×狩人
豚の丸焼きと言っても、ただ豚を捕まえて焼けば良いってわけじゃない。
内臓の処理をしたり、味付けしたり……。
……まあ、ブハラはそんな下準備をしていなくても、美味しく食べられたようだけど。
「どんだけ食うんだぁ、こいつ」
「スゴかったね……」
胃を念で強化でもしてんじゃねーのかって程の食いっぷりだった。
いや、もしかすると、実際にそうしていたのかもしれない。
にしても……。
オレは周囲を見渡す。
結構な数の受験生が残っている。
今年は豊作だな。
何より、ルーキーがだいぶ残っている。
珍しいな。
しかし、二次試験後半ではもっと人数が絞られるだろう。
なんせ、試験官はメンチ。
彼女がシングルハンターになって以降、一度だけ会ったことがあるが、まあ噂に違わぬ頑固者だったし、料理に関しては妥協を許さない、プロの美食ハンターであった。
事前に聞いていた課題は、寿司の調理……。
用意された場からヒントを見付け出す観察力、未知のものに挑戦する気概、そしてまあ、調理に関するセンスっつーか、適度な常識を測る。
そんな事を聞いていたが、寿司ってのはやっぱり難易度が高いんじゃないのか?
生魚の切身を一口大に握った酢飯の上に乗せて、醤油付けて食べる……って、寿司を知らない上に、基本欧米的な文化が強いこの世界の奴等では、正解に辿り着くのはとてつもなく難しいだろう。
まあ、それ以前にメンチと言う子は、些細な切欠で試験官と言う立場を忘れそうな位、料理には熱いから……。
「困ったな……」
「やっぱりオビトもスシってのは知らないの?」
「え?……ああ。検討も付かないな」
「……へぇ」
いやまあ、日本にはよく行っていたし、こっちの世界で言うジャポン料理の寿司も、よく知ってはいる。
しかしそうは言っても、寿司なんてろくに握ったことはない。
あっても巻き寿司くらいだ。
キルアに返事をしながら、顎に手を当てて考え込む振りをする。
「……あんたってさ」
「ん"……?」
「何者なの?」
「は?」
「足運びとかさ、ちょっとした動きで、何となくわかるよ。あんたが只者じゃないってことくらい。今も、本当は知ってるのに隠したでしょ」
「本当にわかんねぇんだけどなぁ」
「まー、あんたがそう言うなら良いけどさ」
ふんっと鼻を鳴らされて、キルアはフラフラとゴン達の方へと戻っていった。
油断ならない子だ。
こんな試験だからって思って、自分の実力を本気で隠そうとは思ってなかったけれど、それでも特別に疑いの目を向けてくるとは。
「魚ァ!?お前、ここは森ん中だぜ!?」
「声がでかい‼」
突然、会場に響いた叫び声に、はっと目を向ける。
そこにいたのはクラピカとレオリオで、どうやらクラピカの持っていた情報を、レオリオがばらしてしまったらしかった。
クラピカの知識量に驚く以前に、レオリオの間抜けさに脱力する。
『間抜けなハンター志望者がいたものですね』
ここにはいない骸にまで馬鹿にされている。
まったく、勿体無いことを……。
魚が必要だと聞き付けて、外へと走り出していく男達にため息を吐き、オレは手元に作った寿司もどきを引っ提げて、メンチ達の元へと向かった。
「よぉ、試験は上手く行きそうかぁ?」
「はあ?あんた誰?」
「……口が悪いな」
そう言えば彼女達には、オレがどんな顔で潜り込むのか、教えていなかった。
