×ぬら孫
「……宗旦狐?」
「あ、ああ……鮫弥とか言ったか?久しぶりだなぁ」
「何してんだぁ、こんなところで」
こんなところ……小学校の屋上である。
今のオレは小学6年生。
早く成長して、一人立ちしたいお年頃。
いや、そんなことはどうでも良いが、何となく息抜きしたくて訪れた屋上で、オレは例の気配を感じて、その元を探した。
そこで見付けたのが、この間出会った妖、宗旦狐であった。
この間は、人に化けて気配を隠していたが、今日は随分と弱っているようだ。
「それがなぁ、あの後、お主から離れた直後に、陰陽師に見付かってなぁ」
「え、じゃあ今まで逃げ続けてたのかぁ!?」
「む、逃げたり隠れたりさ。こんなことなら、お主についていけば良かったなぁ」
「……怪我は?」
「むぅ、腹に少しなぁ……」
「見てやる」
小さな体を、出来る限り優しく抱き上げ、傷を探す。
脇腹の所に、切り傷が1つついていた。
血が流れているのを見て、顔をしかめる。
これは痛そうだ。
まずは雨の炎を使って止血を施す。
軽く麻酔のような効果も持たせたから、きっと痛みも少しは引いただろう。
「ん、む?痛みが……。お主、何をした?」
「ちょっとなぁ。今、包帯と傷薬持ってくるから、待ってろ。上着、貸してやるからな」
「むっ、ふかふかだ!だがお主、早く戻ってこい!早くだ!!」
「へーへー」
モコモコのカーディガンをクッションにして、その上に宗旦狐を乗せてやる。
奴は気に入ったみたいだけど、オレは寒い。
早く治療道具持ってきて、服回収しよう。
腕を擦りながら、1階にある保健室に向かっていった。
* * *
「お主のお陰で助かった。礼を言う」
獣がぺこりと頭を下げる様子は、不自然ではあるが、どことなく愛嬌を感じる。
傷の手当てをしてやった後、律儀に礼を言う宗旦狐に、オレはヒラヒラと手を振った。
「別に……何も大したことしてねぇよ」
「いや、お主に会えなければ、我はこのまま死んでいたやもしれない」
「そこまでヤバかったのか?」
まあ、そんなわけで宗旦狐の礼を素直に受け取る事にした。
「しかしな、命の恩を返すには、ただ礼を言えばそれで良いとは思えない」
「ああ?そんなこと気にしてんなよ」
「む、それはいけない。世の中はぎぶあんどていく!物事は等しくあらねばならぬのだ。ふむ……、どうすればいいかなぁ」
言葉だけでなくお礼に何かしてくれるらしい。
その尻尾もふもふさせてくれるなら、それだけで嬉しいんだけどなぁ。
しかし悩んでいる宗旦狐は、オレの視線には気付かない。
「……おぉ!そうだ、我がお主の式になってやろう。」
「……式?式神か?」
「お主に、我を使役することを許してやるのだ。それならば、お主への恩にも見合うだろう。どうだ?なかなか良い案だろう?」
「……でも、良いのか?」
どや顔の狐に、残念ながらオレは今度は素直に頷くことは出来なかった。
オレが知っている妖は、乙女とその取り巻きくらいしかいないけど、奴らは人間を、自分達よりもずっと下等な存在として見下しているようだったし、乙女には今のところオレは特別に思われているようだけど、それでも他の人間と大して違いはないと思う。
人に使役されることなんて、あいつらなら絶対に許さない。
「お前は、オレなんかに使役されて、それで良いのかぁ?」
「……なんか、とは、随分と謙虚だなぁ。確かに、何でもない人間に使役されるなど、恥でしかない。それならいっそ、死ぬ」
「なら、なんで?」
「お主が我を助けたからだ。放っておけば良いものを、2度にも渡って助けたからだ。受けた恩は返すのが、我の流儀。それに、人の寿命など精々数十年程度。僅かな時を、お主と共に生きるのも悪くはないだろう」
「……そう、か」
そこまで言われてしまっては、断るのはむしろ、無粋と言うものであろう。
オレは頷き、奴の提案を受け入れることを了承したのだった。
「でも、使役、ってどうすりゃいいんだぁ?なんか契約書書いたりとか?」
「ケイヤクショ?なんだそれは。そんな訳のわからんものは必要ない。使役するにはただ、お主が我に名をつけ、我がそれに返事を返すだけだ」
「そ……それだけ?」
「ふん、無知だな小僧。名とは最も短き呪よ。お主が呼び、我が答えることで、我はお主に縛られるのだ」
「そ、そうなのかぁ……」
どうやらそう言うものらしくて、オレは宗旦狐に名前をつけなければならないらしい。
名前かぁ……、名前……。
「チビ?」
「却下だ。なんだそのやっつけ感満載の名前は!!」
「あ゙~……じゃあ、豆」
「それも却下だ!もしやお主、ねーみんぐせんすないな!?」
「そっ!そんなことねぇよ!!」
もっとまともな名を考えろと怒鳴られて、結局そのまま30分考え続け、宗旦狐の新しい名前は『紫紺』になったのだった。
そしてその間ずっと屋上で北風に晒され続けたオレは、風邪を引いて3日間寝込んだのだった。
