×鰤市

夜の闇を劈き、爆音が響く。
「これよぉ、オレが来てなかったら、この音で野次馬集まってきてたんじゃねぇかぁ?つーか炎とか式神総動員させても、音が大きすぎると防音しきれねぇぞ」
「そこはほら、ご都合主義、ってやつさ。なんとかなるなる♪」
「元も子もない……。スクアーロさん、四人の方々は、ご無事でしょうか?」
「……お゙う、今のところ黒崎のバカが怪我してて、朽木が雨樋登ってて、有沢が気を失ってて、井上が死んでて……おい、これ本当に良いのかぁ?」
「良いんだよ」
「心苦しいですが、皆さん助かるハズです。スクアーロさん、何か特別なことが起こったら教えてくださいね」
「……お゙ぉ」
本当に良いのだろうか。
オレ達3人は、白蘭が作ったという、霊圧遮断マントとかなんとかっていう物を纏って、井上のマンション近くの家の屋根に潜んで、戦いの様子を窺っていた。
部屋の中の様子は、それは酷いものだった。
壁は崩壊しているし……お陰で中の様子がよく見えるのだが……、井上は仮死状態になっているらしく、魂が体と離れてしまっている。
まあ、ユニが言うのならば、それで良いのだろうけれど、級友が目の前で死んでると言うのは、……うん……心臓に悪い。
オレは双眼鏡で観察しながら、いつでも助けに出られるように構えておく。
「……ぁ……」
蛇のような虚に、井上が噛み付かれていた。
こうなるってことは、もちろん聞いていたけれど、思わず手が出そうになってしまう。
「スクアーロさん?」
「……いや、ああ、なるようになったよ」
「……ごめんなさい、あなたにばかり、嫌なことを押し付けてしまっている」
「大丈夫だよ、スクちゃんが辛くなったら、僕達が助けてあげれば良いんだもんね♪」
白蘭の軽い言葉に、ため息を吐く。
まあだが、レンズの向こうで、無事に纏まったらしい事態に、オレは安堵し、肩の力を抜く。
井上の傷は、朽木が治しているらしい。
黒崎も、酷い傷はないようだったし、有沢も大した傷ではないようだ。
そして……。
「……別の虚が、近くにいるようだね」
「ユニ」
「朽木さんは気付いていないようですね。……スクアーロさん、お願いしても、良いですか?」
申し訳なさそうに見上げてきたユニに、力強く頷いて答える。
こんなときのために、オレが来ているのだ。
当たり前だろう。
「ここから動かなくても、すぐに倒せる」
「ヒュウ♪スクちゃんかーっくいー!」
囃し立てる白蘭を、うるさいと言って黙らせ、オーラを練る。
円を広げて、虚の正確な場所を特定し、夜の炎を灯す。
そして斬鬼の術で異空間と繋げて、その異空間に収納してあった武器を、虚に向けて雨のごとく降らせた。
耳障りな叫び声が聞こえて、上手く倒したことを確認する。
そしてついでに、その異空間の中から、数枚の紙切れを取り出した。
「?なにそれ?」
「式神の媒体。これに霊力を籠めることで、自分の手足のように使役することが出来る」
「ふぅん……何で式神?」
「あいつらがオレ達の見てないところで、危険な目に遭ったときに、知らせてくれる存在がいたら便利だろぉ。後で、他の奴にもつけておくつもりだがぁ、今はとりあえず、あいつらを見張るための奴だけな」
4枚の紙切れは、それぞれが鳥や小動物などの形をしている。
霊力を籠めることで、それらは本物の動物のように、実体へと変わった。
「おー、すごいね♪陰陽師っぽい!」
「本当!カッコいいですね!」
「……オレはアマチュアだがなぁ」
それらの動物に、四人に張り付いているように指示を出して放し、オレは二人を振り返って言った。
「お゙ら、もう今日は良いんだろぉ?さっさと帰ろうぜぇ」
「はい!」
「うん♪」
頷いた二人に札を貼り付け、夜の炎で自宅へと送ってやった。
オレも、黒崎と朽木が帰っていくのを見送ってから自分の家へと帰る。
夜の炎を使いすぎたからか、怠さを訴える体をベッドに沈める。
「ただいま、紫紺」
「む、お主疲れているようだなぁ」
「……まあ、少しな。最初だからって頑張りすぎたかな……」
スタミナについては、遥か昔からのオレの弱点だった。
まあ、辛抱強く付き合っていくしかねぇか。
「……強くなれよ、黒崎」
オレが、手を出さなくても、安心できるくらいに……。
その日は、本当に疲れきっていて、うっかりそのまま寝てしまった。
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