×狩人
「よし、全員、ライセンスは行き渡ったなぁ?」
「ゴンはまだ寝てるのだが」
「あいつには後から個別に説明する」
受験者全員を別室に移動させ、壇上に立って部屋を見渡す。
ほとんどの者が怪訝そうな顔をしていたが、ヒソカだけはニマニマとご満悦そうだ。
軽く咳払いをして、再び口を開いた。
「よし、じゃあまず、全員の合格おめでとう。毎年死人が多く出るハンター試験で、これだけの数の新人が合格までたどり着けたことを、大変嬉しく思う」
「っておい!待て待て待て!ぬぁんでお前が当たり前のように取り仕切ってんだよ!」
「レオリオの言う通り、疑問点が多くある。君は何者だ?試験合格は喜ばしいことだが、君の正体にも、キルアの不合格についても、きっちりと説明していただきたい」
たまには団長らしく、とも思ったのだが。
挨拶の途中で入った横槍に、思わず眉をひそめる。
俺の正体について疑問を持つことはわかるが、まだキルアのことを引っ張るか。
あいつの不合格はどうしたって取り消せることじゃねぇし、今のあの子を合格にしたところで、ライセンスは重荷にしかならないだろうしな。
ため息をはいて、どう話そうかと言葉を選ぶ。
「さて、物事には順序ってものがある。元々決めてた順とは違うが……まあ良い。俺のことから話してやる」
話すからには、この変装は解かねぇとな。
高い襟の中に手を入れ、被っていた『皮』を剥いでいく。
ペリペリと肌からシリコンが離れていく感覚は、何度やっても気分が良くない。
ウィッグをとって、素顔をさらす。
ついでに身に纏っていた重たいコートも脱ぎ去った。
下に着ているのは自警団フィアンマの制服である。
「オレの名はスペルビ・スクアーロ!自警団フィアンマ団長、そして今回のハンター試験での警護責任者だぁ!お"う、オレが仕切ることに納得いっただろぉ?」
「な……な……!嘘だろー!?」
「まさか……団長直々に出てくるわけが……」
「いやだがあの顔、それに特徴的な髪の毛!間違いなくあのキザやろ……じゃなくてスクアーロ団長だぜ!」
「う"ぉい、誰がキザ野郎だぁ」
そう言えばこいつ、一次試験の時にもそんなことを言っていたような。
一睨みすればあからさまに顔色を悪くして視線を逸らされる。
まったく、気まずく思うくらいなら始めから言うなっつーの。
それと六道骸は見えないからって『貴女以外にキザ野郎はいないでしょ』っつー顔すんのやめろマジで。
「毎回ハンター試験がある度に、合格者や優秀な受験生のスカウトを一番先にさせてもらう代わりに、試験中の監視、護衛や、試験後のチュートリアルやらなんやらをしている。仕事内容を考えると、オレが適任なんだぁ。毎度やってるぜぇ」
「じゃああのカラスも……」
「オレのだぁ。可愛いだろぉ」
腕にカラスを止まらせて、会場の奴らに向けてウインクを投げ飛ばす。
数人がふいっと顔を背ける中、隠れて見ている六道が『気色悪い』と言わんばかりに顔を歪めたので次の任務で痛い目に遭うように念を飛ばしておいた。
「オレが仕切ることに文句はねぇなぁ?」
「まあ……」
「じゃあ次、キルアについてか。不合格は変更できねぇな。仮にもハンター協会会長のネテロが頷いたんだ。そう簡単に覆せるもんじゃねぇ。次回のハンター試験で頑張れば良いってだけの話だろ。だからこの話もここで終わりだぁ」
「その判断基準についてが納得行かないと言っているのだ」
オレの言葉が終わるか終わらないかの内に挟み込まれた反論に、眉間に力が入ってしまう。
時間が無限にあるわけではない。
むしろ押し気味だったのだ。
早く終わらせて、いい加減次の段階に進みたいんだがな……。
「……理由を言ってみろ」
「それは」
仕方なく意見を聞こうと促したところで、突然部屋の後方にある扉が開いた。
今度はなんだとため息を吐きながら視線を送ると、そこには先程まですやすやと寝ていたはずのゴン=フリークスが。
