×狩人
くあーっと、大あくび。
しばらく眺めているが、ゴンとキルアは、会長から未だにボールを取れないでいる。
でも動き自体はなかなか筋が良い。
二人で連携したり、フォローしあったり。
チームワークも悪くない。
将来は、良いハンターになりそうだな。
「お主も見学してないで参加してみんか?」
「……え?」
「オビト!いつの間にいたの?」
「……ちょっと前からだぁ。オレは見学だけで良い」
だろうとは思ってたけど、やっぱりジジイ、オレの気配に気付いてやがったか。
渋々返事をして、彼らの前に進み出た。
オレの気配に気が付けなかったのがショックだったのか、キルアは目を見開いてこっちを見ている。
だいたいの人間は気付けないことなのだから、そう気にすることじゃないんだがな。
「今ね、ネテロさんからボールを取るゲームやってんだ!オレ達が取れたら合格にしてくれるんだって」
「へえ、そりゃ良いな」
「あんたはやんないでいいの?」
「オレは結果の見えてる勝負はしない主義なんだよ」
「……へえ、随分と自信ないんだね」
「自分の実力をわかっている、と言え」
オレが実際に戦うところでも見たかったのか、挑発をしてくるキルアを、肩をすくめるだけで流す。
というかオイ、残念そうな顔してんじゃねぇよクソジジイ。
「オビトも参加してくれたら勝てると思ったんだけどなー」
「わりぃな、ゴン」
こちらもまた残念そうなゴンの頭に軽く手を置く。
濡れたような感覚と、チクチクとした毛の感触があった。
「お前ら、汗まみれだなぁ。シャワーでも浴びてきたらどうだぁ?」
「えー?これくらい全然平気だよ!」
「……オレは浴びてこようかな」
「え?キルアやめちゃうの?」
「そーだよ。ギブ、オレの負け」
「なんで?まだ時間はあるよ‼今のだってもう少しだったしさ」
「ったく、何もわかってねーな、お前。オビトは、見てたんならわかるんじゃねーの?」
脱いだ服を拾って、既にドアへと足を向けているキルアに話を振られる。
オレは頷き、不思議そうにするゴンに説明をした。
「あのジジイはお前らから逃げてる間、右手と左足をほとんど使ってなかった」
「そ、今のまんまじゃ、一年中追っかけ回したってボールなんか奪えっこない」
「え!?」
「おや、バレてたか。うまくかくしてたつもりだったんじゃが」
「はっはー、とことんムカつくジイさんだぜ、もー。行こーぜ、ゴン」
「あ、オレもうちょっとやってく」
キルアにあれだけ言われたのに、ゴンはそう言った。
そのあっけらかんとした様子に、オレはふっと笑いを漏らしてしまう。
どうやら、使ってさえもらえなかった右手くらいは使わせてみたい、らしい。
そういうチャレンジ精神、オレは嫌いじゃない。
なんだかんだで、ゴンの突飛な作戦には、あのネテロも驚かされていたようだし、右手使わせるくらいなら、可能性はあるんじゃねぇだろうか。
「……うん、わかったがんばりな。オレ、先に行くわ」
「オビトはどうする?」
ゴンの問いかけに、一瞬首を捻って考える。
オレの答えを聞かずに出ていったキルアは、何となく放っておかない方が良い気がした。
「キルアとどこかで休んでるよ」
「そっか、じゃあ次に会うのは試験の直前だね!」
「だろうなぁ」
手を振るゴンに応えて、こちらもひらりと手を振った。
早足に部屋を出て、キルアの後を追う。
追い付いた時、彼は他の受験生に絡まれていた。
……いや、もしかしたら自分から絡まれにいったのかもしれない。
今のキルアは、ヒソカ程ではないが酷く殺気立っていたから。
キルアはスッとポケットから手を引き抜く。
それが受験生の首を掻き切るより早く、オレはその手首を掴んだ。
ハッとして振り向くキルアが、言葉を発する前にその場から走って逃げた。
「お邪魔しましたー!」
「は!?」
「な、何なんだアイツ!」
「ちょっ!オビト!?」
あっという間に走り去り、誰もいないところまで来てようやく、キルアの腕を離した。
その手が、オレの心臓を狙って伸びてきたのを、ギリギリでいなす。
「……てめぇ、なんのつもりだよ」
「何のつもりって、止めただけだろぉ、お前が人殺ししようとすんの」
「そうじゃねーよ。さっきからイラつくことばかり……ゴンは気にしてなかったけど、オレはそういうのほんとに嫌いなんだよね。自分の力、ひけらかしてるつもり?」
