×狩人
「だからー、しかたないでしょそうなっちゃったんだからさ。……いやよ‼結果は結果‼やり直さないわよ‼」
電話に向かってがなり立てるメンチの声が、会場中に響いている。
電話の相手は……会長秘書辺りだろうか。
マーメンさん、とか言っただろうか。
どんどんヒートアップしていくメンチに対して、あくまでも冷静に説得を試みようとしているようだが、彼女にそれは逆効果だったらしい。
「二次試験後半の料理審査、合格者は0(ゼロ)‼よ!」
おお、言い切った。
アイツ、絶対相手が会長秘書だって忘れてる。
しかしまあ、合格者がゼロとは随分と酷いな。
確かに、受験生に調理法がバレるという、重大なハプニングがあったのは認めよう。
あれじゃあ試験は成り立たないって言い分もわかる。
しかしそれにも柔軟に対応出来てこその試験官だ。
ブハラが止めてあげられりゃあ良かったんだが、メンチの勢いに完全に押しきられていたし……。
何より、ハプニングがあったからって、こんな理不尽に不合格を言い渡されるなど、受験生も納得がいかないだろう。
まったく、困ったものだ。
「納得いかねェな。とても、ハイそうですかと帰る気にはならねェな」
ざわつく会場。
受験生達はやはり、不満を抱いたようだ。
遂に一人が調理机を叩き割って抗議し始める。
「オレが目指しているのは、コックでもグルメでもねェ‼ハンターだ‼しかも賞金首(ブラックリスト)ハンター志望だぜ‼美食ハンターごときに、合否を決められたくねーな‼」
叫び出した受験生の声を聞いてか、通信機の向こうから、呆れ返ったような骸の声が聞こえてくる。
『ジャンルが何であろうと、プロハンターをしている以上、相手の方がどう見ても格上だと言うのに……。まったく、立場を弁えない輩はどこにでもいるものですね』
「そう言うな。オレから見ても、今回の試験は不当だしな」
小声で会話をしている内に、受験生はメンチの挑発とも言えないような言葉に乗せられ、殴りかかろうとする。
そんな彼がブハラの平手で会場の外まで飛ばされていくのを見送りながら、骸と今後の相談を始めた。
『さて……このまま本当に合格者ゼロで終わってしまえば、僕達も楽なのですが……』
「ねぇな。さっき協会本部に連絡いれてたし、たぶんネテロのジジイが出てくる。もう一度内容を変えて、試験が行われるに一票」
『試験官ごと試験が変更されるに一票。クフフ、何か賭けますか?』
「じゃあ負けた方が美味い寿司を奢る」
『クフ……良いでしょう』
入り口より十メートル以上遠くに落ちて、ピクピクと痙攣する男に、メンチは持っていた包丁を弄びながら言う。
「賞金首ハンター?笑わせるわ‼たかが美食ハンターごときに一撃でのされちゃって」
ああ、ありゃあ『ごとき』なんて言われたこと根に持ってんな。
「どのハンターを目指すとか関係ないのよ。ハンターたる者、誰だって武術の心得があって当然‼」
そりゃあそうだ。
美食ハンターならば、猛獣と戦ったり密猟者を捕まえたり。
ビスケみたいな宝石ハンターだって、同じように戦うだろうし、ライバル同士の潰し合いだってあるだろう。
オレ達フィアンマなら、犯罪(クライム)ハンターや賞金首ハンターがいるが、それこそ毎日戦い続きだし、メンチ並み……いや、それ以上の敵と渡り合うことだって度々ある。
「武芸なんて、ハンターやってたらいやでも身につくのよ!あたしが知りたいのは、未知のものに挑戦する気概なのよ‼」
メンチの言い分はよくわかる。
わかる……が、それとこれとは話が別。
今回の問題は設定していた審査基準から、実際の審査基準がかけ離れてしまったことなのだ。
案の定、予想していた通りの人物の声が、上空から降ってきた。
『それにしても、合格者0はちとキビシすぎやせんか?』
突然の声に、受験生達がざわつく。
見上げた空の上には、でかでかとハンター協会のマークが貼られた飛行船が飛んでいる。
その飛行船から、一つの人影が飛び出してきた。
これはまた派手な登場だ。
飛び降りてきたジジイは、物凄い音を立てて着地……墜落って言った方が良いのか……?