彼はドアを開けた勢いのまま、ギタラクル……もとい、イルミ=ゾルディックの元へと歩み寄ると、なんの脈略もなく言い放った。
「キルアにあやまれ」
「あやまる……?何を?」
ああもう、ため息が止まらねぇ……。
これ以上時間が押すと次の仕事にも支障が出るんだが。
「スクアーロ、難なら先に帰ってもらっても構わんぞ?」
「クソジジイ、オレがここまで警護してた意味なくなんだろうがそれ」
こっそり話し掛けてきたジジイを一蹴。
とにかくゴンを座らせないと、と思った矢先に、イルミ=ゾルディックが吹っ飛んだ。
いや、ゴンに腕を捕まれて椅子から引っ張り出されたんだ。
この説明会が終わればお役御免だってのに……最後の最後でまた喧嘩とはついてない。
しかもゴンの奴、手加減してないんだか出来ないんだか知らないが、あれではイルミの腕は折れてるだろう。
キルアを連れ戻すでも何でも良いから、後にしてくれないかな……。
「まるでキルが誘拐でもされた様な口ぶりだな。あいつは自分の足でここを出ていったんだよ」
「でも自分の意思じゃない。お前達に操られてるんだから、誘拐されたも同然だ!」
ゴンがそこまで言い放ったところで、二人のやり取りが途切れる。
この隙にと、わざとらしく咳払いをすれば、ようやくこちらに気付いたのかゴンが視線を向けてきた。
「……オビト?」
「お、よくわかったなぁ。まあ取り敢えず落ち着けぇ。今、ちょうどキルアの不合格についての異議申し立てが出てたところだぁ」
目線をクラピカに移し、先程の続きを言うように促す。
クラピカ曰く、キルアの様子はギタラクル戦の後から明らかにおかしかった。
催眠、暗示の類いで操られていた可能性がある、とのこと。
更に重ねて、レオリオが言うには、自分とポドロ氏の大戦中に事が起きた為、それがレオリオの合格への手助けとなっていること。
不合格とされるべきはキルアではなく、自分ではないかという主張だった。
最後列に座っていたポドロも頷いている。
「いずれにせよ、キルアは当時自らの意思で行動できない状況下にあった。よって彼の失格は妥当ではない」
そう締め括った彼の言葉に、まずは一度頷き、了解の意を示す。
「確かに、催眠や暗示での行為、ということは、可能性としては考えられるな」
「なら……」
「だがこの試験に、催眠術や暗示を禁止とする、なんてルールはねぇ」
ある意味それも一つの戦法なのだ。
もちろん、ハンターとして今後活動していくのであれば、正々堂々勝利を掴むのが常道ではあるだろう。
しかし、そうして合格することも、邪道ではあるが正解なのだ。
「何より、レオリオがあのまま負けるとも思えなかったな。あそこで手ぇ出すメリットがねぇだろう」
「ぅぐ……まあそれは……」
「それに、他人の作為が見受けられる不自然な合格、というのならば、他の対戦中にもあっただろう。クラピカVSヒソカ戦、ポドロVSヒソカ戦、キルアが試合放棄をしたVSポックル戦……。誰にも気付かれていないだけで、これまでの試験の中にも八百長があったかもしれない。それを一々取り上げて調べ上げて……。そんなことをしてる暇は、協会にも自警団にもない。よって、この結果は変えられねぇ。文句があるなら、この後自警団で新人募集すっから、そこに入って一から鍛え直せ」
「さらっと勧誘しおる」
「うっせ」
まあつまりは、結果の変更は認められません、っつーことなのだ。
オレの言葉に、しぶしぶ引き下がった二人に、今度は安堵の吐息をひとつ。
そしてまだ立ちっぱなしのゴンに視線を戻す。
「で、ゴン、お前は何かあるか?」
「試験についてはない。キルアが不合格だったのは残念だけど、もう一度受験すれば絶対合格できる。それより」
みしりと、ゴンの指に更に力がこもる。
ああ、ああ、あれじゃしばらくろくに生活も出来なくなっちまうんじゃねぇのか?