「別にそんなんじゃねぇ。つーかそんな面倒なことしねぇよ」
「……くそっ」
オレが平然としていることも気に入らなかったのだろうか。
キルアはこちらをぎろりと睨み付けて、オレを殺す為に振り抜いていた手をポケットにしまう。
去っていくその背を、呼び止めて追いかけることもせず、オレは手に持っていたものを投げ付けた。
「わぶっ!」
「う"お"い、ちゃんとシャワー浴びてこいよぉ。本当に汗臭いぜお前」
「う、うっさいなもう!」
投げ付けたバスタオルを被って、あっという間に走り去っていったキルアを見送り、オレはひっそりとため息を吐いた。
伝説と呼ばれる暗殺一家のゾルディック。
その中でも次期頭目と期待をかけられているキルアへの教育が、一体どういったものだったのか。
想像に難くない。
殺しへのハードルも、一般人と比べたら遥かに低いのだろう。
ゴンと一緒にボール取りをしていたときは、ちょっと生意気なだけのガキだったのに、あの殺気は既にプロの殺し屋のそれと同じだった。
「業が深いな、ゾルディックってのは」
『あなたがそれを言いますか、ガットネロ。あなたの方がずっと業が深いでしょう』
「……ふはっ、違いねぇ」
まったく、いつから聞いていたのだろう。
骸が言ったことに鼻で笑って頷いた。
わざわざガットネロと呼んでくる辺り、意地が悪い。
耳の奥で囁くように、骸が問い掛けてくる。
『彼と昔のあなたを、重ねてでもいたのですか?』
「……さあ。でも言われてみれば、少し似てっかもなぁ。オレはあんなに生意気じゃなかったけど」
『嘘つけ、あなたは今も昔もいけ好かない生意気でムカつく奴です』
「へーへー、そうかよ」
『そういう簡単に受け流す態度が悪いのです』
「あ、あー……電波が悪いみてーだなぁ。ぶちっ!」
『あっ、ちょっ!』
骸の声を追い出すように、通信を切る。
先程のお返しだ。
こんなやりとりも、もう慣れたもんだな、なんて思いながら、オレは通路をのんびりと歩いていく。
時おり遭遇する受験生の揉め事を仲裁して、気付くと飛行船は次の試験会場へと到着していた。
しばらく眺めているが、ゴンとキルアは、会長から未だにボールを取れないでいる。
でも動き自体はなかなか筋が良い。
二人で連携したり、フォローしあったり。
チームワークも悪くない。
将来は、良いハンターになりそうだな。
「お主も見学してないで参加してみんか?」
「……え?」
「オビト!いつの間にいたの?」
「……ちょっと前からだぁ。オレは見学だけで良い」
だろうとは思ってたけど、やっぱりジジイ、オレの気配に気付いてやがったか。
渋々返事をして、彼らの前に進み出た。
オレの気配に気が付けなかったのがショックだったのか、キルアは目を見開いてこっちを見ている。
だいたいの人間は気付けないことなのだから、そう気にすることじゃないんだがな。
「今ね、ネテロさんからボールを取るゲームやってんだ!オレ達が取れたら合格にしてくれるんだって」
「へえ、そりゃ良いな」
「あんたはやんないでいいの?」
「オレは結果の見えてる勝負はしない主義なんだよ」
「……へえ、随分と自信ないんだね」
「自分の実力をわかっている、と言え」
オレが実際に戦うところでも見たかったのか、挑発をしてくるキルアを、肩をすくめるだけで流す。
というかオイ、残念そうな顔してんじゃねぇよクソジジイ。
「オビトも参加してくれたら勝てると思ったんだけどなー」
「わりぃな、ゴン」
こちらもまた残念そうなゴンの頭に軽く手を置く。
濡れたような感覚と、チクチクとした毛の感触があった。
「お前ら、汗まみれだなぁ。シャワーでも浴びてきたらどうだぁ?」
「えー?これくらい全然平気だよ!」
「……オレは浴びてこようかな」
「え?キルアやめちゃうの?」
「そーだよ。ギブ、オレの負け」
「なんで?まだ時間はあるよ‼今のだってもう少しだったしさ」
「ったく、何もわかってねーな、お前。オビトは、見てたんならわかるんじゃねーの?」
脱いだ服を拾って、既にドアへと足を向けているキルアに話を振られる。
オレは頷き、不思議そうにするゴンに説明をした。
「あのジジイはお前らから逃げてる間、右手と左足をほとんど使ってなかった」
