×狩人

『一人目の受験生トリックタワーを通過』
『ルート52、受験生の勝利。受刑囚ドーナ・ディアズ死亡しました』
『受刑囚アーヴィス・ジェイソンが暴走。回収をお願いします!』

頭の上から響くような仲間達の声。
言われる通り、死者の回収と受験生の安全の確保を続ける。

「くそ……何人目だぁ?」
「クフフ、数えている暇があるならもう少し集中をしてください。次は……もぐ……ルート18です」
「お前は余裕でいいなぁクソカスがぁ!」

サンドウィッチをモグモグと頬張る骸に殺気を向けつつ、毒蛇の道で死にそうになっている受験生をテレポートさせる。
何だかんだでずっと気にしていたゴン達にも、目を向ける暇がない。
持っていた兵糧丸を数粒一気に噛み砕いて飲む。
骸は背後でドン引きしていた。

「あなたそれ、そんなに食べて大丈夫なんですか?」
「むしろ大丈夫だと思うのか?」
「ダメっぽいです」
「エネルギー切れたら3日は動けんぞ」
「うわぁ……」

試験終了までは残り約一日。
ラストスパートだ。
高い位置で髪を結い上げて、唇を舐めた。
さて、あと何人死ぬ?
その中に自分の知り合いがいないことを願おう。
そして少しでも失う命を少なく……。

「クフフ、さあ行きますよ。ルート119、受刑囚が瀕死です」
「回収した」
『ルート23、至急応援求む!囚人達が暴動を起こそうとしています!』
「烏を5羽向かわせましょう」
「到着した。受刑囚を回収。受験生は?」
『今こちらに来ました!重傷……試験の復帰は難しそうです!』
「おや?こちらも」
「……ルート91で受験生が死亡。死体を回収した」
『くっ!ルート55で受験生が囚人達を虐殺し始めてます!』
「受刑囚をまとめて回収する。スペース空けとけぇ!」
「まったく、騒ぎが絶えませんねぇ……」

延々と続く命のやり取り。
頭が痛くなってくる。
人を守るために始めたことなのに、バカ達が死んでいくのをただ見ていることしか出来ないのが、余計に疲れる。

「くそ、カスが……ドカスどもが……。相手の強さも、見極められねぇで何が、ハンターだ……。くそ……」
「落ち着くのですスクアーロ。貴女のブレは分身体達にも伝わる」
「わかってる!」
「イライラしない!ルート9で動きあり!」
「もう向かってる!」

あと三時間、助けを求めてきた受験生をギリギリで助ける。

「受刑囚ミリア・フェイズ瀕死です!」
「既に運んだぁ!治療班!」
『処置を開始!これくらいならまだ間に合います!』

あと二時間、受験者の数もだいぶ減ってきた。

「受験生ハリー・キルヴィス、最終試験を突破しましたが瀕死です!」
「棄権させる。暴れねぇように鎮静剤射ってから治療に当たれぇ!」

あと一時間……。

「クフ……あと、少し……!」
「気ぃ抜くなよぉ!」
『はっ!』
「受験生は残り10名。殆どはもう可能性がありませんが……」
「ゴン達はまだ行けるかもしれねぇ。注意して見てくぞぉ」

そして残り時間は……

「試験終了!」
「っ~~~‼おわっ、たぁ‼」

終了の合図を聞くと共に、オレと骸は背後に倒れ込んだ。
はっと目を開ければ、心配そうに覗き込む仲間達が見えた。
周りは上も下もわからないような不思議空間ではなかったし、トリックタワーの立体図のような物も置いていない。
どうやら骸は術を解いたらしい。
それに伴い、奴の術に捕らわれていたオレの意識も、解放されて戻ってきたようだった。