「もしも今まで、望んでないキルアに、無理矢理人殺しをさせていたのなら、お前を許さない」
イルミの体から、威嚇するようにオーラが立ち上る。
だがオレが止めるまでもなく、ゴンは何かを察知したように彼から手を離して後退った。
あの、貫くような真っ直ぐな目、妙に鋭い勘。
やはりあの男の子どもなんだろうとわかってしまい、少し憂鬱になる。
こういう子は早死にする。
ジンがまだ健在なのは、生まれもっての運の良さのせいにすぎない。
……だがまあ、この手の人間は悪運が強い。
きっとこの子も、あの男同様、しぶとく生き続けるんだろう。
「さあ、話は済んだなぁ?説明会を再開する。全員席につけ」
今度こそは全員を席に座らせ、ようやくまともに説明会が始まった。
「ゴンはまだ寝てるのだが」
「あいつには後から個別に説明する」
受験者全員を別室に移動させ、壇上に立って部屋を見渡す。
ほとんどの者が怪訝そうな顔をしていたが、ヒソカだけはニマニマとご満悦そうだ。
軽く咳払いをして、再び口を開いた。
「よし、じゃあまず、全員の合格おめでとう。毎年死人が多く出るハンター試験で、これだけの数の新人が合格までたどり着けたことを、大変嬉しく思う」
「っておい!待て待て待て!ぬぁんでお前が当たり前のように取り仕切ってんだよ!」
「レオリオの言う通り、疑問点が多くある。君は何者だ?試験合格は喜ばしいことだが、君の正体にも、キルアの不合格についても、きっちりと説明していただきたい」
たまには団長らしく、とも思ったのだが。
挨拶の途中で入った横槍に、思わず眉をひそめる。
俺の正体について疑問を持つことはわかるが、まだキルアのことを引っ張るか。
あいつの不合格はどうしたって取り消せることじゃねぇし、今のあの子を合格にしたところで、ライセンスは重荷にしかならないだろうしな。
ため息をはいて、どう話そうかと言葉を選ぶ。
「さて、物事には順序ってものがある。元々決めてた順とは違うが……まあ良い。俺のことから話してやる」
話すからには、この変装は解かねぇとな。
高い襟の中に手を入れ、被っていた『皮』を剥いでいく。
ペリペリと肌からシリコンが離れていく感覚は、何度やっても気分が良くない。
ウィッグをとって、素顔をさらす。
ついでに身に纏っていた重たいコートも脱ぎ去った。
下に着ているのは自警団フィアンマの制服である。
「オレの名はスペルビ・スクアーロ!自警団フィアンマ団長、そして今回のハンター試験での警護責任者だぁ!お"う、オレが仕切ることに納得いっただろぉ?」
「な……な……!嘘だろー!?」
「まさか……団長直々に出てくるわけが……」
「いやだがあの顔、それに特徴的な髪の毛!間違いなくあのキザやろ……じゃなくてスクアーロ団長だぜ!」
「う"ぉい、誰がキザ野郎だぁ」
そう言えばこいつ、一次試験の時にもそんなことを言っていたような。
一睨みすればあからさまに顔色を悪くして視線を逸らされる。
まったく、気まずく思うくらいなら始めから言うなっつーの。
それと六道骸は見えないからって『貴女以外にキザ野郎はいないでしょ』っつー顔すんのやめろマジで。
「毎回ハンター試験がある度に、合格者や優秀な受験生のスカウトを一番先にさせてもらう代わりに、試験中の監視、護衛や、試験後のチュートリアルやらなんやらをしている。仕事内容を考えると、オレが適任なんだぁ。毎度やってるぜぇ」
「じゃああのカラスも……」
「オレのだぁ。可愛いだろぉ」
腕にカラスを止まらせて、会場の奴らに向けてウインクを投げ飛ばす。
数人がふいっと顔を背ける中、隠れて見ている六道が『気色悪い』と言わんばかりに顔を歪めたので次の任務で痛い目に遭うように念を飛ばしておいた。
「オレが仕切ることに文句はねぇなぁ?」
「まあ……」
「じゃあ次、キルアについてか。不合格は変更できねぇな。仮にもハンター協会会長のネテロが頷いたんだ。そう簡単に覆せるもんじゃねぇ。次回のハンター試験で頑張れば良いってだけの話だろ。だからこの話もここで終わりだぁ」
「その判断基準についてが納得行かないと言っているのだ」
オレの言葉が終わるか終わらないかの内に挟み込まれた反論に、眉間に力が入ってしまう。
時間が無限にあるわけではない。
むしろ押し気味だったのだ。
早く終わらせて、いい加減次の段階に進みたいんだがな……。
「……理由を言ってみろ」
「それは」
仕方なく意見を聞こうと促したところで、突然部屋の後方にある扉が開いた。
今度はなんだとため息を吐きながら視線を送ると、そこには先程まですやすやと寝ていたはずのゴン=フリークスが。
