×鰤市
「よっと……あれ?」
「……どしたぁ」
「お前、オレと背丈変わんねぇのに、軽いんだな」
「黒崎お前……見た目よりも太ってんだなぁ……」
「ちげぇわボケ!オレが重い訳じゃねーよ!お前が痩せすぎって話だろ!」
四人の中では唯一無傷である黒崎に背負われて、オレ達は昼間の住宅街を歩いていた。
この場所からだと、オレの家よりチャドの家の方が近いらしく、まずはそこまで、チャドを送っていくことになった。
着いてすぐに、チャドと朽木が部屋に入り、数分後に朽木だけが出てくる。
チャドは……、怪我はほぼ直っていたようだし、きっと記憶を書き換えられて、今頃ぐっすりと寝てしまっているんだろう。
死神は、目撃者の記憶を書き換える道具を持っているのだと、白蘭から聞いていた。
「よし、では貴様の家に行くか」
「……お"ー、頼んだ」
黒崎の首に腕を回して、落ちないように掴まる。
居心地が悪そうに身動ぎをしながらも、黒崎はオレを背負い直して歩き始めた。
「あんまり近付くなよなお前」
「あ"あ?何だよ、オレのこと嫌いかぁ?」
「ばっ!そうじゃねぇよ!男同士くっつくとか気色わりぃだろ!!」
「……悪いな」
「お、おお……。急に真面目に謝るなよ……」
「貴様らは何を遊んでおるのだ」
別に遊んでいる訳ではない。
黒崎の背中で景色を眺めながら、この後どうするのか、考えを巡らす。
記憶を書き換えるという道具、それがどんなものなのかはわからないが、世界を越えて転生を繰り返すオレ達に、その道具が効くのか、効いたとして、悪影響はないのだろうか。
……そもそも、オレは大人しく記憶置換を受け付けても良いのだろうか。
「なあ、スクアーロ。ここら辺だろ、お前ん家」
「ぁ……ああ。すぐそこのアパートだぁ」
指さした先にある、白いアパートに連れていってもらう。
昼間というだけあって、人気はほぼない。
あのアパートに住むのは、ほとんどが学生だからな。
大家さんも、この時間は自分の部屋でドラマでも見ているだろう。
部屋に入り、そこでやっと降ろしてもらった。
立った瞬間、目の前の景色が歪み、足から力が抜け、思わず倒れそうになる。
ああ、くそ……貧血だな、これは。
床に頭を打ち付けるかと思って、覚悟をしていたのだが、ギリギリのところで黒崎に受け止められた。
「おい!大丈夫か!?」
「……ん、あ……大丈夫……」
「じゃないだろう、愚か者め。大人しくじっとしていろ。いま、傷を治してやる」
朽木の手がオレのパーカーに伸びる。
傷は肩と背中、そして腕や足に細かいものが複数と、拳に負った裂け傷。
腕や足ならまだしも、背中はまずい。
気付けば反射的に、朽木の手を振り払って、彼らから逃げるように後ずさっていた。
ハッとしたときには、二人から怪訝な目を向けられている。
やべぇ、怪しまれてるよな、これは……。
「う……お゛、わりぃ……。手当てなら自分で出来るから、もう帰って良いぜぇ。ありがとうな」
「な……馬鹿なことを言うな!爆弾を諸に食らってただろう!今すぐにでも治療が必要なはずだ!!」
「つーかさっき倒れたばかりの奴を、治療もしないで放っておけるか!」
「いや……でも……」
「でもも何もあるか!やってしまえ一護!!」
「任せろ!!」
「わぎゃ!」
後ずさったところで、学生の住むアパートの部屋の広さなんて、たかが知れている。
逃げ場のない壁際まで追い詰められ、その上体格の良い高校生男子に飛び掛かられては、さすがのオレだってどうしようもない。
「は、離せよ!」
「大人しく手当て受けるまでは出来ねーな!ったく、いい加減脱いで…………」
「む?どうした一護?」
ワイシャツのボタンを外されて開かれる。
