×狩人

ーー皆様、大変お待たせいたしました。目的地に到着です

「あんたなぁ、受験生はこの先も試験があるってのに、ここで体力使いきらせてどうすんだぁ、ああ"?」
「まあまあ、良いではないか。飛行船も遅めに飛んでもらって、ゴンの休む時間も作ったわけじゃしのう」
「その間、他の受験者どもがゴン以上に休んでるわけだがなぁ」
「む、確かに……。まあ、それはそれ、これはこれじゃ」
「どれだよ」
「この子ならこの程度の時間でも十分に回復するじゃろう。なんせ若いからな」
「……それは、確かになぁ」

飛行船は、あと1分もすれば目的地に着陸する。
そんな中、オレは数時間前までゴンとキルアがネテロ会長を相手に、ボール取りゲームをしていた部屋に来ていた。
スヤスヤと気持ち良さそうに眠るゴンの前で、呆れて額を押さえる。
愉快そうに笑うジジイは置いといて、とりあえずこいつを起こさなきゃな。

「ゴン、ゴン起きろぉ」
「ん、んん~……あれ?なんでオビトがここに……?」
「お前のこと起こしに来てやったんだよ。そら、もう次の試験会場に到着する。さっさと起きて、支度するんだなぁ」
「え!本当に!?ありがとうオビト!」
「お"う、気にすんなぁ」

もう到着する、という言葉に飛び起き、ドアに向かって駆け出しながらオレに礼を言う。
その様子がおかしくて、思わずクスッと笑ってしまった。

「何と言うか、お主、顔の凶悪さの割には面倒見が良いのう」
「てめぇどういう意味だそりゃあ!」
「ほっほっ、怒鳴ってないで、早くお主も準備した方が良いんじゃないのか?」
「……チッ!後でボコすからなクソジジイ!」
「楽しみにしとるよ」

飄々としたジジイの様子に、イライラと足音荒く、ゴンの後を追ってオレも部屋を出た。
静かな振動を感じる。
船はどうやら、目的地へと着陸したらしい。
流れ始めたアナウンスに、オレは出入口へと向かう足を早めたのだった。


 * * *


「ここはトリックタワーと呼ばれる塔のてっぺんです。ここが三次試験のスタート地点になります。さて、試験内容ですが、試験官の伝言です。生きて、下まで降りてくること。制限時間は72時間」

会長秘書であるマーメンが、受験生達にそう案内を流して、飛行船へと戻る。
さて、彼が飛行船のマイクから合図を流せば、試験は開始する。

『それではスタート‼頑張ってくださいね!』

可愛らしい合図だな。
だがまあ、試験はこうして始まったわけだ。
塔の高さは……想像するのが難しいほど。
側面には目立った取っ掛かりとかはなくて、一流のクライマーでもなけりゃあ、こんな僅かな凸凹しかない壁を降りていくのは難しい。
だが、この塔の近くには巨大な怪鳥がいる。
動きは遅いが、壁を伝って降りている状態では簡単に喰われておしまいだろう。
早速壁を伝っておりようとした受験者を別室送りにして、オレは屋上の縁に近づいた。

「外壁をつたうのはムリみてーだな……」
「そんなことはねぇさ」
「はあ?」

異形の怪鳥に顔色を悪くさせているレオリオに、オレはそう返した。
不思議そうにこちらを見てくる野郎と目線を合わせ、怪鳥達の様子を伝える。

「奴らは姿こそ異様でおっかねぇが、動きはそこまで素早くねぇ。頭が重いんだろうな」
「だったらなんだ?超高速で壁を降りてくってのかぁ?」
「おう、その通り。だがさっきの奴みたいに、手足使って取っ掛かりを探しながらじゃあ絶対ムリだろぉ?なら、どうすりゃあ良いと思う?」
「あー……、飛び降りる、とか?」

眉間に力を込めながら考えたレオリオの答えは、簡潔で率直。
だが普通に考えたら、絶対に不可能な方法である。
想像していた通り、クラピカがピシャリとその方法を否定した。

「バカか貴様は。どれだけの高さがあると思って……」
「正解だぜレオリオ」
「……は?」

目を剥いてこちらを見た二人の前で、オレは腕を広げて、屋上の縁ギリギリに立つ。

「それじゃあオレはお先に」
「ば……バカ!何を考えて……‼」
「紐無しバンジー……てなぁ!」
「うおお!お前ちょっ待て……」

二人の叫び声が小さくなっていく。
屋上に向けて軽く手を降りながら、オレはクルリと体を反転させて地面を向いた。

「オレはさっさと下で待機して、お前ら見張らなきゃならねぇからなぁ」

吹き上げてくる風が髪をさらい、皮膚を持ち上げていく。
空中で体勢を立て直してから、オレは間近にあった壁に手と足を接触させた。

「むぐっ!ぐ……っぎぃ!」

チャクラを流し込んで、勢いを弱める。
塔が高すぎるお陰で、速度を落とす時間は十分にある。
ある程度速度が落ちたところで、手を放して壁を走り出した。
ゆっくりとスピードを落とし、最後には歩く程度の早さになり、オレは無事に着地したのであった。

「全く、人間かどうかを疑うね。あんたも、会長も」
「……ちょっとすごいだけで、一応人間なんだけどなぁ」

待ち構えていた試験官に言われて、思わずあらぬところを見つめてしまう。

「もう初めの受験者が入った。あんたも準備をするんだろう?」
「ん"、まあなぁ。……さて、始めるとするかぁ」

こきっと首をならして、オレは塔の近くにある小さな小屋へと入ったのだった。
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