×鰤市

「と、言うわけで、その漫画?お前が言った通りの展開がそっくりそのまま再現されたってわけだぁ」
「うんうん、順調っぽいね♪」
休日、白蘭ユニ宅にて、オレは先日の一部始終を話した。
満足そうな白蘭は放っておいて、オレはユニに尋ねる。
「こんな感じで大丈夫だったかぁ?」
「はい、大丈夫です!スクアーロさん、この後も色々あるかと思いますが……」
「出来るだけ傍観に徹する、……で、良いんだろぉ?」
「はい!あ、でも……夏休みには、少し動いてもらいたくて……」
「夏休み?」
「……尸魂界については、白蘭から聞きましたよね?あそこに、六道さんを迎えに行ってほしいのです」
「六道……六道骸をかぁ?」
数ヵ月前のイタリアで、オレの夢枕に立った……もとい、精神世界を渡ってオレの元へと現れた六道骸。
あれ以来、彼とは一度も会っていない。
つまり実際に会ったのは、前世が最後ってことなのだが、ユニの言い様からするに、骸の奴は今、尸魂界にいるようだ。
「……って、それってつまり、あれかぁ?アイツは既にこの世界で死んで、あの世に逝っちまってるって事かぁ!?」
「詳しいことは私にも……。ですが、元々向こうの世界で生まれたという可能性もあります」
「あ゙ー、なるほどなぁ」
まあ、そればかりは、本人に聞いてみないとわからないらしい。
しかし、アイツ、オレの事大っ嫌いだからなぁ……。
迎えに行っても、隠れられる可能性が……。
しかしユニを危ない場所に連れていく訳にもいかないし、白蘭はユニからは離れたがらないだろう。
と言うわけだから、行けるのはオレしかいない……、ということか。
ったく、仕方ねぇなぁ。
「とりあえず、わかった。とにかくオレは、骸を現世まで引っ張ってくりゃあ良いってことだなぁ」
「はい!」
「任せろ」
ユニの頭を撫でる。
擽ったそうに身をよじるユニに癒されてみたり、むくれた白蘭をからかってみたり。
そんな風に遊んだ後の、帰り道。
少し以外な子と、鉢合わせた。
「あれ?スクアーロ君だ!」
「んあ?井上……だよなぁ?」
「どうしたの?こんな時間に?」
「それこっちの台詞でもあるんだがぁ」
出会ったのは、同じクラスの井上織姫。
変わった名前だから覚えていたけど、本人も少し変わってて、何というか、抜けている。
「私買い物行ってたの!」
「へぇ、何を……」
覗いた袋の中に見えた文字。
『胡麻垂れサイダー』
オレは何も見なかったことにして、彼女の隣に並んで歩きながら、何てことのない世間話をする。
「オレはダチの家に寄ってたんだぁ。……にしても、こんな時間に女の子が出歩いてたら危ねぇだろぉ。家まで送っていってやる」
「えぇ!?良いよそんな!」
「良いから良いから、気にすんなぁ」
ぽんぽん、と頭を叩く。
一瞬驚いたあとに、ふにゃりと顔を緩ませる様子が、何だかユニと似ていて癒される。
井上の住んでるアパートは、ここからそう遠くないところにあるそうだ。
二人で学校の話とか、趣味の話とか、下らないお喋りをしながら歩くのは、何だか本当に学生になったみたいで、ちょっと楽しいなんて思ってしまった。
「あ!ねぇねぇスクアーロ君。この後良かったらお茶でも……」
井上がそう言ったとき、オレの背筋が、ざわりと粟立った。
何かが来る……!
そう感じた瞬間に、咄嗟に井上を突き飛ばしていた。
聞こえてきたのは派手なブレーキ音。
そしてギラギラと光るヘッドライト。
「ゔおっ!?」
受け身を取って、ごろごろと転がりながら何とか車を避ける。
ったく何なんだよいきなり!!
「ス、スクアーロ君!?大丈夫!?」
「オレは何ともねぇ。それよりお前は怪我ねぇかぁ?」
車が停まって、慌てて運転手が駆け寄ってきている。
服を叩きながらオレも井上に駆け寄った。
かなり強く突き飛ばしたから、怪我させたかもしれねぇな。
「あ、私は平気……ってて……」
「あ゙ー、やっぱり平気じゃねぇな。少し強くやり過ぎたぁ。悪かったなぁ」
「だ、大丈夫ですか!?け、怪我ありますよね!ど、どうしよう……!あ、あの、警察に……!!」
「大したことねぇから落ち着けぇ!」
どうやら脚に怪我をしたらしい。
傷の様子を見てやりながら、吃りまくってる運転手を一喝して黙らせる。
脚の傷、骨にヒビ、とかはないようだが、所詮オレは素人だから、やはり医者に見せた方が良いだろうな。
……というか、この傷、普段見るようなものとは、少し違うような気がするが……。
「あの、私大丈夫ですから!気にしないでください!」
「で、でも……!」
「……とにかく、オレはこいつを病院に連れていく。あんたの連絡先を教えろ。こっちも教える。あんたはここで警察に電話して、事情を説明しておいてくれ」
「は、はい!」
「井上、歩いて悪化させるとまずい。嫌かもしれねぇがぁ、ちょっとの間我慢しろよぉ」
「え?」
たぶん、年頃の女の子に突然お姫様抱っこ、なんてしたら恥ずかしがられるだろうから、普通に背中におんぶさせて、謝り続ける運転手を宥めてから、近くの病院へと向かった。
ここからだと……空座総合病院なら、この時間でも緊急外来が空いてるだろう。
「頭とか痛くなったらすぐに言えよぉ」
「う、うん!」
「しっかり捕まってろ」
「わかった!」
首に回った腕に力が込められたのを確かめて、オレは出来るだけ振動が少なくて済むように気を付けながら、走っていった。
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