とにかく目の前の地面に降り立ったジイさんは、何事もなかったようにスタスタとメンチに近付く。
「審査委員会のネテロ会長。ハンター試験の最高責任者よ」
流石のメンチも、緊張した面持ちで背筋を正している。
それほどの大物なのだ。
オレにとっちゃ、腹の読めねぇ胡散臭い狸ジジイだが。
「さて、メンチくん」
「はい!」
「未知のものに挑戦する気概を彼らに問うた結果、全員、その態度に問題あり、つまり不合格と思ったわけかね?」
「……いえ。テスト生に料理を軽んじる発言をされて、ついカッとなり、その際料理の作り方がテスト生全員に知られてしまうトラブルが重なりまして、頭に血が昇っているうちに腹がいっぱいにですね……」
「つまり、自分でも審査不十分だとわかっとるわけだな?」
「…………はい」
メンチも、冷静になればちゃんと反省できるらしい。
そこら辺、偏屈ハンターの扱いは、やはりジジイが一番長けている。
「スイマセン!料理のこととなると我を忘れるんです。審査員失格ですね。私は審査員を降りますので、試験は無効にしてください」
元からこうして素直に認めていれば、こうして会長が直々に出てくることもなかったのだろうに。
まあ、認めただけ良かったのかもな。
「ふむ……審査を続行しようにも、選んだメニューの難度が少々高かったようじゃな」
通信機の奥で、骸が歓声を上げているのが聞こえる。
くっ……賭けには負けたか……?
しかし後に続いた言葉を聞いて、オレは見えないようにひっそりとガッツポーズをする。
「よし!では、こうしよう。審査員は続行してもらう。その代わり、新しいテストには、審査員の君にも実演という形で参加してもらう。ーーというので、いかがかな」
『う、嘘だぁぁあ!!!』
この場ではオレ以外には聞こえない骸の声に、思わず漏れそうになった笑い声を押し殺す。
あー、腹筋が痛い。
帰ったら寿司パーティーかな。
二次試験後半、再試験の内容は、メンチの一言でゆで卵に決定し、オレ達はハンター協会の飛行船に乗ってマフタツ山へと向かったのであった。
電話に向かってがなり立てるメンチの声が、会場中に響いている。
電話の相手は……会長秘書辺りだろうか。
マーメンさん、とか言っただろうか。
どんどんヒートアップしていくメンチに対して、あくまでも冷静に説得を試みようとしているようだが、彼女にそれは逆効果だったらしい。
「二次試験後半の料理審査、合格者は0(ゼロ)‼よ!」
おお、言い切った。
アイツ、絶対相手が会長秘書だって忘れてる。
しかしまあ、合格者がゼロとは随分と酷いな。
確かに、受験生に調理法がバレるという、重大なハプニングがあったのは認めよう。
あれじゃあ試験は成り立たないって言い分もわかる。
しかしそれにも柔軟に対応出来てこその試験官だ。
ブハラが止めてあげられりゃあ良かったんだが、メンチの勢いに完全に押しきられていたし……。
何より、ハプニングがあったからって、こんな理不尽に不合格を言い渡されるなど、受験生も納得がいかないだろう。
まったく、困ったものだ。
「納得いかねェな。とても、ハイそうですかと帰る気にはならねェな」
ざわつく会場。
受験生達はやはり、不満を抱いたようだ。
遂に一人が調理机を叩き割って抗議し始める。
「オレが目指しているのは、コックでもグルメでもねェ‼ハンターだ‼しかも賞金首(ブラックリスト)ハンター志望だぜ‼美食ハンターごときに、合否を決められたくねーな‼」
叫び出した受験生の声を聞いてか、通信機の向こうから、呆れ返ったような骸の声が聞こえてくる。
『ジャンルが何であろうと、プロハンターをしている以上、相手の方がどう見ても格上だと言うのに……。まったく、立場を弁えない輩はどこにでもいるものですね』
「そう言うな。オレから見ても、今回の試験は不当だしな」
小声で会話をしている内に、受験生はメンチの挑発とも言えないような言葉に乗せられ、殴りかかろうとする。
そんな彼がブハラの平手で会場の外まで飛ばされていくのを見送りながら、骸と今後の相談を始めた。
