×鰤市
「うおッ!?またこりゃデケーのが来たな!!つーかアンタよく担いでこられたな!?」
病院の中に入ってすぐ、小学生くらいの女の子に呼ばれて来た男がそう叫んだ。
医者……ということは、黒崎の親父さんだろうか。
小さな病院だし、他に医者はいなさそうだ。
なら、こっちの女の子は黒崎の妹か?
あんまり似てねぇなぁ。
「一護ォ!仕事だ!コイツ運ぶの手伝ってくれ!」
オレが担いでいる反対側の腕をとって運ぼうとする女の子。
たがまあこの体格差じゃどう考えても運べないだろう。
彼女の気遣いを丁重に断り、黒崎の親父さんと一緒にチャドを抱えて移動する。
「…チャド…!?」
……と言っても、すぐに黒崎が来たから、親父さんは交代して診察室に行っちまったが。
「よぉ、黒崎。奇遇だなぁ」
「スクアーロも!?お前らどうしたんだ!?」
「さっきそこで事故に巻き込まれた」
適当に説明した後、黒崎とチャドを運ぶ。
その途中、もう一人女の子とスレ違った。
怪我をした大男に、長い銀髪の外国人。
目立つ要素は山程あるはずなのに、彼女はオレ達には目もくれずに、インコの籠だけを凝視している。
何かが、見えているのかもしれない。
オレが感じたのは血の臭いだけで、それ以上のものを読み取ることは出来なかった。
診察室にチャドを運び込み、そこで一先ず、オレはお役御免となる。
「大丈夫かぁ?」
診察室のドアを見詰めて動かなくなった彼女に、話し掛けてみた。
そろそろとオレを見上げて、驚いたように目を見開く。
今になってやっと、オレの存在に気付いたらしい。
「あ……アンタも、怪我人……?」
「幸運なことに、無傷だぁ」
そう言ったら、不審そうな目で見られた。
心外だ。
「お前こそ具合悪そうだが、大丈夫か?」
「……あたし?」
「顔色が悪い。何か怖いモノでも見たようだなぁ」
「っ……!なんでわかるの!?」
その反応に、思わず苦笑した。
その様子とか表情とかが、何となく黒崎に似ているような気がしたからだ。
見事に図星を指された彼女に視線を合わせようと、その場にゆっくりとしゃがみこむ。
「お前が何を見たのか、オレにはそこまではわからねぇが……、だがあのインコから、恐ろしいものを視たんだろうってことは、顔を見れば十分わかる」
「……そんなに、分かりやすかったかな」
「さあ?あのオレンジ頭にはわからねぇかもなぁ。アイツ、そう言うの苦手そうだし」
「アンタ……一兄の友達?」
「ん゙、まあそんなところ」
黒崎の友人だと聞いたからか。
女の子の表情が少し和らいだ。
なんだ、案外一護お兄ちゃんは信頼されているらしい。
「何を視たぁ?」
「……インコの中の霊、小さな男の子で、お母さんを、……目の前で殺されてた」
「……」
「あんなの、酷すぎる……」
「……そうかぁ」
頭を垂れて、肩に力を入れる少女。
まだ幼いというのに、自分で恐怖を押さえ込もうとしているのか。
気付くとオレは彼女に手を伸ばして、その背を撫でていた。
「……兄ちゃん?」
「恐いの堪えて、偉いけどな。話して頼れば、きっとお前の家族は喜ぶぞ。我慢するのは、あまり良くねぇな」
「……でも、」
「心配はかけたくねぇかぁ?」
尋ねたら、無言で頷かれた。
その拳は、体の横で痛そうなほどキツく握り締められている。
「そんなら、オレに相談してみろぉ。他人の方が話しやすい事もある」
「アンタに……?」
「……あからさまに不審そうな顔すんなよ。良いかぁ、恐怖ってのは、後から来る。その時堪えられたと思っても、後から思い返してどうにもならなくなることがある。オレじゃ不安かもしんねぇがなぁ、誰かに話すだけで楽になることもあんだよ」
「……」
胡散臭そうに眉間にシワを寄せてこちらを見ている少女を宥めて、連絡先を書いたメモを渡す。
一人で踏ん張ろうとしている彼女の様子が、オレにはどうにも放っておけなかった。
「まあアレだぁ。無理はすんな」
「……そんなん、わかってるし」
「そぉかよ」
「でも…………ありがと」
「どーいたしまして」
最後に、ぽん、と頭に手を置く。
すぐに鬱陶しそうに払い除けられた。
「あたし、気分悪いから部屋行く」
「伝えといてやるよ」
「うん……ありがと」
部屋に行く彼女を見送りながら、思った。
そう言えば、まだ名前も聞いていなかった。
まあ、後で聞けばいいか。
その後、間を置かずに診察室から出てきた黒崎に、部屋に戻った事を伝えた。
心配そうな顔してる癖に、何でもないように振る舞ってる奴は滑稽だったが、そんな黒崎からチャドの入院を伝えられて、オレもさすがに真顔になる。
頭の良いチャドのことだ。
自分が狙われることを自覚している以上、ここに長く留まりはしないだろう。
恐らく夜、アイツは病院を脱け出す。
その時までに、こちらも用意を整えておこうか。
黒崎には、明日また来るとだけ言って、その場は立ち去った。
病院の中に入ってすぐ、小学生くらいの女の子に呼ばれて来た男がそう叫んだ。
医者……ということは、黒崎の親父さんだろうか。
小さな病院だし、他に医者はいなさそうだ。
なら、こっちの女の子は黒崎の妹か?
