×鰤市

夜、白蘭とユニがオレの部屋へと訪れた。
ユニ曰く、虚の気配はまだない、とのこと。
なのでしばらくは、彼らと夕飯を食べながら、密談でもしようかという流れになったのだった。
「じゃあ、今日井上達を襲うのは、井上の兄貴、なのかぁ?」
「うん、彼女のお兄さんは数年前に亡くなっている。亡くなった後、死神に見付けてもらえずに、心を病んで、虚になってしまったんだろうね。彼はまず、一護クンの部屋に現れる。その後、織姫ちゃんの部屋に現れて、織姫ちゃんとたつきちゃんを襲う……はず、だよ♪」
家族を家族が襲うなんて、救われないな。
死神、もうちょっとどうにか出来ねぇもんなのか。
「……で、オレは何をすりゃあ良い?」
「この後、井上さんのお宅の近くまで行って、一護さん達に見つからないようにしながら、彼らが死なないように見守っていてもらいたいんです」
「……ふむ」
「どうかした?スクちゃん」
白蘭が首を傾げる。
このあと井上の家に行くことは問題ねぇが、その前に黒崎の家にも、その虚は来るんだよな?
「黒崎の方は見てなくても良いのかぁ?」
「え?なんで?」
「あいつが最初に襲われるんだろぉ。もし万が一、そこであいつがやられたりしたら、井上を助けるも何もねぇだろうが」
「……」
二人は一瞬、笑顔で固まる。
白蘭の頬を、汗がたらりと伝った。
「……さすがスクちゃん!そこに気が付くなんて、キミ天才だね!!」
「考えてなかったって、素直に言ったらどうだぁ?」
「えへっ♪」
「……ごめんなさい、私うっかりしてました」
とぼけたことを言いやがった白蘭を一発殴り、しょぼくれるユニの頭を励ますように軽く叩いた。
「お゙ら、落ち込んでんじゃねぇよ」
「スクアーロさん……」
「何かある前に気付けて、よかったなぁ」
「……はい!」
ユニの笑顔を見て、少し安心した。
しかしさて、ここから黒崎の家まで行って、その後また井上のアパートまで行くのは少し面倒か。
オレは目の前の机からカップや茶菓子をどかして、スペースを開ける。
少し面倒な術だが、電気を消せば消耗は少ない。
「白蘭、電気消してくれ」
「ん?なになに?借金取りにでも追われてるの?」
「カスがぁ、殺すぞ。ちょっとした術だぁ」
「術、ですか?」
「遠見の術、千里眼の術、なんて言えば良いかぁ?離れた場所を見る術だぁ」
用意するものは二つ。
まずはハンターとして手に入れたスキル、『黒炎白氷』……もっと具体的に言うなら、夜の炎。
そしてもう一つは、オレ自身の目玉。
自分の左目を手のひらで覆い隠して、中を夜の炎で満たす。
机の上にも、霧のように薄く炎を広げた。
黒崎の家の場所は知っている。
そこに繋がるように設定すれば、すぐに、オレの左目と、机に広がった夜の炎の上に、黒崎の部屋の景色が広がった。
「おお~!夜の炎ってこんな風にも使えるんだね!」
「なぜ電気を消したのですか?」
「この術、正確には夜の炎とは少し違ってなぁ。周りが暗い方が、より力を発揮できるんだぁ」
バミューダは、部下の目を通して遠くの光景を見ていたようだが、オレは自分の目だけを目的地に移して見てるってわけだ。
目を動かして、黒崎の姿を探す。
今はベッドの下に目があるのだが、見えるところに黒崎はいねぇな。
ベッドの上か、もしくは部屋にいないか。
視界に入った棚の陰に移動して、ベッドの上を見れば、パジャマ姿の黒崎が爪を切っていることが分かる。
「んふふ、覗きにはうってつけの能力だね♪」
「お前と一緒にすんじゃあねぇ」
「……これは、何の音でしょう?」
「ルキアちゃんのケータイの音だよ。ほら、すぐに虚が来る……」
白蘭が言った瞬間、朽木が突然押入れから飛び出してくる。
直後に、黒崎の目の前に巨大な裂け目が現れた。
朽木が何やらグローブを着けた手を伸ばすが、少し、間に合わないか?
「スクアーロさん!」
「わかってる」
空いた手で構えていた式神を飛ばす。
紙で作った単発の呪術人形だが、弱い分感知はされにくい。
黒崎の背中に現れた式神が、その襟首を掴んで、朽木のいる方へと引く。
虚の手は黒崎の肩を掠め、朽木が黒崎を死神化させたところで、白蘭とユニがほうっと息を吐き出した。
「もう、大丈夫でしょう。スクアーロさん、ありがとうございます」
「あ゙あ、……んで、井上の家に行けば良いんだったなぁ?」
「そうだよ♪それじゃ、行こうか」
「お゙う。……紫紺、留守番頼む」
「むぅ、何故我が……」
むくれる紫紺に留守を任せて、オレ達は夜の炎で井上の家まで飛んだ。
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