サラシを巻いているけれど、それでも素肌を男に見られるのは気分の良いもんじゃない。
黒崎は一瞬硬直した後に、そっとオレのワイシャツを閉じて立ち上がった。
「ちょっとオレのほっぺつねってくれないか」
「夢じゃねぇぞアホ黒崎」
「だっておまっ……!嘘だろ!!」
「嘘じゃねぇよ死ね変態」
「変態じゃねーよ!知らなかっただけだろうが!!」
人の半裸を見た挙げ句、言うに事欠いて夢って何だ。
自分の体を抱き締めるようにして、黒崎を恨めしげに見上げる。
キョトンとしてオレ達を見比べてる朽木のことさえも憎たらしく思えてくる。
「もういいから、出てけよお前ら……」
「いや待てよおい!何でお前そんな落ち着いてんだよ!?こっちはもう今世紀最大レベルのドッキリだったんだぞ!?」
「何が何だかわからぬが、治療をするまで私は帰らんぞ」
「……くそ」
前門に黒崎、後門には朽木。
逃げ場はどうやらないらしい。
ここで変な能力を使うわけにもいかねぇし……、これは、諦めるしかない、だろうか。
「……誰にも、話さないか?」
「お前が嫌なら話さねぇよ!つーか話しても信じてもらえなさそうだし……」
「そんなに意外かよ……」
「だからなんのことなのだ?」
一人わからずにキョトンとする朽木に、オレはため息を吐いた。
こうなったらもう、一人にバレようと二人にバレようと変わらない。
ボタンが外れたままのワイシャツを捲った。
「おおおおお前何してんだ!!」
「動揺しすぎだクソ崎」
「誰がクソ崎だ!」
「これは……貴様、女だったのか!?」
「そうだよゴラァ、悪いか」
「わ……悪くないが男の前で裸になるバカがあるか!お前もお前だ一護!さっさと出ていけ!!」
「サラシ着けてるだろぉが」
「うおっ!!押すなって!」
朽木に背中を押されて、黒崎が出ていく。
部屋を出る寸前に、黒崎の視線がオレの胸の辺りにぶつかる。
……オレのない胸を見てどうするって言うんだ。
きっとディーノが今の出来事を聞いたら怒るんだろうけれど、百年以上も生きてりゃあ、多少見られたくらいじゃあもう動じない。
嫌なのは、嫌なんだけど。
なんと言うか、昔と変わってしまった自分に、物悲しい気持ちになる。
「背中を向けろ!すぐに治療してやる」
「……誰にも言うなよ、この事」
「わかってる!どんな理由があるのか知らぬが、貴様がそこまで嫌がるのなら、この事を無闇矢鱈と人に広めたりはしない!」
「……ありがとな」
朽木は、オレが性別を隠す理由は聞いてこなかった。
それに少しだけ安心した。
今となっては、本当にしょうもねぇ理由なんだけど、それでも、女らしくなんてのは出来なくて、こんな姿のまま今日も過ごしている。
手で髪を纏めて避けて、背中を露にすると、朽木の小さな手が患部にそっと添えられる。
すぐにそこから温かさが広がって、ズクズクと痛んでいた背中の傷が治っていった。
「スゴいな……。本当にあっという間だ」
「思ったより傷が浅かったからな。あとはしっかりと寝て、体力を回復させることだ。それと……」
朽木の手が離れて、服を着ながら話を聞く。
言葉を続けながら、朽木が制服のポケットに手を入れ、何かを取り出そうとする。
何を取り出す気なのかは、簡単に予想が着く。
オレは首に下げた石をきゅっと握り締めて、ゆっくりと振り返った。
「……悪いが、今日のことは忘れてもらおうか」
「ぐっ……!?」
ボンッと小さな爆発音がして、目の前が真っ白に染まる。
フラッシュバックのように、頭の中に映像が流れ込んでくる。
偽の記憶を植え付けられているのだ。
自分に起きている事態は理解出来た。
だが雪崩れ込む記憶の奔流を否定することは出来ず、オレはすぐに意識を失い、倒れてしまったのだった。