「あ、ああ……鮫弥とか言ったか?久しぶりだなぁ」
「何してんだぁ、こんなところで」
こんなところ……小学校の屋上である。
今のオレは小学6年生。
早く成長して、一人立ちしたいお年頃。
いや、そんなことはどうでも良いが、何となく息抜きしたくて訪れた屋上で、オレは例の気配を感じて、その元を探した。
そこで見付けたのが、この間出会った妖、宗旦狐であった。
この間は、人に化けて気配を隠していたが、今日は随分と弱っているようだ。
「それがなぁ、あの後、お主から離れた直後に、陰陽師に見付かってなぁ」
「え、じゃあ今まで逃げ続けてたのかぁ!?」
「む、逃げたり隠れたりさ。こんなことなら、お主についていけば良かったなぁ」
「……怪我は?」
「むぅ、腹に少しなぁ……」
「見てやる」
小さな体を、出来る限り優しく抱き上げ、傷を探す。
脇腹の所に、切り傷が1つついていた。
血が流れているのを見て、顔をしかめる。
これは痛そうだ。
まずは雨の炎を使って止血を施す。
軽く麻酔のような効果も持たせたから、きっと痛みも少しは引いただろう。
「ん、む?痛みが……。お主、何をした?」
「ちょっとなぁ。今、包帯と傷薬持ってくるから、待ってろ。上着、貸してやるからな」
「むっ、ふかふかだ!だがお主、早く戻ってこい!早くだ!!」
「へーへー」
モコモコのカーディガンをクッションにして、その上に宗旦狐を乗せてやる。
奴は気に入ったみたいだけど、オレは寒い。
早く治療道具持ってきて、服回収しよう。
腕を擦りながら、1階にある保健室に向かっていった。
* * *
「お主のお陰で助かった。礼を言う」
獣がぺこりと頭を下げる様子は、不自然ではあるが、どことなく愛嬌を感じる。
傷の手当てをしてやった後、律儀に礼を言う宗旦狐に、オレはヒラヒラと手を振った。
「別に……何も大したことしてねぇよ」
「いや、お主に会えなければ、我はこのまま死んでいたやもしれない」
「そこまでヤバかったのか?」
まあ、そんなわけで宗旦狐の礼を素直に受け取る事にした。
「しかしな、命の恩を返すには、ただ礼を言えばそれで良いとは思えない」
「ああ?そんなこと気にしてんなよ」
「む、それはいけない。世の中はぎぶあんどていく!物事は等しくあらねばならぬのだ。ふむ……、どうすればいいかなぁ」
言葉だけでなくお礼に何かしてくれるらしい。
その尻尾もふもふさせてくれるなら、それだけで嬉しいんだけどなぁ。
しかし悩んでいる宗旦狐は、オレの視線には気付かない。
「……おぉ!そうだ、我がお主の式になってやろう。」
「……式?式神か?」
「お主に、我を使役することを許してやるのだ。それならば、お主への恩にも見合うだろう。どうだ?なかなか良い案だろう?」
「……でも、良いのか?」
どや顔の狐に、残念ながらオレは今度は素直に頷くことは出来なかった。
オレが知っている妖は、乙女とその取り巻きくらいしかいないけど、奴らは人間を、自分達よりもずっと下等な存在として見下しているようだったし、乙女には今のところオレは特別に思われているようだけど、それでも他の人間と大して違いはないと思う。
人に使役されることなんて、あいつらなら絶対に許さない。
「お前は、オレなんかに使役されて、それで良いのかぁ?」
「……なんか、とは、随分と謙虚だなぁ。確かに、何でもない人間に使役されるなど、恥でしかない。それならいっそ、死ぬ」
「なら、なんで?」
「お主が我を助けたからだ。放っておけば良いものを、2度にも渡って助けたからだ。受けた恩は返すのが、我の流儀。それに、人の寿命など精々数十年程度。僅かな時を、お主と共に生きるのも悪くはないだろう」
「……そう、か」
そこまで言われてしまっては、断るのはむしろ、無粋と言うものであろう。
オレは頷き、奴の提案を受け入れることを了承したのだった。
「でも、使役、ってどうすりゃいいんだぁ?なんか契約書書いたりとか?」
「ケイヤクショ?なんだそれは。そんな訳のわからんものは必要ない。使役するにはただ、お主が我に名をつけ、我がそれに返事を返すだけだ」
「そ……それだけ?」
「ふん、無知だな小僧。名とは最も短き呪よ。お主が呼び、我が答えることで、我はお主に縛られるのだ」
「そ、そうなのかぁ……」
どうやらそう言うものらしくて、オレは宗旦狐に名前をつけなければならないらしい。
名前かぁ……、名前……。
「チビ?」
「却下だ。なんだそのやっつけ感満載の名前は!!」
「あ゙~……じゃあ、豆」
「それも却下だ!もしやお主、ねーみんぐせんすないな!?」
「そっ!そんなことねぇよ!!」
もっとまともな名を考えろと怒鳴られて、結局そのまま30分考え続け、宗旦狐の新しい名前は『紫紺』になったのだった。
そしてその間ずっと屋上で北風に晒され続けたオレは、風邪を引いて3日間寝込んだのだった。