×鰤市
別に、手の甲にキスをするくらいなら、何てことはないとオレは思う。
ただ、日本人はボディータッチでもあまり良い感情は抱かないと聞くし、何より多感な高校生は、特にそう言うことを嫌うという。
まあ何にしろ、TPOも弁えずにやりたい放題する輩はオレも嫌いだ。
だから、保健室から教室に戻り、中を覗いた時、黒崎の皮を被った正体不明の野郎が、井上の手にキスをしようとしたのを見て、咄嗟にそいつの髪を掴んで引っ張ったのだ。
「悪かったってお前……そんな怒るなよ」
「怒るに決まってんだろうが!オレ様の顔が縦に伸びたらどうしてくれやがる‼」
「よりイケメンになりそうだなぁ。良かったじゃねぇかぁ」
「え!マジ!?……って騙されるかボケェ!」
「まあまあ……」
「『まあまあ』じゃねえぞイケメン!自分がイケメンだからって調子に乗りやがってコルァ!」
「そうだそうだ!」
「良いぞ黒崎!もっと言え!」
「う"お"ぉい!何でお前らがこいつに加勢してんだぁ!」
「そうよスクアーロ!もっと言ってやんなさい!」
「こんなときだけ騒いでんじゃないわよアホ男子ども!」
「全員ちょっと黙ってろぉ!」
と、まあそんな感じで、気が付いたら男子vs女子みたいな構図が出来上がっていた。
オレはただあの偽黒崎を止めにきただけだってのに、なんでこんなことに……。
とにもかくにも、あんな正体不明の怪しい魂魄を放っておくことは出来ねぇ。
どんな理由つけてでも、さっさとここから引っ張り出さねぇとまずい、よなぁ。
「とにかく、まずはそこの色ボケオレンジ頭を職員室まで連れていく!大人しく着いてこいこのボケカス!」
「嫌だね!オレはついさっき、望んで止まなかった自由を手にいれた!!こんなところで、テメーみてーな腹立つイケメンに捕まってたまっかってんだよ、ばーかばーか!」
「自由は各々が倫理観を持ってこそ成立するんだドカス!いいから言うことを聞け!!」
「やーだねっ!」
さっと手を伸ばす。
それを避けて、偽黒崎は机から机へと飛び移った。
また手を伸ばして、奴の肩を捕らえようとして、ぴょんっと跳んで逃げられた。
「へっへー、お前程度に捕まるオレ様じゃないんだよっと!」
「……」
朝から体調が悪かったせいだろうか、それとも、オレは自分で思うほど大人ではなかったと言うことなのだろうか。
偽黒崎の言葉に、オレは静かにキレた。
三度伸ばした手から逃れようと跳んだ奴の足を、もう片方の手でさっと掴む。
「うげっ!?」
偽黒崎がしまったという顔をしたのを視界の端に捕らえつつ、オレは引き摺り下ろした奴の鳩尾を、掌底で打ち抜いたのだった。
「ふごぉ!!」
情けない悲鳴を上げて偽黒崎が机と椅子を散らして倒れる。
その肩を踏んで押さえ、首を傾げながら訊ねた。
「で?オレ程度に捕まるてめぇ様が何だってぇ?」
「て、てめぇセコいだろ……!」
「何が?てめぇが単調でかったりぃ避け方してるから悪ぃんだろうがぁ、ああ゛?」
「ヤ、ヤンキー……」
「おい今ヤンキーって言った奴聞こえてるからなぁ」
「ひぃ!?」
ヤンキーって言うか、元マフィアだがな。
しかし上手いことこのバカを捕まえられた以上、教室でもたもたと話してないで、さっさと連れてくのが吉。
勿論職員室には行かない。
黒崎(本物)がすぐに戻ってくるだろうし、職員室にも女性はいるから、そんな危ない真似は出来ない。
「良いか、また暴れたら次は鼻の骨折るからなぁ」
「いや怖いわ!何なんだよお前は!」
「何でも良いだろうがぁ。おら立て……うおわ!?」
「よっしゃー!やってやったぜ……ってぎゃあー!」
胸ぐらを掴んで、偽黒崎を引き摺りあげた瞬間だった。
奴の手が素早く動いて、近くの椅子を投げ付けてきた。
それは避けたが、急に動いたせいか、くらりと目眩に襲われる。
そしてオレは奴の胸ぐらを掴んだまま、二人同時にすっ転ぶはめになったのだった。
地面に倒れた拍子に頭を打つ。
昨日は虚にボロボロにされるし、頭の中はぐちゃぐちゃにされるし、今日は頭を打つし……くそ、ついてねぇ。
でも何よりもついてないのは、目の前のこの野郎が、オレの上に四つん這いになって転んだことだと思う。
ディーノ相手ならともかく、なんでオレがこんな奴に押し倒されたような格好を!