「……どしたぁ」
「お前、オレと背丈変わんねぇのに、軽いんだな」
「黒崎お前……見た目よりも太ってんだなぁ……」
「ちげぇわボケ!オレが重い訳じゃねーよ!お前が痩せすぎって話だろ!」
四人の中では唯一無傷である黒崎に背負われて、オレ達は昼間の住宅街を歩いていた。
この場所からだと、オレの家よりチャドの家の方が近いらしく、まずはそこまで、チャドを送っていくことになった。
着いてすぐに、チャドと朽木が部屋に入り、数分後に朽木だけが出てくる。
チャドは……、怪我はほぼ直っていたようだし、きっと記憶を書き換えられて、今頃ぐっすりと寝てしまっているんだろう。
死神は、目撃者の記憶を書き換える道具を持っているのだと、白蘭から聞いていた。
「よし、では貴様の家に行くか」
「……お"ー、頼んだ」
黒崎の首に腕を回して、落ちないように掴まる。
居心地が悪そうに身動ぎをしながらも、黒崎はオレを背負い直して歩き始めた。
「あんまり近付くなよなお前」
「あ"あ?何だよ、オレのこと嫌いかぁ?」
「ばっ!そうじゃねぇよ!男同士くっつくとか気色わりぃだろ!!」
「……悪いな」
「お、おお……。急に真面目に謝るなよ……」
「貴様らは何を遊んでおるのだ」
別に遊んでいる訳ではない。
黒崎の背中で景色を眺めながら、この後どうするのか、考えを巡らす。
記憶を書き換えるという道具、それがどんなものなのかはわからないが、世界を越えて転生を繰り返すオレ達に、その道具が効くのか、効いたとして、悪影響はないのだろうか。
……そもそも、オレは大人しく記憶置換を受け付けても良いのだろうか。
「なあ、スクアーロ。ここら辺だろ、お前ん家」
「ぁ……ああ。すぐそこのアパートだぁ」
指さした先にある、白いアパートに連れていってもらう。
昼間というだけあって、人気はほぼない。
あのアパートに住むのは、ほとんどが学生だからな。
大家さんも、この時間は自分の部屋でドラマでも見ているだろう。
部屋に入り、そこでやっと降ろしてもらった。
立った瞬間、目の前の景色が歪み、足から力が抜け、思わず倒れそうになる。
ああ、くそ……貧血だな、これは。
床に頭を打ち付けるかと思って、覚悟をしていたのだが、ギリギリのところで黒崎に受け止められた。
「おい!大丈夫か!?」
「……ん、あ……大丈夫……」
「じゃないだろう、愚か者め。大人しくじっとしていろ。いま、傷を治してやる」
朽木の手がオレのパーカーに伸びる。
傷は肩と背中、そして腕や足に細かいものが複数と、拳に負った裂け傷。
腕や足ならまだしも、背中はまずい。
気付けば反射的に、朽木の手を振り払って、彼らから逃げるように後ずさっていた。
ハッとしたときには、二人から怪訝な目を向けられている。
やべぇ、怪しまれてるよな、これは……。
「う……お゛、わりぃ……。手当てなら自分で出来るから、もう帰って良いぜぇ。ありがとうな」
「な……馬鹿なことを言うな!爆弾を諸に食らってただろう!今すぐにでも治療が必要なはずだ!!」
「つーかさっき倒れたばかりの奴を、治療もしないで放っておけるか!」
「いや……でも……」
「でもも何もあるか!やってしまえ一護!!」
「任せろ!!」
「わぎゃ!」
後ずさったところで、学生の住むアパートの部屋の広さなんて、たかが知れている。
逃げ場のない壁際まで追い詰められ、その上体格の良い高校生男子に飛び掛かられては、さすがのオレだってどうしようもない。
「は、離せよ!」
「大人しく手当て受けるまでは出来ねーな!ったく、いい加減脱いで…………」
「む?どうした一護?」
ワイシャツのボタンを外されて開かれる。