『さて……このまま本当に合格者ゼロで終わってしまえば、僕達も楽なのですが……』
「ねぇな。さっき協会本部に連絡いれてたし、たぶんネテロのジジイが出てくる。もう一度内容を変えて、試験が行われるに一票」
『試験官ごと試験が変更されるに一票。クフフ、何か賭けますか?』
「じゃあ負けた方が美味い寿司を奢る」
『クフ……良いでしょう』
入り口より十メートル以上遠くに落ちて、ピクピクと痙攣する男に、メンチは持っていた包丁を弄びながら言う。
「賞金首ハンター?笑わせるわ‼たかが美食ハンターごときに一撃でのされちゃって」
ああ、ありゃあ『ごとき』なんて言われたこと根に持ってんな。
「どのハンターを目指すとか関係ないのよ。ハンターたる者、誰だって武術の心得があって当然‼」
そりゃあそうだ。
美食ハンターならば、猛獣と戦ったり密猟者を捕まえたり。
ビスケみたいな宝石ハンターだって、同じように戦うだろうし、ライバル同士の潰し合いだってあるだろう。
オレ達フィアンマなら、犯罪(クライム)ハンターや賞金首ハンターがいるが、それこそ毎日戦い続きだし、メンチ並み……いや、それ以上の敵と渡り合うことだって度々ある。
「武芸なんて、ハンターやってたらいやでも身につくのよ!あたしが知りたいのは、未知のものに挑戦する気概なのよ‼」
メンチの言い分はよくわかる。
わかる……が、それとこれとは話が別。
今回の問題は設定していた審査基準から、実際の審査基準がかけ離れてしまったことなのだ。
案の定、予想していた通りの人物の声が、上空から降ってきた。
『それにしても、合格者0はちとキビシすぎやせんか?』
突然の声に、受験生達がざわつく。
見上げた空の上には、でかでかとハンター協会のマークが貼られた飛行船が飛んでいる。
その飛行船から、一つの人影が飛び出してきた。
これはまた派手な登場だ。
飛び降りてきたジジイは、物凄い音を立てて着地……墜落って言った方が良いのか……?
とにかく目の前の地面に降り立ったジイさんは、何事もなかったようにスタスタとメンチに近付く。
「審査委員会のネテロ会長。ハンター試験の最高責任者よ」
流石のメンチも、緊張した面持ちで背筋を正している。
それほどの大物なのだ。
オレにとっちゃ、腹の読めねぇ胡散臭い狸ジジイだが。
「さて、メンチくん」
「はい!」
「未知のものに挑戦する気概を彼らに問うた結果、全員、その態度に問題あり、つまり不合格と思ったわけかね?」
「……いえ。テスト生に料理を軽んじる発言をされて、ついカッとなり、その際料理の作り方がテスト生全員に知られてしまうトラブルが重なりまして、頭に血が昇っているうちに腹がいっぱいにですね……」
「つまり、自分でも審査不十分だとわかっとるわけだな?」
「…………はい」
メンチも、冷静になればちゃんと反省できるらしい。
そこら辺、偏屈ハンターの扱いは、やはりジジイが一番長けている。
「スイマセン!料理のこととなると我を忘れるんです。審査員失格ですね。私は審査員を降りますので、試験は無効にしてください」
元からこうして素直に認めていれば、こうして会長が直々に出てくることもなかったのだろうに。
まあ、認めただけ良かったのかもな。
「ふむ……審査を続行しようにも、選んだメニューの難度が少々高かったようじゃな」
通信機の奥で、骸が歓声を上げているのが聞こえる。
くっ……賭けには負けたか……?
しかし後に続いた言葉を聞いて、オレは見えないようにひっそりとガッツポーズをする。
「よし!では、こうしよう。審査員は続行してもらう。その代わり、新しいテストには、審査員の君にも実演という形で参加してもらう。ーーというので、いかがかな」
『う、嘘だぁぁあ!!!』
この場ではオレ以外には聞こえない骸の声に、思わず漏れそうになった笑い声を押し殺す。
あー、腹筋が痛い。
帰ったら寿司パーティーかな。
二次試験後半、再試験の内容は、メンチの一言でゆで卵に決定し、オレ達はハンター協会の飛行船に乗ってマフタツ山へと向かったのであった。