「いっててて……って、なんだよこの体勢は!こんな体勢になるなら女の子とが良かった!なんで野郎相手にオレが……!!」
「てめぇ……それはこっちの台詞だカス!さっさと退けぇ!」
「言われなくても退くっての……んあ?なんかお前、匂いが……」
「ああ"!?」
ひくひくと顔をひきつらせた偽黒崎が、オレの上から退こうと立ち上がりかける。
だが、何故か途中で奴は首を傾げながら動きを止めた。
すんすんと鼻をひくつかせながら、オレの着ているシャツに顔を寄せる。
匂いを嗅がれて……って何でだ!!
「何嗅いでんだボケカスがぁ!さっさと離れろよ!!気色わりぃ!」
「いやでもよぉ、お前なんか……」
偽黒崎の頭を手で押し返すが、体勢的に上手く力が入らず、押し負ける。
「良いからどけって……」
殴って退かそうかと思った、その時。
怒鳴り声とともに、朽木ルキアが教室に飛び込んできた。
「そこまでだ!!」
「!!」
はっとして偽黒崎が飛び起きたお陰で、オレの体は自由になる。
そして自由になったと同時に、オレは奴の体を押し退け下から抜け出し、その胸ぐらを再び掴んだ。
「げぇ!お前、ちょっ!何するつもり……」
「死にさらせドカスがぁあ!!」
「いぎゃぁあああ!!?」
「逃げ道はねぇ……ってオレぇええ!!?」
窓の外に向かって力一杯の背負い投げ。
ちょうど窓際には本物の黒崎が登ってきていたが、その脇をすり抜けて偽黒崎が落ちていく。
オレはその後を追い掛けて、本物の黒崎を引っ掴んで窓枠を飛び越えた。
「ぎゃあああ!死ぬぅう!!」
「この程度で死ぬかカスがぁ!」
「ごぶっ!?」
霊体の黒崎ならば多少の距離を落ちても、その上ヒト一人が落ちてきても、大丈夫だろうという予想のもと、オレは黒崎を下敷きにして着地した。
まあ、元々3階程度なら余裕で着地できるのだが、黒崎の顔を見てイライラしてしまったのだから仕方がない。
目を回す黒崎を引き摺り、オレは前方できれいに着地した偽黒崎を追い掛け始めたのだった。
ただ、日本人はボディータッチでもあまり良い感情は抱かないと聞くし、何より多感な高校生は、特にそう言うことを嫌うという。
まあ何にしろ、TPOも弁えずにやりたい放題する輩はオレも嫌いだ。
だから、保健室から教室に戻り、中を覗いた時、黒崎の皮を被った正体不明の野郎が、井上の手にキスをしようとしたのを見て、咄嗟にそいつの髪を掴んで引っ張ったのだ。
「悪かったってお前……そんな怒るなよ」
「怒るに決まってんだろうが!オレ様の顔が縦に伸びたらどうしてくれやがる‼」
「よりイケメンになりそうだなぁ。良かったじゃねぇかぁ」
「え!マジ!?……って騙されるかボケェ!」
「まあまあ……」
「『まあまあ』じゃねえぞイケメン!自分がイケメンだからって調子に乗りやがってコルァ!」
「そうだそうだ!」
「良いぞ黒崎!もっと言え!」
「う"お"ぉい!何でお前らがこいつに加勢してんだぁ!」
「そうよスクアーロ!もっと言ってやんなさい!」
「こんなときだけ騒いでんじゃないわよアホ男子ども!」
「全員ちょっと黙ってろぉ!」
と、まあそんな感じで、気が付いたら男子vs女子みたいな構図が出来上がっていた。
オレはただあの偽黒崎を止めにきただけだってのに、なんでこんなことに……。
とにもかくにも、あんな正体不明の怪しい魂魄を放っておくことは出来ねぇ。
どんな理由つけてでも、さっさとここから引っ張り出さねぇとまずい、よなぁ。
「とにかく、まずはそこの色ボケオレンジ頭を職員室まで連れていく!大人しく着いてこいこのボケカス!」
「嫌だね!オレはついさっき、望んで止まなかった自由を手にいれた!!こんなところで、テメーみてーな腹立つイケメンに捕まってたまっかってんだよ、ばーかばーか!」
「自由は各々が倫理観を持ってこそ成立するんだドカス!いいから言うことを聞け!!」
「やーだねっ!」
さっと手を伸ばす。
それを避けて、偽黒崎は机から机へと飛び移った。
また手を伸ばして、奴の肩を捕らえようとして、ぴょんっと跳んで逃げられた。
「へっへー、お前程度に捕まるオレ様じゃないんだよっと!」