サラシを巻いているけれど、それでも素肌を男に見られるのは気分の良いもんじゃない。
黒崎は一瞬硬直した後に、そっとオレのワイシャツを閉じて立ち上がった。
「ちょっとオレのほっぺつねってくれないか」
「夢じゃねぇぞアホ黒崎」
「だっておまっ……!嘘だろ!!」
「嘘じゃねぇよ死ね変態」
「変態じゃねーよ!知らなかっただけだろうが!!」
人の半裸を見た挙げ句、言うに事欠いて夢って何だ。
自分の体を抱き締めるようにして、黒崎を恨めしげに見上げる。
キョトンとしてオレ達を見比べてる朽木のことさえも憎たらしく思えてくる。
「もういいから、出てけよお前ら……」
「いや待てよおい!何でお前そんな落ち着いてんだよ!?こっちはもう今世紀最大レベルのドッキリだったんだぞ!?」
「何が何だかわからぬが、治療をするまで私は帰らんぞ」
「……くそ」
前門に黒崎、後門には朽木。
逃げ場はどうやらないらしい。
ここで変な能力を使うわけにもいかねぇし……、これは、諦めるしかない、だろうか。
「……誰にも、話さないか?」
「お前が嫌なら話さねぇよ!つーか話しても信じてもらえなさそうだし……」
「そんなに意外かよ……」
「だからなんのことなのだ?」
一人わからずにキョトンとする朽木に、オレはため息を吐いた。
こうなったらもう、一人にバレようと二人にバレようと変わらない。
ボタンが外れたままのワイシャツを捲った。
「おおおおお前何してんだ!!」
「動揺しすぎだクソ崎」
「誰がクソ崎だ!」
「これは……貴様、女だったのか!?」
「そうだよゴラァ、悪いか」
「わ……悪くないが男の前で裸になるバカがあるか!お前もお前だ一護!さっさと出ていけ!!」
「サラシ着けてるだろぉが」
「うおっ!!押すなって!」
朽木に背中を押されて、黒崎が出ていく。
部屋を出る寸前に、黒崎の視線がオレの胸の辺りにぶつかる。
……オレのない胸を見てどうするって言うんだ。
きっとディーノが今の出来事を聞いたら怒るんだろうけれど、百年以上も生きてりゃあ、多少見られたくらいじゃあもう動じない。
嫌なのは、嫌なんだけど。
なんと言うか、昔と変わってしまった自分に、物悲しい気持ちになる。
「背中を向けろ!すぐに治療してやる」
「……誰にも言うなよ、この事」
「わかってる!どんな理由があるのか知らぬが、貴様がそこまで嫌がるのなら、この事を無闇矢鱈と人に広めたりはしない!」
「……ありがとな」
朽木は、オレが性別を隠す理由は聞いてこなかった。
それに少しだけ安心した。
今となっては、本当にしょうもねぇ理由なんだけど、それでも、女らしくなんてのは出来なくて、こんな姿のまま今日も過ごしている。
手で髪を纏めて避けて、背中を露にすると、朽木の小さな手が患部にそっと添えられる。
すぐにそこから温かさが広がって、ズクズクと痛んでいた背中の傷が治っていった。
「スゴいな……。本当にあっという間だ」
「思ったより傷が浅かったからな。あとはしっかりと寝て、体力を回復させることだ。それと……」
朽木の手が離れて、服を着ながら話を聞く。
言葉を続けながら、朽木が制服のポケットに手を入れ、何かを取り出そうとする。
何を取り出す気なのかは、簡単に予想が着く。
オレは首に下げた石をきゅっと握り締めて、ゆっくりと振り返った。
「……悪いが、今日のことは忘れてもらおうか」
「ぐっ……!?」
ボンッと小さな爆発音がして、目の前が真っ白に染まる。
フラッシュバックのように、頭の中に映像が流れ込んでくる。
偽の記憶を植え付けられているのだ。
自分に起きている事態は理解出来た。
だが雪崩れ込む記憶の奔流を否定することは出来ず、オレはすぐに意識を失い、倒れてしまったのだった。