×鰤市

「スクアーロさん」
ある日、白蘭達のマンションに遊びにいった、その帰り際、ユニに呼び止められた。
「なんだぁ?」
「その……とても、言いにくい、事なのですが……」
「ん゛?」
「この先、色々なことがあると思います。でも、出来るだけ、手を出さずに見守っていてもらえませんか……?」
その言葉に、目を丸くする。
手を出さない、とは、また彼女らしくないお願いだ。
だがすぐに、首を縦に振った。
「お前が言うならば、そうするのが一番良いんだろう」
「……ごめんなさい」
「謝るなぁ。お前が優しさからそう言っていることも、お前がたくさん悩み抜いてそう言ったんだろうことも、オレはわかっているつもりだぁ」
「スクアーロさん……」
「ユニ、何かあったらすぐにお前に連絡をとるから。だから何も心配するなよ」
「……ありがとうございます」
そう言って、少し気の抜けたような笑い方をしたユニの頭を撫でた。
彼女を悩ませ、らしくないお願いまでさせる事態というのは、きっと白蘭が言っていた漫画の事なのだろう。
オレ達が手を出せば、目の前の人は救えるかもしれない。
だがその事で、未来の何かが失われる。
それでユニは、手を出さないてくれ、と頼んできたのだろう。
そして、その『事態』は、思っていたよりもだいぶ早く、訪れた。
「今日からこの学校に転校してきた、朽木ルキアさんだ!皆仲良くしろよー」
「皆さん、ご機嫌よう」
2日後、クラスに一人の女子生徒が転校してきた。
やり過ぎなお嬢様口調というか、何と言うか……、変わった奴だ。
オレは事前に聞いていた話を思い出す。
こいつが実は、人間ではなく死神で、今日はまだ登校していない黒崎のバカが、こいつに変わって死神代行として働くんだったか?
アイツも大変だな。
あんな化け物、倒して回らなきゃならないなんて。
そう言えば、石田は彼女の正体に気付いているのだろうか。
チラッと窺う。
神妙な顔付きで、朽木ルキアを見ている。
気付いているらしいな。
「んじゃあ、あそこの席使ってくれ!」
「はい」
朽木は黒崎の隣の席を使うらしい。
越智先生の指示に従って、席に着いた朽木に、オレはちょっとだけ遠い目をしてため息を吐いた。
面倒ごとが始まろうとしているらしい。
オレに出来るのは、手を出さずに見守ることだけ、か……。
それってある意味、敵いそうもない敵と戦うよりも、辛いことだよな。
……嫌なことだ。
2度目のため息を、吐いた。



 * * *



「なあ石田ぁ、朽木ルキア、どう思う?」
「どう……って?別に何とも思わないよ。と言うか、君は何で僕に気安く話しかけてきているんだい?」
二時間目が終わり、朽木がクラスメイトに囲まれて質問攻めにあっている時に、オレは石田にそう問い掛けた。
朽木が来たことは、ユニ達にもメールで連絡を取ってある。
冷たい態度の石田が面白いので、ニヤニヤと笑いながら言葉を重ねる。
「良いじゃねぇかぁ、友達だろぉ?」
「君と友達になった覚えはないんだけど」
「一緒に飯食った仲だろぉ?」
「……それは、そうだけど。それだけで友人面されるのは、些か不愉快だよ、スクアーロ」
「そんなに言うなら、別に良いけどよぉ、結局お前、朽木について本当に何とも思わないのか?」
「……何でそんなにしつこく聞くんだ?」
「お前が何かする気なんじゃねぇのか、と思ったからなぁ」
「……」
石田が一瞬動きを止めて、メガネの下から睨んでくる。
それに対して軽く肩を竦めて、彼から飛んでくる苛立ちを受け流した。
図星なんだな。
まあ、答える気がないなら別にいい。
後で白蘭に詳しいこと聞けば分かるし。
「ほら……、君の友人もようやく登校してきた。向こうに行ったらどうだい?」
「……ん゙、じゃあまたなぁ」
「もう来なくて良い」
どれだけ睨んだって無駄だと分かったのだろう、苛立たしげなまま手元の本に視線を落としてそう言った。
見ないでも分かるのは、恐らく霊圧で察知したからだろう。
「よお黒崎ぃ、重役出勤かぁ?」
「お前この間までイタリアいたのに、何でそんな変な言葉知ってんだよ?」
『こう見えてもお前らよりずっと長生きしてるからな』とは、流石に言えず、笑ってごまかした。
その日の昼休み、中庭で倒れていた黒崎の体(魂抜けてた)を回収したりもしたのだが、その日の内はまあ、特になんと言うこともなく、無事に過ごすことが出来たのであった。
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