「そ、今のまんまじゃ、一年中追っかけ回したってボールなんか奪えっこない」
「え!?」
「おや、バレてたか。うまくかくしてたつもりだったんじゃが」
「はっはー、とことんムカつくジイさんだぜ、もー。行こーぜ、ゴン」
「あ、オレもうちょっとやってく」
キルアにあれだけ言われたのに、ゴンはそう言った。
そのあっけらかんとした様子に、オレはふっと笑いを漏らしてしまう。
どうやら、使ってさえもらえなかった右手くらいは使わせてみたい、らしい。
そういうチャレンジ精神、オレは嫌いじゃない。
なんだかんだで、ゴンの突飛な作戦には、あのネテロも驚かされていたようだし、右手使わせるくらいなら、可能性はあるんじゃねぇだろうか。
「……うん、わかったがんばりな。オレ、先に行くわ」
「オビトはどうする?」
ゴンの問いかけに、一瞬首を捻って考える。
オレの答えを聞かずに出ていったキルアは、何となく放っておかない方が良い気がした。
「キルアとどこかで休んでるよ」
「そっか、じゃあ次に会うのは試験の直前だね!」
「だろうなぁ」
手を振るゴンに応えて、こちらもひらりと手を振った。
早足に部屋を出て、キルアの後を追う。
追い付いた時、彼は他の受験生に絡まれていた。
……いや、もしかしたら自分から絡まれにいったのかもしれない。
今のキルアは、ヒソカ程ではないが酷く殺気立っていたから。
キルアはスッとポケットから手を引き抜く。
それが受験生の首を掻き切るより早く、オレはその手首を掴んだ。
ハッとして振り向くキルアが、言葉を発する前にその場から走って逃げた。
「お邪魔しましたー!」
「は!?」
「な、何なんだアイツ!」
「ちょっ!オビト!?」
あっという間に走り去り、誰もいないところまで来てようやく、キルアの腕を離した。
その手が、オレの心臓を狙って伸びてきたのを、ギリギリでいなす。
「……てめぇ、なんのつもりだよ」
「何のつもりって、止めただけだろぉ、お前が人殺ししようとすんの」
「そうじゃねーよ。さっきからイラつくことばかり……ゴンは気にしてなかったけど、オレはそういうのほんとに嫌いなんだよね。自分の力、ひけらかしてるつもり?」
「別にそんなんじゃねぇ。つーかそんな面倒なことしねぇよ」
「……くそっ」
オレが平然としていることも気に入らなかったのだろうか。
キルアはこちらをぎろりと睨み付けて、オレを殺す為に振り抜いていた手をポケットにしまう。
去っていくその背を、呼び止めて追いかけることもせず、オレは手に持っていたものを投げ付けた。
「わぶっ!」
「う"お"い、ちゃんとシャワー浴びてこいよぉ。本当に汗臭いぜお前」
「う、うっさいなもう!」
投げ付けたバスタオルを被って、あっという間に走り去っていったキルアを見送り、オレはひっそりとため息を吐いた。
伝説と呼ばれる暗殺一家のゾルディック。
その中でも次期頭目と期待をかけられているキルアへの教育が、一体どういったものだったのか。
想像に難くない。
殺しへのハードルも、一般人と比べたら遥かに低いのだろう。
ゴンと一緒にボール取りをしていたときは、ちょっと生意気なだけのガキだったのに、あの殺気は既にプロの殺し屋のそれと同じだった。
「業が深いな、ゾルディックってのは」
『あなたがそれを言いますか、ガットネロ。あなたの方がずっと業が深いでしょう』
「……ふはっ、違いねぇ」
まったく、いつから聞いていたのだろう。
骸が言ったことに鼻で笑って頷いた。
わざわざガットネロと呼んでくる辺り、意地が悪い。
耳の奥で囁くように、骸が問い掛けてくる。
『彼と昔のあなたを、重ねてでもいたのですか?』
「……さあ。でも言われてみれば、少し似てっかもなぁ。オレはあんなに生意気じゃなかったけど」
『嘘つけ、あなたは今も昔もいけ好かない生意気でムカつく奴です』
「へーへー、そうかよ」
『そういう簡単に受け流す態度が悪いのです』
「あ、あー……電波が悪いみてーだなぁ。ぶちっ!」
『あっ、ちょっ!』
骸の声を追い出すように、通信を切る。
先程のお返しだ。
こんなやりとりも、もう慣れたもんだな、なんて思いながら、オレは通路をのんびりと歩いていく。
時おり遭遇する受験生の揉め事を仲裁して、気付くと飛行船は次の試験会場へと到着していた。