×鰤市

「遺産はこの子を引き取った者に相続させるだ!?」
「全く!ふざけたことを……」
「何で私達がこんな気味の悪い子を……」
「しっ!聞こえるぞ……!!」
って、全部筒抜けなんだけど。
あの老夫婦はとても良い人達だったのに、その葬式に集まった親族達は金の事ばかりのクズ同然な人間ばかりだった。
良い奴の親族=クズ、って方程式、あながち間違ってないかもしれない。
「と言うかあの子ども、日本語喋れるのか?生粋のイタリア人って聞いてるが」
「さあ、そんなこと知らないわよ。今、15歳なんでしょ?高校まで通わせれば良いって遺言書にはあったし……あと数年の辛抱なら家で……」
「ちょっと!遺産独り占めにする気なんでしょう!?」
「そんなこと誰も言ってないじゃない!」
面倒を見てくれる人がいる、というのは本来とてもありがたいことなんだろうが、正直こんな奴らに世話になるのは気分が悪い。
ギャーギャーと騒いでみっともない奴ら達。
だいたいオレは、お前らよりも早い内から日本語喋れるっての。
部屋の隅に膝を抱えるように座って、頬杖を突いて彼らの喧嘩を見守る。
あの老夫婦は日本人で、老後にイタリアに移住してきていたらしい。
映画に憧れて、なんて言ってたけれど、本当はこいつらから離れたかったんじゃないのかってうたがっちまう。
もちろん彼らの親族は皆日本人で、イタリア人な上に素性の知れないオレを受け入れる事を躊躇っていた。
でも遺産は手に入れたいから、いつまでもぐだぐだと揉め続けている。
「もういい!オレ達がこの子を引き受ける!!最低限の遺産は相続されるんだから、お前らもそれで納得しろ!」
結局、長男だと言う男の発言で、長い家族喧嘩は執着を迎えた。
「えーと、スペルビ君って言ったかい?日本語、わかるか?」
「……わかる。でも名前で呼ばないでほしいんだけど。オレ、名前で呼ばれるの嫌いなんだよ」
「え?あ、ああ……そうか……。えぇと、それなら……」
「スクアーロ、って呼んでくれ。それと、オレの面倒見るのがそんなに嫌なら……」
オレはにこやかに微笑むと、戸惑う男に言い放った。
「一人で暮らすから。あんたらはオレの親権者になってくれればそれで良い。まあ、学費と生活費くらいなら遺産から十分出せるよなぁ?」
死んだふりして姿くらませる事も考えたが、死んだ二人の顔を立てて世話になってやろうじゃねーか。
そうしてオレは、日本の……空座町という場所に一人で住むことになったのであった。
通う高校は、空座第一高校。
4月に学校が始まるまでの僅かな間に、オレは『彼ら』と再会を果たすことになったのであった。
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