あんまり似てねぇなぁ。
「一護ォ!仕事だ!コイツ運ぶの手伝ってくれ!」
オレが担いでいる反対側の腕をとって運ぼうとする女の子。
たがまあこの体格差じゃどう考えても運べないだろう。
彼女の気遣いを丁重に断り、黒崎の親父さんと一緒にチャドを抱えて移動する。
「…チャド…!?」
……と言っても、すぐに黒崎が来たから、親父さんは交代して診察室に行っちまったが。
「よぉ、黒崎。奇遇だなぁ」
「スクアーロも!?お前らどうしたんだ!?」
「さっきそこで事故に巻き込まれた」
適当に説明した後、黒崎とチャドを運ぶ。
その途中、もう一人女の子とスレ違った。
怪我をした大男に、長い銀髪の外国人。
目立つ要素は山程あるはずなのに、彼女はオレ達には目もくれずに、インコの籠だけを凝視している。
何かが、見えているのかもしれない。
オレが感じたのは血の臭いだけで、それ以上のものを読み取ることは出来なかった。
診察室にチャドを運び込み、そこで一先ず、オレはお役御免となる。
「大丈夫かぁ?」
診察室のドアを見詰めて動かなくなった彼女に、話し掛けてみた。
そろそろとオレを見上げて、驚いたように目を見開く。
今になってやっと、オレの存在に気付いたらしい。
「あ……アンタも、怪我人……?」
「幸運なことに、無傷だぁ」
そう言ったら、不審そうな目で見られた。
心外だ。
「お前こそ具合悪そうだが、大丈夫か?」
「……あたし?」
「顔色が悪い。何か怖いモノでも見たようだなぁ」
「っ……!なんでわかるの!?」
その反応に、思わず苦笑した。
その様子とか表情とかが、何となく黒崎に似ているような気がしたからだ。
見事に図星を指された彼女に視線を合わせようと、その場にゆっくりとしゃがみこむ。
「お前が何を見たのか、オレにはそこまではわからねぇが……、だがあのインコから、恐ろしいものを視たんだろうってことは、顔を見れば十分わかる」
「……そんなに、分かりやすかったかな」
「さあ?あのオレンジ頭にはわからねぇかもなぁ。アイツ、そう言うの苦手そうだし」
「アンタ……一兄の友達?」
「ん゙、まあそんなところ」
黒崎の友人だと聞いたからか。
女の子の表情が少し和らいだ。
なんだ、案外一護お兄ちゃんは信頼されているらしい。
「何を視たぁ?」
「……インコの中の霊、小さな男の子で、お母さんを、……目の前で殺されてた」
「……」
「あんなの、酷すぎる……」
「……そうかぁ」
頭を垂れて、肩に力を入れる少女。
まだ幼いというのに、自分で恐怖を押さえ込もうとしているのか。
気付くとオレは彼女に手を伸ばして、その背を撫でていた。
「……兄ちゃん?」
「恐いの堪えて、偉いけどな。話して頼れば、きっとお前の家族は喜ぶぞ。我慢するのは、あまり良くねぇな」
「……でも、」
「心配はかけたくねぇかぁ?」
尋ねたら、無言で頷かれた。
その拳は、体の横で痛そうなほどキツく握り締められている。
「そんなら、オレに相談してみろぉ。他人の方が話しやすい事もある」
「アンタに……?」
「……あからさまに不審そうな顔すんなよ。良いかぁ、恐怖ってのは、後から来る。その時堪えられたと思っても、後から思い返してどうにもならなくなることがある。オレじゃ不安かもしんねぇがなぁ、誰かに話すだけで楽になることもあんだよ」
「……」
胡散臭そうに眉間にシワを寄せてこちらを見ている少女を宥めて、連絡先を書いたメモを渡す。
一人で踏ん張ろうとしている彼女の様子が、オレにはどうにも放っておけなかった。
「まあアレだぁ。無理はすんな」
「……そんなん、わかってるし」
「そぉかよ」
「でも…………ありがと」
「どーいたしまして」
最後に、ぽん、と頭に手を置く。
すぐに鬱陶しそうに払い除けられた。
「あたし、気分悪いから部屋行く」
「伝えといてやるよ」
「うん……ありがと」
部屋に行く彼女を見送りながら、思った。
そう言えば、まだ名前も聞いていなかった。
まあ、後で聞けばいいか。
その後、間を置かずに診察室から出てきた黒崎に、部屋に戻った事を伝えた。
心配そうな顔してる癖に、何でもないように振る舞ってる奴は滑稽だったが、そんな黒崎からチャドの入院を伝えられて、オレもさすがに真顔になる。
頭の良いチャドのことだ。
自分が狙われることを自覚している以上、ここに長く留まりはしないだろう。
恐らく夜、アイツは病院を脱け出す。
その時までに、こちらも用意を整えておこうか。
黒崎には、明日また来るとだけ言って、その場は立ち去った。