懐から自警団の紋章入りの手帳を取り出し、ヒラヒラと見せ付ける。
「あ、まさかあんたがあの白髪ロン毛!?」
「ちょっとメンチ、その言い方はちょっと……」
「いやまあ、間違ってねぇし別に良いけどよぉ。でも、白髪じゃなくて銀髪な」
それにしても口が悪い。
ハッとして手で口を塞いだ辺り、自覚はあるみたいだが。
オレは苦笑しながら皿を二人の前に置く。
「これ……玉子?」
「これも寿司の一つだろぉ?」
「まあそうだけど……」
プロ並みの料理なんて作れやしないが、それっぽく形を作ることくらいは出来る。
だがまあ、美食ハンターにとっては、大分物足りないらしいが。
「形とか色は良いけど、ちょっとシャリが潰れてるわね」
「プロみたいにはいかねぇな」
「まあでも、まあまあじゃないの?素人にしてはだけど」
「辛口だなぁ」
「言ったでしょ?アタシは辛党なの」
「でも、結構美味しいよ。料理、得意なの?」
「ん"、まあ素人に毛が生えた程度だな」
「意外ね。自警団なんて男所帯で、料理なんてろくにしないのかと思ってたわ」
「そうでもねぇよ。女性団員もそれなりにいるし、料理だってする」
ポツポツと喋りながら、寿司を完食して、そしてオレはもう一度尋ねた。
「で、試験、上手くできそうかぁ?」
「さあ、そんなの終わってみなきゃわかんないわよ」
「はっ、言う通りだ」
「……でもまあ、今年は優秀な奴が多そうだし、ここにあるヒントを見て気付くことも出来るんじゃないの?」
「ほお」
調理台の上には、魚を捌くために使う出刃包丁やら柳葉包丁やら……もちろん三徳包丁なんかも置いてあったが、様々な道具が充実している。
用意されている皿は小振りなものが多く、そう大きなものではないと言うことがわかる。
そしてメンチの前には醤油皿と箸。
箸を持って待っているのを見れば、それを使って摘まんで食べるのだろうと予測できる。
「……まあ、奴らの料理の才能にもよるんじゃねぇの?」
「はあ?」
「まあ、仮に一人も合格できなかったとしても、協会本部にはちゃんと連絡しろよなぁ」
「あったり前じゃないのそんなこと!」
「まあまあ、落ち着きなよメンチ」
怒るメンチに手を振りながら、そろそろ戻ってくるだろう受験生達に正体がバレないように、隅の方に行って気配を消したのだった。
内臓の処理をしたり、味付けしたり……。
……まあ、ブハラはそんな下準備をしていなくても、美味しく食べられたようだけど。
「どんだけ食うんだぁ、こいつ」
「スゴかったね……」
胃を念で強化でもしてんじゃねーのかって程の食いっぷりだった。
いや、もしかすると、実際にそうしていたのかもしれない。
にしても……。
オレは周囲を見渡す。
結構な数の受験生が残っている。
今年は豊作だな。
何より、ルーキーがだいぶ残っている。
珍しいな。
しかし、二次試験後半ではもっと人数が絞られるだろう。
なんせ、試験官はメンチ。
彼女がシングルハンターになって以降、一度だけ会ったことがあるが、まあ噂に違わぬ頑固者だったし、料理に関しては妥協を許さない、プロの美食ハンターであった。
事前に聞いていた課題は、寿司の調理……。
用意された場からヒントを見付け出す観察力、未知のものに挑戦する気概、そしてまあ、調理に関するセンスっつーか、適度な常識を測る。
そんな事を聞いていたが、寿司ってのはやっぱり難易度が高いんじゃないのか?
