぐにコンタクトをとろうとしてくるだろう。
こんな意味深なことを言ってくる奴、普通なら放っちゃおけねぇだろうしな。
さて、隣で朽木が『上だ』と叫んだ。
廃病院の屋上には、虚の姿が構成されていく。
再び警備員に見付かった朽木を叱りながら、その手を引いて逃げ出した。
まったく、後先考えなさすぎだ。
顔を隠しているオレはともかく、あいつらは完全にカメラに撮られちまってるだろうに。
「す、すまん!」
「良いよ別に。とりあえずお前、見付からねぇように帽子被ってろぉ」
「わぷっ!」
ため息を吐いて、自分が被っていた帽子を朽木の頭に乗っける。
自分の顔が見えちまうが、この際仕方ないか。
「黒崎は自分で何とかすんだろぉ。お前は目立たないところに引っ込んでろよ」
「そうだな。うむ、そうしよう」
「さっきの奴らは?」
「浦原達か?奴らなら心配要らないだろう。無事に逃げ切っているはずだ」
「ふぅん」
オーラを練って、円を広げる。
……少なくとも、オレの感知できる範囲には居ないようだが。
どこからか、視線を感じるような……。
病院の方からは、虚が壁にぶつかったらしき大きな音や、ガラスの割れる音が響いている。
随分と派手にやってやがるなぁ。
虚と、黒崎達二人の気配が病院の中に入っていくのを感じて、ふむと眉を潜めた。
人目のない病院ならば、思う存分暴れられるだろうが、黒崎の得物は随分と大振りのようだし、大丈夫なんだろうか。
「まずい。一護の奴、狭い屋内での戦いなどろくに経験がないはずだぞ」
「考えなしだなぁ、う゛ぉい」
だが、それがわかったからと言って、あの状態の現場にオレ達が近付くことは難しいだろうし、これ以上ここにいても出来ることなどない。
「とりあえず、オレは連れを探す。はぐれちまったみてぇだからなぁ」
「うむ、ではここでお別れだな。助かったぞ、スクアーロ。感謝する」
「お゛ー、まあまた何かあったら頼れよなぁ」
黒崎の体は近くの木の根もとに置いておいた。
朽木は返事を返さず、苦笑するだけだ。
一般人を巻き込むことを嫌って、というよりは、人に頼ることが苦手なように見える。
苦労しそうだな、などと己のことを棚に上げながら、再び周囲を確認した。
石田はかなり遠くまで移動しているようだ。
あいつの武器はどうやら飛び道具のようだから、多少距離があった方がやり易いのだろう。
浦原達は相変わらず感知できない。
だが先程からずっと、首筋がチリチリとして落ち着かない。
姿を隠して、見られている。
円でも確認できないということは、絶の状態にあるのだろうか。
この世界にオーラや念の概念はない。
ならば、霊圧を極限まで抑えることで、絶と似たような状態になるのかもしれない。
ケータイを取り出して、ユニへ先に帰るとメールを送った。
返事は思っていたよりも早く来た。
気を付けてという言葉と、観音寺がまったく見えない事に対する不満が可愛らしく書かれていて、思わず笑ってしまう。
「おやぁ?どうしたんです?何かいいことでもありましたか、スペルビ・スクアーロさん」
「……おう、思ったより早く来たなぁ、浦原喜助、元十二番隊長殿?」
「……」
彼の表情は、帽子の影になってしまって見えない。
余裕のある微笑み……を顔に浮かべてはいたが、オレは正直驚いていた。
早く来るだろうと思っていたが、あの会場から離れた途端に接触されるとは。
それに、こちらの名前は……いや、ある程度の素性は知られていると考えた方が良さそうだ。
初めて接触した時からはかなり時間が経っているし、こんなに早く接触を図ってきたことを考えると、名前、黒崎との関係、出自、生活圏は把握されている可能性がある。
……それだけ把握していても、オレが彼の素性をどこで知ったのかがわからなかったからこそ、わざわざ目の前へ現れたのだろう。
「ご用件は?わざわざアタシの過去を掘り起こして触れてきたんだ、何か用があったんでショ?」
「ん゛ん、半分あってて、半分外れてる。オレが用があったのは、『向こう』の情報を握っている人間。あんたが一番都合が良かったから、あんたに接触しただけ」
にっと笑うと、射抜かれそうな程に鋭い視線が返ってくる。
警戒し、そしてこちらに強い興味を持っている。
探るようなその目に、思わず笑みを深めた。
彼にとって、オレは謎ばかりの人間だ。
確かに人間で、ついこの間日本に来たばかりなのに、隠しているはずの秘密を知る、異様な存在。
その情報源は?
いったいどこまで知っている?
自分にとって敵なのか味方なのか?