「団長、試験は終了しました!」
「あ"あ、わかってる。このあとはお前らの仕事、だぁ」
「はい!ファウスト、頼んだぞ‼」
「了解!」

囲んでいた男の一人が、強めに顔を擦る。
手を離すと、その顔はそれまで自分が化けていたオビトの顔に変わっていた。

「んじゃあ行ってきます団長!」
「……ああ、いってらっしゃいファウスト。4次試験、頼んだぞ」
「っ!はいっ‼」
「喜んじゃってまあ……。あいつ調子に乗って失敗しねぇと良いが……」

仲間がファウストを心配する声を聞きながら目を閉じる。
兵糧丸の反動が来ている。
体が動かず、熱っぽい。

「団長?」
「うん……少し、寝る……」

ここまでほぼ休みなし。
夜の炎も使い続けていた。
流石に、限界だ。
ベッドまで動く気力もなく、オレはその場で眠りに落ちた。


 * * *


「え!?オビト‼」
「……え?えぇ!?」
「い、生きてる……」
「あんた、ほんとに人間なの?」
「ま、まあなぁ」

たぶん人間やめてます、という本音は喉の奥にしまい、ファウストはスクアーロに成りきって答えた。
見上げても頂上が見えないほど高いトリックタワー。
ここから自由落下して傷一つないなんて、例え念能力者でもそんな無茶苦茶なことをする人は、片手で数えられるほどしかいないだろう。

「あ、足ちゃんとついてるよな?」
「オレは幽霊じゃねぇぞぉ?」
「信じられん……。この高さを飛び降りて生きているなんて……」
「でも良かったよー!4次試験もオビトと一緒に受けられるんだもんね!」
「ゴン、お前呑気だなぁ」

本当に呑気なことである。
もしもこの高さを飛び降りられる怪物……もとい、あの団長が本気で次の4次試験に挑もうとしてたのならと思うと、自分はゾッとする。
かつてはファウスト自身も、このトリックタワーにいる囚人達と同じ、犯罪者であり、溝鼠のように地を這い生きるクズだった。
偶然に目覚めた念能力を使って、何度も盗みを働いた。
ある時、警備員に化けて盗みに入った宝石店で、団長、スクアーロと出会った。
どこかで話を聞き付けて、オレを捕まえに来たらしかった。
負ける気はなかった。
彼の見た目は、どう見ても優男で、とても強そうには見えなかったし、自分は念能力を持っている。
だが勝負はあっという間についた。
気付けば自分は床に転がっており、団長は満足そうに自分を見下ろしていた。
そして言ったのだ。
『よし決めた。お前、うちの自警団に入れ』と。
それ以来こうして彼の下につき、働いている。
化け物のように強い、しかし自分のような犯罪者も当たり前のように拾い上げ、懐にいれる。
そんなあの人に、自分達は惚れ込んだ。
だから……

「あの人に挑むなんて、色んな意味でもう考えられねぇよ……」
「オビト、なんか言った?」
「あ"?別になにも言ってねぇぞ?」

誤魔化して、動き出した受験生の群れを追い掛けた。
円で近くを探知すれば、仲間が次々に揃ってきていることがわかる。
団長がいない間のハンター試験は、自分達が守る。
上手く行けばまた、あの人は嬉しそうに俺達を誉めてくれるだろうから。

「諸君、タワー脱出おめでとう」

いけ好かない試験官の声。
ようやく、4次試験の準備が始まる。
タワーを脱出した順にくじを引けと言われ、ファウストは最初にくじを引いた。
結果は試験開始前にあらかじめ聞いていた通り、真っ白のプレート。
試験官に軽く頷き、くじのそばを離れた。
次の試験会場、ゼビル島でのファウストの仕事。
それは受験生に見付からないように見回ることである。
当然、その間はオビトの変装を解くし、4次試験以降、オビトの出番はない。
よって、次の試験を通る必要もない。

「全員引いたようだね。では、船に乗ってくれたまえ。ゼビル島に移動しよう」

滞在期間は一週間。
これから試験が終わるその日まで、受験生の監督に努める。
唇を堅く噛み締めて、ファウストと監督者達はゼビル島へと向かうのだった。
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