彼はドアを開けた勢いのまま、ギタラクル……もとい、イルミ=ゾルディックの元へと歩み寄ると、なんの脈略もなく言い放った。
「キルアにあやまれ」
「あやまる……?何を?」
ああもう、ため息が止まらねぇ……。
これ以上時間が押すと次の仕事にも支障が出るんだが。
「スクアーロ、難なら先に帰ってもらっても構わんぞ?」
「クソジジイ、オレがここまで警護してた意味なくなんだろうがそれ」
こっそり話し掛けてきたジジイを一蹴。
とにかくゴンを座らせないと、と思った矢先に、イルミ=ゾルディックが吹っ飛んだ。
いや、ゴンに腕を捕まれて椅子から引っ張り出されたんだ。
この説明会が終わればお役御免だってのに……最後の最後でまた喧嘩とはついてない。
しかもゴンの奴、手加減してないんだか出来ないんだか知らないが、あれではイルミの腕は折れてるだろう。
キルアを連れ戻すでも何でも良いから、後にしてくれないかな……。
「まるでキルが誘拐でもされた様な口ぶりだな。あいつは自分の足でここを出ていったんだよ」
「でも自分の意思じゃない。お前達に操られてるんだから、誘拐されたも同然だ!」
ゴンがそこまで言い放ったところで、二人のやり取りが途切れる。
この隙にと、わざとらしく咳払いをすれば、ようやくこちらに気付いたのかゴンが視線を向けてきた。
「……オビト?」
「お、よくわかったなぁ。まあ取り敢えず落ち着けぇ。今、ちょうどキルアの不合格についての異議申し立てが出てたところだぁ」
目線をクラピカに移し、先程の続きを言うように促す。
クラピカ曰く、キルアの様子はギタラクル戦の後から明らかにおかしかった。
催眠、暗示の類いで操られていた可能性がある、とのこと。
更に重ねて、レオリオが言うには、自分とポドロ氏の大戦中に事が起きた為、それがレオリオの合格への手助けとなっていること。
不合格とされるべきはキルアではなく、自分ではないかという主張だった。
最後列に座っていたポドロも頷いている。
「いずれにせよ、キルアは当時自らの意思で行動できない状況下にあった。よって彼の失格は妥当ではない」
そう締め括った彼の言葉に、まずは一度頷き、了解の意を示す。
「確かに、催眠や暗示での行為、ということは、可能性としては考えられるな」
「なら……」
「だがこの試験に、催眠術や暗示を禁止とする、なんてルールはねぇ」
ある意味それも一つの戦法なのだ。
もちろん、ハンターとして今後活動していくのであれば、正々堂々勝利を掴むのが常道ではあるだろう。
しかし、そうして合格することも、邪道ではあるが正解なのだ。
「何より、レオリオがあのまま負けるとも思えなかったな。あそこで手ぇ出すメリットがねぇだろう」
「ぅぐ……まあそれは……」
「それに、他人の作為が見受けられる不自然な合格、というのならば、他の対戦中にもあっただろう。クラピカVSヒソカ戦、ポドロVSヒソカ戦、キルアが試合放棄をしたVSポックル戦……。誰にも気付かれていないだけで、これまでの試験の中にも八百長があったかもしれない。それを一々取り上げて調べ上げて……。そんなことをしてる暇は、協会にも自警団にもない。よって、この結果は変えられねぇ。文句があるなら、この後自警団で新人募集すっから、そこに入って一から鍛え直せ」
「さらっと勧誘しおる」
「うっせ」
まあつまりは、結果の変更は認められません、っつーことなのだ。
オレの言葉に、しぶしぶ引き下がった二人に、今度は安堵の吐息をひとつ。
そしてまだ立ちっぱなしのゴンに視線を戻す。
「で、ゴン、お前は何かあるか?」
「試験についてはない。キルアが不合格だったのは残念だけど、もう一度受験すれば絶対合格できる。それより」
みしりと、ゴンの指に更に力がこもる。
ああ、ああ、あれじゃしばらくろくに生活も出来なくなっちまうんじゃねぇのか?
「もしも今まで、望んでないキルアに、無理矢理人殺しをさせていたのなら、お前を許さない」
イルミの体から、威嚇するようにオーラが立ち上る。
だがオレが止めるまでもなく、ゴンは何かを察知したように彼から手を離して後退った。
あの、貫くような真っ直ぐな目、妙に鋭い勘。
やはりあの男の子どもなんだろうとわかってしまい、少し憂鬱になる。
こういう子は早死にする。
ジンがまだ健在なのは、生まれもっての運の良さのせいにすぎない。
……だがまあ、この手の人間は悪運が強い。
きっとこの子も、あの男同様、しぶとく生き続けるんだろう。
「さあ、話は済んだなぁ?説明会を再開する。全員席につけ」
今度こそは全員を席に座らせ、ようやくまともに説明会が始まった。