きっと知りたくて知りたくてたまらない。
「話をしようぜ、浦原喜助」
「ええ、なんならウチまでどうぞ?お茶くらいなら出せるッスよ」
こちらに背を向けて歩き出した男の後を追い、彼らのアジトへと向かった。
かさかさと紙の擦れる音は、人混みの喧騒に紛れて誰にも気付かれない。
鳥の形をした紙人形は、人々の頭の上を通り過ぎ、観音寺という派手な男の背中にぴとりと貼り付いた。
番組の収録開始直後、ヘリからダイナミックに飛び降りたドン観音寺?とかなんとかいう男は、よくよく見てみれば随分と精度の高い察知能力を持っているようで、廃病院で叫びまくる幽霊を見付けるや否や、空きかけた胸の穴に向けて躊躇なく持っていたステッキをぶっ刺した。
……大丈夫なのかあれ?
あの穴って要するに、空いてなければ整(プラス)の霊で、空いてる奴が虚ってことなんだろ?
客席に視線を走らせれば、人混みを掻き分けて前に出ようとする奴が数人見える。
朽木と黒崎のコンビ。
そして……何故お前がいる、石田雨竜。
いや、聞いてはいたけれど、お前この観衆の中によく一人で来られたなぁ、と感心せずにいられない。
しかしこの顔ぶれが焦って止めに入ろうとしているのを見るに、どうやらこれはダメな奴らしい。
白蘭から聞く限り、石田は止めておいた方が良いんだったよな。
ヤモリの紙人形を走らせて、石田の足を絡めとる。
一瞬脚を縺れさせた石田の少し離れた場所をすり抜けていくように、黒崎が走り、柵を飛び越えて観音寺を止めようと叫んだ。
「やめろォっ!!」
飛び越えたところまでは良かった。
うん、そこまではな。
カメラの前に飛び出た直後、警備員がその背にのし掛かっていく。
……って!多い多い!
黒崎の奴、潰れちまうんじゃないのか?
ちらりと周囲を見渡すと、黒崎に続いて朽木が飛び出して行くのが見える。
同じく捕まってる辺り、二人揃ってちょっと頭が……。
いや、とにもかくにも、これじゃあアイツら、観音寺を止められないじゃないか。
さらに周囲をぐるりと眺める。
チラチラと、特徴的な縞模様の帽子が見え隠れしている。
……そうだ、アイツが浦原。
白蘭からは、情報を引き出してほしいと言われているが、さて、まずは相手と同じ土俵まで上がらないとならない。
ひとまず、人混みを掻き分けて、少しずつ前へ前へと進み出ていく彼らを、前から強引に引っ張って黒崎の元へと導いた。
少し驚いたような雰囲気が隣を通りすぎる。
浦原の持つ杖の先が、黒崎の後頭部にぶち当たると、そのまま奴の魂だけを押し出して、するりと体をすり抜けた。
「う……浦原……!!」
「どうも♡」
「ス、スクアーロも……!」
「よっ」
黒崎にはとっとと行けと顎で指し、残った朽木と話す浦原ご一行に視線を戻す。
怪しげな、というか見るからに怪しい浦原達に対して、朽木は不信感を隠せないらしい。
その背後に忍び寄る影が一つ。
あ、あれはまずい。
オレは一人、すぅっと体を引いて人混みに隠れる。
浦原の肩が軽く叩かれた。
振り返った先にいたのは、朽木を捕まえている男達と揃いの制服を着た警備員。
まああんな風に仲良く話してりゃあ、会場に飛び込んだ迷惑な客の仲間だって思われるよなぁ……。
警備員の問い掛けに言葉を詰まらせた浦原。
どうやって切り抜けるんだろう、と様子を眺めていると、奴は躊躇なく懐から何かを取り出してスイッチを入れた。
ボンッという間の抜けた音。
あれって確かオレが朽木に食らって、しばらく動けなくなった記憶置換機?
