×鰤市

「紅茶とコーヒー、どっちが良い?」
「えーっと、紅茶で…………じゃない!僕は君と話をしに来たんだ!」
「話すと喉が乾くだろ?飲み物は必要なはずだぁ」
「いや……それはそうだけど……!」
真面目そうな外見通りの反応に、思わずクツクツと喉を鳴らして笑う。
帰り道、オレを追って来たらしい石田は、話したいことがある、と言った。
道端で話すのも難なので、彼を自宅へと連れていくことにした。
そして今は、ソファーに座らせた彼に紅茶を出したところである。
「んで、話ってのぁ何だぁ?」
「あ、ああ……話って言うのは……いや、その前に1つ、聞いておきたいことがあるんだけど」
机を挟んで、石田の目の前に座り、自分の分の紅茶を啜る。
うん、今日の紅茶も美味しい。
「キミ、幽霊が見えるんじゃないのかい?」
「ん?まあ、つい最近からの話だけど」
「最近……そうか、じゃあ日本に来てから、ってことかな?」
「そうだなぁ、こっちに来て、少ししてからだぁ。……つーか、オレが外国から来たこと、知ってたんだなぁ」
「つい最近来たって教室で噂を聞いたんだ。それで、あと幾つか、キミには聞きたいことがあるんだ。答えられる範囲で構わないから、答えてくれないかい?」
「まあ、良いけど」
答えられる範囲で、というのは、随分と良心的なんだな。
白蘭や骸なら、……いや、奴らのやり口については、考えない方が良いだろう。
「キミの周りに、霊感の強い人はいないか?霊が見られるとか、祓えるとか」
「ん……祓えるかは知らねえが、見える奴なら、心当たりはある」
まあ、白蘭とユニのことなんだが。
アイツらなら幽霊くらい祓えそうだよなぁ。
「その人には、最近会ったかい?何か話を聞いたりは……?」
「あ゙ー……数日前に会ったなぁ。そん時には、たまに質の悪い奴がいるから気を付けろとか、そんなことなら言われた」
「……そうか」
……嘘は、言ってないよな?
虚のことを、質の悪い悪霊みたいに言ってたし、気を付けてね!と、虚の眼前にオレを放り出しながら言ってたし。
思い出したらなんかイラついてきたので、頭の中で白蘭を殴っておく。
石田は、白蘭のことを……というか強い霊力を持つ人間のことを、知りたいのだろうか。
こちらとしては、ユニの事もあるし、あまり他人にアイツらの存在は話したくない。
下手に話して、ユニの予知能力が狙われたりするのは嫌だからな。
「本当にそれだけ?」
「お゙う」
「……そうか。その人の意見は最もだけど、質の悪い悪霊っていうのは、僕達は虚って呼んでいるんだ。見たことがないと想像しづらいかも知れないけど、白い骨のような仮面を被った化け物で……、とてもただの人間に太刀打ち出来るようなモノじゃない。キミは霊圧……他者の霊力を察知する能力が高いようだし、虚に見付かる前に逃げるように気を付けると…………僕の顔に何かついているかい?」
「いや、教えてくれるんだなぁ……と、思って」
神経質そうで、なんか取っ付きづらい印象の石田だったから、わざわざ危険な霊について教えてくれるとは思っていなかった。
なんだ、思ってたより良い奴なんだな。
不良じゃない獄寺みたいな奴かと思ってた。
懐いた奴以外には凄く噛み付くみたいな。
コイツの噛み付き方は粘着質そうだけど。
「……別に、知っているのに教えなかったせいで、キミが虚に食われたりしたら寝覚めが悪いからね」
「ふーん、優しいんだなぁ?」
「だっ……だからそんなんじゃないってば!とにかく!何か感じたときには、出来る限り近付かないようにすることだ。僕は毎度毎度キミを助けてやれるほど暇じゃないからね。今日のように、相手の霊圧の高さに気付いて、一々反応するようなバカな真似はしないことをおすすめするよ」
「毎度じゃなければ助けてくれるのか?」
「ち、違っ……!別に助ける気なんてこれっぽっちもない……!」
「そうかぁ?……ま、お前の言う通り気を付けるようにする。ありがとな、色々教えてくれて。礼に茶菓子サービスしといてやるよ」
「別にいらな……ちょ!こんなに僕一人で食べられるわけないだろ!?」
「食いきれなかったら、後でオレが食うから良いんだよ」
暇潰しに作っていたタルトやらパイやらケーキやらを机の上に並べる。
なんか可愛い親戚の子に色々奢ってあげてる、みたいな感じになってるが、そこはあまり気にしないようにしよう。
……オレも中身は随分年食ってるからなぁ。
「……あ、おいしい」
「そぉか?そりゃあ良かった!」
恐る恐るクッキーを口にした石田が、ちょっと目を見開いてそう言ってくれた。
普段の言葉遣いが乱暴なせいで、家事スキル低そう、とよく思われるのだが、家事の中でも料理は特に自信があるのだ。
にっと笑って石田を見ると、気恥ずかしそうに視線を逸らされる。
石田はあれだな、ツンデレだ。
コイツの反応見てるの面白い。
「せっかくだし夕飯も食ってくかぁ?」
「え……良いのかい?」
「二人分くらいなら材料もあるし、一人じゃ味気ないだろ?」
「……じゃあ、お言葉に、甘えて」
そう言えば、石田も一人暮らしだったかなぁ、などと思い出しながら、彼を夕飯に誘い、結局石田が帰ったのは日がとっぷり暮れた、夜8時の事だった。
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