生魚の切身を一口大に握った酢飯の上に乗せて、醤油付けて食べる……って、寿司を知らない上に、基本欧米的な文化が強いこの世界の奴等では、正解に辿り着くのはとてつもなく難しいだろう。
まあ、それ以前にメンチと言う子は、些細な切欠で試験官と言う立場を忘れそうな位、料理には熱いから……。
「困ったな……」
「やっぱりオビトもスシってのは知らないの?」
「え?……ああ。検討も付かないな」
「……へぇ」
いやまあ、日本にはよく行っていたし、こっちの世界で言うジャポン料理の寿司も、よく知ってはいる。
しかしそうは言っても、寿司なんてろくに握ったことはない。
あっても巻き寿司くらいだ。
キルアに返事をしながら、顎に手を当てて考え込む振りをする。
「……あんたってさ」
「ん"……?」
「何者なの?」
「は?」
「足運びとかさ、ちょっとした動きで、何となくわかるよ。あんたが只者じゃないってことくらい。今も、本当は知ってるのに隠したでしょ」
「本当にわかんねぇんだけどなぁ」
「まー、あんたがそう言うなら良いけどさ」
ふんっと鼻を鳴らされて、キルアはフラフラとゴン達の方へと戻っていった。
油断ならない子だ。
こんな試験だからって思って、自分の実力を本気で隠そうとは思ってなかったけれど、それでも特別に疑いの目を向けてくるとは。
「魚ァ!?お前、ここは森ん中だぜ!?」
「声がでかい‼」
突然、会場に響いた叫び声に、はっと目を向ける。
そこにいたのはクラピカとレオリオで、どうやらクラピカの持っていた情報を、レオリオがばらしてしまったらしかった。
クラピカの知識量に驚く以前に、レオリオの間抜けさに脱力する。
『間抜けなハンター志望者がいたものですね』
ここにはいない骸にまで馬鹿にされている。
まったく、勿体無いことを……。
魚が必要だと聞き付けて、外へと走り出していく男達にため息を吐き、オレは手元に作った寿司もどきを引っ提げて、メンチ達の元へと向かった。
「よぉ、試験は上手く行きそうかぁ?」
「はあ?あんた誰?」
「……口が悪いな」
そう言えば彼女達には、オレがどんな顔で潜り込むのか、教えていなかった。
懐から自警団の紋章入りの手帳を取り出し、ヒラヒラと見せ付ける。
「あ、まさかあんたがあの白髪ロン毛!?」
「ちょっとメンチ、その言い方はちょっと……」
「いやまあ、間違ってねぇし別に良いけどよぉ。でも、白髪じゃなくて銀髪な」
それにしても口が悪い。
ハッとして手で口を塞いだ辺り、自覚はあるみたいだが。
オレは苦笑しながら皿を二人の前に置く。
「これ……玉子?」
「これも寿司の一つだろぉ?」
「まあそうだけど……」
プロ並みの料理なんて作れやしないが、それっぽく形を作ることくらいは出来る。
だがまあ、美食ハンターにとっては、大分物足りないらしいが。
「形とか色は良いけど、ちょっとシャリが潰れてるわね」
「プロみたいにはいかねぇな」
「まあでも、まあまあじゃないの?素人にしてはだけど」
「辛口だなぁ」
「言ったでしょ?アタシは辛党なの」
「でも、結構美味しいよ。料理、得意なの?」
「ん"、まあ素人に毛が生えた程度だな」
「意外ね。自警団なんて男所帯で、料理なんてろくにしないのかと思ってたわ」
「そうでもねぇよ。女性団員もそれなりにいるし、料理だってする」
ポツポツと喋りながら、寿司を完食して、そしてオレはもう一度尋ねた。
「で、試験、上手くできそうかぁ?」
「さあ、そんなの終わってみなきゃわかんないわよ」
「はっ、言う通りだ」
「……でもまあ、今年は優秀な奴が多そうだし、ここにあるヒントを見て気付くことも出来るんじゃないの?」
「ほお」
調理台の上には、魚を捌くために使う出刃包丁やら柳葉包丁やら……もちろん三徳包丁なんかも置いてあったが、様々な道具が充実している。
用意されている皿は小振りなものが多く、そう大きなものではないと言うことがわかる。
そしてメンチの前には醤油皿と箸。
箸を持って待っているのを見れば、それを使って摘まんで食べるのだろうと予測できる。
「……まあ、奴らの料理の才能にもよるんじゃねぇの?」
「はあ?」
「まあ、仮に一人も合格できなかったとしても、協会本部にはちゃんと連絡しろよなぁ」
「あったり前じゃないのそんなこと!」
「まあまあ、落ち着きなよメンチ」
怒るメンチに手を振りながら、そろそろ戻ってくるだろう受験生達に正体がバレないように、隅の方に行って気配を消したのだった。