向こうの道具をそんなほいほい使うんじゃねぇって。
しかしその機械のお陰で、近くにいた警備員達は記憶を吹っ飛ばされて地面に懐く。
横からさっと手を出して、黒崎の体を抱えた。
「おっ?」
「こっちだ。人混みに紛れながら逃げんぞぉ」
「た、助かる、スクアーロ」
「おう」
やはりどこか意外そうな様子の浦原一行と朽木を引き連れて、人混みの合間を縫いながら会場から遠ざかる。
観音寺のいる場所からは、酷い苦悶の悲鳴が響き渡っている。
さっきまでの不安定さとは比べ物にならない霊圧の揺らぎ。
これは……このまま奴は虚になるのか。
変質したての虚ならば、きっと黒崎には敵じゃないんだろうけれど、観音寺が一緒にいるのが心配だな。
まあそれについては、白蘭が見ておくって言ってたし、任せるか。
朽木に視線を送り、ひとまず立ち止まる。
そのまま人混みを離れていく浦原達に、一言だけ言葉を投げ付けた。
「こんなに派手に動いていいのかぁ?……元、たいちょーさん」
「!」
一瞬、浦原が目を見開く。
だが今はこの場から遠ざかることを優先させたらしい。
子ども達を伴って走り去っていくその背から視線をそらした。
今回は、これだけでいい。
浦原というのは、随分と用心深い男のようだから、またすぐにコンタクトをとろうとしてくるだろう。
こんな意味深なことを言ってくる奴、普通なら放っちゃおけねぇだろうしな。
さて、隣で朽木が『上だ』と叫んだ。
廃病院の屋上には、虚の姿が構成されていく。
再び警備員に見付かった朽木を叱りながら、その手を引いて逃げ出した。
まったく、後先考えなさすぎだ。
顔を隠しているオレはともかく、あいつらは完全にカメラに撮られちまってるだろうに。
「す、すまん!」
「良いよ別に。とりあえずお前、見付からねぇように帽子被ってろぉ」
「わぷっ!」
ため息を吐いて、自分が被っていた帽子を朽木の頭に乗っける。
自分の顔が見えちまうが、この際仕方ないか。
「黒崎は自分で何とかすんだろぉ。お前は目立たないところに引っ込んでろよ」
「そうだな。うむ、そうしよう」
「さっきの奴らは?」
「浦原達か?奴らなら心配要らないだろう。無事に逃げ切っているはずだ」
「ふぅん」
オーラを練って、円を広げる。
……少なくとも、オレの感知できる範囲には居ないようだが。
どこからか、視線を感じるような……。
病院の方からは、虚が壁にぶつかったらしき大きな音や、ガラスの割れる音が響いている。
随分と派手にやってやがるなぁ。
虚と、黒崎達二人の気配が病院の中に入っていくのを感じて、ふむと眉を潜めた。
人目のない病院ならば、思う存分暴れられるだろうが、黒崎の得物は随分と大振りのようだし、大丈夫なんだろうか。
「まずい。一護の奴、狭い屋内での戦いなどろくに経験がないはずだぞ」
「考えなしだなぁ、う゛ぉい」
だが、それがわかったからと言って、あの状態の現場にオレ達が近付くことは難しいだろうし、これ以上ここにいても出来ることなどない。
「とりあえず、オレは連れを探す。はぐれちまったみてぇだからなぁ」
「うむ、ではここでお別れだな。助かったぞ、スクアーロ。感謝する」
「お゛ー、まあまた何かあったら頼れよなぁ」
黒崎の体は近くの木の根もとに置いておいた。
朽木は返事を返さず、苦笑するだけだ。
一般人を巻き込むことを嫌って、というよりは、人に頼ることが苦手なように見える。
苦労しそうだな、などと己のことを棚に上げながら、再び周囲を確認した。
石田はかなり遠くまで移動しているようだ。
あいつの武器はどうやら飛び道具のようだから、多少距離があった方がやり易いのだろう。
浦原達は相変わらず感知できない。
だが先程からずっと、首筋がチリチリとして落ち着かない。
姿を隠して、見られている。
円でも確認できないということは、絶の状態にあるのだろうか。
この世界にオーラや念の概念はない。
ならば、霊圧を極限まで抑えることで、絶と似たような状態になるのかもしれない。
ケータイを取り出して、ユニへ先に帰るとメールを送った。
返事は思っていたよりも早く来た。
気を付けてという言葉と、観音寺がまったく見えない事に対する不満が可愛らしく書かれていて、思わず笑ってしまう。
「おやぁ?どうしたんです?何かいいことでもありましたか、スペルビ・スクアーロさん」
「……おう、思ったより早く来たなぁ、浦原喜助、元十二番隊長殿?」
「……」
彼の表情は、帽子の影になってしまって見えない。
余裕のある微笑み……を顔に浮かべてはいたが、オレは正直驚いていた。
早く来るだろうと思っていたが、あの会場から離れた途端に接触されるとは。
それに、こちらの名前は……いや、ある程度の素性は知られていると考えた方が良さそうだ。
初めて接触した時からはかなり時間が経っているし、こんなに早く接触を図ってきたことを考えると、名前、黒崎との関係、出自、生活圏は把握されている可能性がある。
……それだけ把握していても、オレが彼の素性をどこで知ったのかがわからなかったからこそ、わざわざ目の前へ現れたのだろう。
「ご用件は?わざわざアタシの過去を掘り起こして触れてきたんだ、何か用があったんでショ?」
「ん゛ん、半分あってて、半分外れてる。オレが用があったのは、『向こう』の情報を握っている人間。あんたが一番都合が良かったから、あんたに接触しただけ」
にっと笑うと、射抜かれそうな程に鋭い視線が返ってくる。
警戒し、そしてこちらに強い興味を持っている。
探るようなその目に、思わず笑みを深めた。
彼にとって、オレは謎ばかりの人間だ。
確かに人間で、ついこの間日本に来たばかりなのに、隠しているはずの秘密を知る、異様な存在。
その情報源は?
いったいどこまで知っている?
自分にとって敵なのか味方なのか?
きっと知りたくて知りたくてたまらない。
「話をしようぜ、浦原喜助」
「ええ、なんならウチまでどうぞ?お茶くらいなら出せるッスよ」
こちらに背を向けて歩き出した男の後を追い、彼らのアジトへと向かった。