×鰤市

「ああッ!ちくしょう!!見失っちまったじゃねぇか‼俺を‼」
「モラトリアムだな」
「わかりづれぇツッコミだなぁ」
青空のもと、偽黒崎を追い掛けていたオレ達だが、案外奴は足が早かった。
完全に見失ってしまい、黒崎のイライラは増すばかりである。
「お前らはなにのんびりしてやがる!ちゃんと俺……っていうかアイツをつかまえねーと……」
「ややこしいな」
「お前も聞いたろ?あの教室のさわぎ……。俺……ていうかアイツは俺の体使って井上とスクアーロにキ……キ……キ……」
「キッスをしようとしたようだな。」
「だアアアアッ!!言うなボケ恥ずかしい!!」
「つーかオレは押し倒されて匂い嗅がれただけで、キスされそうにはなってねぇ」
「十分に変態行為じゃねーか!」
「ああ、背負い投げるのに一切の躊躇いも感じなかった」
「だからって背負い投げはねーだろ!」
喉元過ぎれば、じゃあねぇが、一回投げ飛ばして踏みつけたお陰か、苛つきは少し落ち着いた。
まあ踏みつけたのは、罪のない本物の黒崎だったが。
飛び降りをしたお陰で、血の気も少し引いたのかもしれない。
ちょっとの気持ち悪さは残っているが、だいぶ体調も戻ってきている。
思春期だなぁ、と染々思いながら、騒ぐ黒崎と冷静な朽木を眺める。
正直、あのいけすかねぇ偽黒崎にもう一度会うと思うと、面倒くさい。
どうしても思ってしまう、とっとと帰って寝たいと。
……。
いや、何度考え直しても面倒だ。
だがしかし、あれを回収せずにほったらかしても、それはそれでダルい結果になりそうではあるけど……。
「さあ!行くぞ!体を取り返したいだろう!?」
途中、何やらごちゃごちゃと説明をしていたらしいが、ぼんやりしていたため、全て聞き流してしまっていた。
まあ大方、あの偽者の正体についての説明だったのだろう。
あの脚力、そして言動から見るに、あの世の死神どもが作った戦闘用の実験体かなんか、だったはずだ。
それがどう言うことか朽木の手に渡り、黒崎の体を乗っ取った。
白蘭から、何となく聞いていた気もする。
尸魂界ってのも、随分と非道な真似をするものだ。
朽木の後を追い始めた黒崎に視線を向ける。
不意に振り返った黒崎と目があった。
「スクアーロ……その、オレがしたことじゃねぇけど、なんか悪かった、な……」
「……ん?何がだぁ?」
「いや、だから!なんかお前のこと押し倒しちまったって……。一応お前も女なんだろ?なら、そう言うのは嫌なんだろうなぁ、と思って……」
「嫌なのは否定しねぇけど、別にそこまで怒っちゃいねぇよ」
「他人の体クッションにしといてか?」
「そのお陰で大分怒りが発散された」
「オレがしたことじゃねぇけどってさっきいったよな!?オレとんだとばっちりじゃねーか!」
「まあ落ち着けぇ。あの偽者探すんだろぉ?付き合ってやっから、あんまりカリカリすんなよ」
「だぁもう!どいつもこいつも!」
黒崎は頭を抱え出した。
死神だから他人には見えねぇんだろうが、見える立場からするとかなり怪しい。
思わずじっとりとした目線を向けてしまう。
「まあ、オレが被害を受けたことで、井上とか他のクラスメイトは被害を免れたわけだし、さっさと気持ち切り替えて偽者探そうぜ」
「それは……まあ……うん」
「偽者が見つからなけりゃあ、お前も大変だろぉ?なんか体と魂分かれちまってるみてぇだし。それにあともう一本くらいは痛め付けておきてぇしな」
「お前はまた柔道技食らわせる気か!
……って、あれ?そういやお前、なんでオレが霊体ってこと知って……つーかいつから見えてた!?」
「……今さらだな、黒崎」
朽木ルキアは、どうやら黙っていてほしいと言うオレの頼みを、律儀に守ってくれていたようだ。
てっきり話を聞いているもんだと思っていた黒崎は、今の今までオレが見える側の人間だってことは知らねぇでいたらしい。
なんて暢気な奴なんだ……。
大きなため息を吐きながら、始めからだ、と答えた。
シバタの霊も気付いていたことは伝える。
虚のことは迷ったが、伝えないでおいた。
できるだけ、オレが知っている情報は伝えない方が、ユニの視る未来への影響が少ないのかもしれないと思ったからだ。
「だったら早く言えよお前!」
「お前だって言わなかっただろうがぁ。幽霊見えます、なんてそうそう他人に話すことじゃねぇよ。それになんだその、黒い着物?死神?よくわかんねぇけどよぉ、あんまり突っ込まれたくねぇんだろぉ?」
「うっ……まぁそれはそうだけど」
「お互いに詮索はしねぇ。これでいいだろぉ。つーか偽者見付かんねぇけど、どうすんだぁ?」
「どうするっつったって……」
「おい、喋ってる暇があるならしっかり探せ!」
「あ、じゃあオレ向こう探す。お前らは小学校の方探してこい」
「なんでお前が指示してんだよ!行くぞルキア!!」
「文句を言いつつ言う通りにするのだな一護……」
3人もいるのなら、やはり別々に探す方が効率が良いはずだ。
だがそれはあくまで建前で、オレは二人が見えなくなってすぐに、印を組んだ。
奴を背負い投げしたときに、その服にマーキングをしておいた。
だから瞬身の術で近くに飛ぶことが出来る。
絶をすることで気配をほぼ完璧に消して、偽者のところまで飛んだのだった。
「っ……、ん゛ん?」
オレが飛んだ先は……小学校。
ついでに言うなら、さっき黒崎達に探せっつったのも小学校の方向。
これはオレ、来た意味ねぇかもなぁ。
オレが立っているのは、小学校の校舎裏らしき場所で、ちょうど偽黒崎が呆然と立ち竦む子ども3人を置いて逃げていくところだった。
何したんだ奴は。
いや、まあ何はともあれ、追いかけた方が良いのだろう。
子ども達には怪我は無さそうだし。
地面を蹴って塀へと上がり、逃げる偽者の跡を追う。
付かず離れずの距離を保ちながら追い掛けていれば、何かあってもすぐに対処出来るだろう。
……と、思っていたところで突然、懐にしまっていたケータイが震えた。
白蘭からのメールである。
嫌な予感をひしひしと感じながらもそれを開くと、『空飛ぶ男子高校生!』という文字と、言葉通り地面より遥か高い位置を浮いている黒崎の写真が目に飛び込んできて、オレは静かに頭を抱えたのだった。
これは……偽物を捕まえるだけでは終わりそうにないなぁ……。
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