「……」
朝から体調が悪かったせいだろうか、それとも、オレは自分で思うほど大人ではなかったと言うことなのだろうか。
偽黒崎の言葉に、オレは静かにキレた。
三度伸ばした手から逃れようと跳んだ奴の足を、もう片方の手でさっと掴む。
「うげっ!?」
偽黒崎がしまったという顔をしたのを視界の端に捕らえつつ、オレは引き摺り下ろした奴の鳩尾を、掌底で打ち抜いたのだった。
「ふごぉ!!」
情けない悲鳴を上げて偽黒崎が机と椅子を散らして倒れる。
その肩を踏んで押さえ、首を傾げながら訊ねた。
「で?オレ程度に捕まるてめぇ様が何だってぇ?」
「て、てめぇセコいだろ……!」
「何が?てめぇが単調でかったりぃ避け方してるから悪ぃんだろうがぁ、ああ゛?」
「ヤ、ヤンキー……」
「おい今ヤンキーって言った奴聞こえてるからなぁ」
「ひぃ!?」
ヤンキーって言うか、元マフィアだがな。
しかし上手いことこのバカを捕まえられた以上、教室でもたもたと話してないで、さっさと連れてくのが吉。
勿論職員室には行かない。
黒崎(本物)がすぐに戻ってくるだろうし、職員室にも女性はいるから、そんな危ない真似は出来ない。
「良いか、また暴れたら次は鼻の骨折るからなぁ」
「いや怖いわ!何なんだよお前は!」
「何でも良いだろうがぁ。おら立て……うおわ!?」
「よっしゃー!やってやったぜ……ってぎゃあー!」
胸ぐらを掴んで、偽黒崎を引き摺りあげた瞬間だった。
奴の手が素早く動いて、近くの椅子を投げ付けてきた。
それは避けたが、急に動いたせいか、くらりと目眩に襲われる。
そしてオレは奴の胸ぐらを掴んだまま、二人同時にすっ転ぶはめになったのだった。
地面に倒れた拍子に頭を打つ。
昨日は虚にボロボロにされるし、頭の中はぐちゃぐちゃにされるし、今日は頭を打つし……くそ、ついてねぇ。
でも何よりもついてないのは、目の前のこの野郎が、オレの上に四つん這いになって転んだことだと思う。
ディーノ相手ならともかく、なんでオレがこんな奴に押し倒されたような格好を!
「いっててて……って、なんだよこの体勢は!こんな体勢になるなら女の子とが良かった!なんで野郎相手にオレが……!!」
「てめぇ……それはこっちの台詞だカス!さっさと退けぇ!」
「言われなくても退くっての……んあ?なんかお前、匂いが……」
「ああ"!?」
ひくひくと顔をひきつらせた偽黒崎が、オレの上から退こうと立ち上がりかける。
だが、何故か途中で奴は首を傾げながら動きを止めた。
すんすんと鼻をひくつかせながら、オレの着ているシャツに顔を寄せる。
匂いを嗅がれて……って何でだ!!
「何嗅いでんだボケカスがぁ!さっさと離れろよ!!気色わりぃ!」
「いやでもよぉ、お前なんか……」
偽黒崎の頭を手で押し返すが、体勢的に上手く力が入らず、押し負ける。
「良いからどけって……」
殴って退かそうかと思った、その時。
怒鳴り声とともに、朽木ルキアが教室に飛び込んできた。
「そこまでだ!!」
「!!」
はっとして偽黒崎が飛び起きたお陰で、オレの体は自由になる。
そして自由になったと同時に、オレは奴の体を押し退け下から抜け出し、その胸ぐらを再び掴んだ。
「げぇ!お前、ちょっ!何するつもり……」
「死にさらせドカスがぁあ!!」
「いぎゃぁあああ!!?」
「逃げ道はねぇ……ってオレぇええ!!?」
窓の外に向かって力一杯の背負い投げ。
ちょうど窓際には本物の黒崎が登ってきていたが、その脇をすり抜けて偽黒崎が落ちていく。
オレはその後を追い掛けて、本物の黒崎を引っ掴んで窓枠を飛び越えた。
「ぎゃあああ!死ぬぅう!!」
「この程度で死ぬかカスがぁ!」
「ごぶっ!?」
霊体の黒崎ならば多少の距離を落ちても、その上ヒト一人が落ちてきても、大丈夫だろうという予想のもと、オレは黒崎を下敷きにして着地した。
まあ、元々3階程度なら余裕で着地できるのだが、黒崎の顔を見てイライラしてしまったのだから仕方がない。
目を回す黒崎を引き摺り、オレは前方できれいに着地した偽黒崎を追い掛け始めたのだった。