×鰤市

「……どうやらお互い、また輪廻を外れたまま、巡ってしまったようですね」
「……骸?」
「名を呼ぶなと言ったでしょう。僕は暫く、一人で生きます。ですが貴女に1つだけ、教えておいてあげた方が良いかと思いまして、こうして夢の中に訪れた次第です。感謝してほしい。波長の合わない人間に干渉するのは、そこそこ骨の折れる事なのですよ」
「……っ」
「まあ無理に干渉したせいで幸い、貴女の自由を奪うことが出来たので、今回は素直に教えましょうか。良いですか、スペルビ・スクアーロ。この世界には、僕達以外にあと二人、懐かしい方がいるようです。まあ、気が向いたら探してみると良い。僕が言いたかったのはこれだけです。貴女の意識もそろそろ目覚める。僕は帰りましょう」
「っま……て!」
「では、また……」
骸が背を向け、去っていく。
オレはその背に手を伸ばして、叫んだ。
「待って……くれ、骸!!」
だが瞬間、暗転。
気が付けばオレは、今自分が住まわせてもらっている部屋のベッドの上で、汗だくで天井に手を伸ばしていた。
「スクちゃん?どうかしたの?怖い夢でも、見たのかしら?」
「……いいえ、何でもありません、おば様」
ドアを開けて、オレに心配そうな顔を向けるのは、オレを養ってくれている老婦人で、オレは彼女を安心させるように微笑んだ。
彼女の心配げな表情が消えることはなかったけれど、それでも少しは安心してくれたらしく、オレに向かって二言三言話し掛けてから、彼女はドアを閉じる。
「六道、骸……あれは一体……」
夢だった。
だが、ただの夢ではない。
夢枕に立った、と言う言い方は、また少し違うけれど、確かにあれは骸本人からのメッセージだ。
『この世界には、僕達以外にあと二人、懐かしい方がいるようです』
つまり、マフィアだったあの頃の仲間が、この世界のどこかにいると。
「探しに行くか……。いるとしたら……きっと」
オレがマフィアだった頃、大きな事件が起きる場所は、そのほとんど日本だった。
オレが妖怪の妹を持っていた頃、オレが生きたのは日本だった。
オレが忍者の里に生まれた頃、あの世界で使われていたのは日本語だった。
オレが自警団を組織した頃、……そう言えばその頃には、日本は大して関わってこなかったが……。
いや、まあとにかく、日本と言うのはオレにとっての一種のホットスポット、扇の要、運命的な地であると言える。
そう言えば、ディーノと会ったのは……、と言うかまともに話したのは、日本が最初だったか。
本当に初めて会ったのはイタリアだったけど、すれ違った程度だったしな。
……話が逸れたか。
閑話休題。
とにかく、まず行くとするなら日本だろう。
居なかったら、という考えは浮かばなかった。
いる、という事を、己の勘が告げている。
今、オレの体は15歳。
高校に入ったら、留学制度でも何でも利用して行ってみるか……。
いや、休みの日に夜の炎で瞬間移動すれば、わざわざ金払わなくても良いか。
「しかし、奴らの中の、二人がいるか」
二人、セットで死んだ奴らと言えば……、うん、心当たりがある。
彼らを探すのは……少し骨が折れそうだ。
オレはその時、思いもしなかった。
まさか自分を孤児院から引き取ってくれた老夫婦が事故で死に、その家族によって日本に引き取られる事になるとは……。
世の中所詮はご都合主義。
……って言ったって、いくらなんでも出来すぎだろう!
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