×狩人

暗い部屋の中に、幾つもの男の低い呻き声が聞こえている。
その声の群れを背中に座る男は、独特な笑い声を出しながら、自分の視界だけに映る映像の群れを流し見ていた。

「クフフ、良かったですねぇ死ななくて。うちの団長が助けなければ、ヒソカに殺されていましたからねぇ」
「ひっ……!!」

男……骸の声に合わせて、霧の炎が人の形を構築していく。
白い肌、ピエロのようなフェイスペイント、燃えるような赤毛、金色に光る冷めた瞳。
奇術師ヒソカの姿がそこに現れた瞬間、男達……いや、ハンター試験の脱落者達は情けなく悲鳴をあげて後ずさっていく。

「クフ、クフフフフ!ああ、なんて情けないのでしょうか。こんな虫けらばかり……我が自警団に誘うことすら出来ません……。金はもらえても、これでは我々にとって何もプラスにならない……。何より僕が面白くありません……」

ぶつくさと愚痴を吐き出す骸に、言葉を返す者は誰もいない。
無線は繋がっているはずなのだが、自警団の全員に無視されているらしい。
普段は憎まれ口を叩いてくるスクアーロも、今はあまりの忙しさに嘲笑うことすらしてこなかった。

「総スカン……酷いです、酷い仲間達ですよ、まったく」

に、しても……と。
骸はスクアーロの分身体を通して試験の様子を見渡し、感嘆の息を吐く。

「やはり、ジンの息子だけある。ゴン=フリークス……、あの距離からコロンの匂いを追って、二次試験会場にたどり着くなんて……」

彼らにつけていた水分身は無駄に終わったようだ。
骸は受験生全員が、生きて二次試験会場にたどり着いたことを察知して、一先ずは上手くいったことに安心する。

「しかし、これから更に忙しくなる」

二次試験、試験官はメンチ&ブハラ。
試験内容は、料理……である。


 * * *


「あ、オビト!!」
「……ゴン、クラピカ、キルア……と、レオリオか?それは」
「それってなんだ、それって!!正真正銘レオリオ様だ!」

会場の後ろの方で様子を見守っていたオレの元へ、(一部を除き)元気一杯の新人達がやって来た。
どうやら、無事に試験会場にたどり着けたらしい。

「お前も無事についたんだな」
「ん゙、まあなぁ」

オレは事前に試験官から計画を聞いていたし、骸のナビに従って進むだけだったから楽なものだった。

「次、12時からだってね」
「開くまで暇だよなー」

二次試験の開始は12時から。
それは、会場に通じる扉にある張り紙を見ればわかる。

「……暇なら、ソイツの手当てでもしてやったらどうだぁ」

オレの見た先には、頬を大きく腫らして、ついでに肩に布を巻いて止血しているレオリオの姿がある。
なかなか酷い事になっているのだが、コイツら全然気にした様子がないな……。

「うっ……お前心配してくれるのか……。思ってたより良い奴だったんだな……!」
「いや……そういうわけじゃ……」

見るに耐えないからそう言っただけ、とは、ちょっと口にできなかった。
しかしまあ、本人曰く、大して痛みはないらしいから、仕方ねぇ、放っておくか。
あの傷を作ったのは一応ヒソカだし、一度殺さないと決めたのならば、そう酷いことはしないのだろう。
アイツの判断基準はよくわからないが、まあそう言うことなのだろう。

「とりあえず、そろそろ12時……。扉の近くに行った方がいいなぁ」
「お、そうだな」

一行が先を行き、オレはその後から数歩遅れて着いていった。
その途中で、水分身と入れ代わり、本体であるオレは木の上にいたサトツの横に移動した。

「……驚きました」
「全く驚いてるようには見えねぇが」
「本当ですよ」
「二次試験見ていくのか」
「ええ、まあ。今年は随分と豊作のようですからね」
「……確かに、今年は多いなぁ。一次試験が甘っちょろかったからじゃねぇのかぁ?」
「あなた、この間は良い計画だとか言ってませんでしたか?」
「忘れたぁ」

会場に集まる受験生の数は、自分の受験した年や、これまで仕事で見てきた数に比べると大分多い。
と言っても、ここからどんどん減っていくだろうけどな。

「まあ、二次試験は料理ですから、少しは楽も出来るのではないですか?」
「楽ねぇ……。出来りゃ良いけどな……」

時計が12時を指す。
扉を開けて現れたメンチとブハラを見て、オレは大きくため息を吐いたのだった。
ブハラの課題は豚の丸焼き。
オレは分身に取ってこさせた豚を、火遁で焼いてブハラに渡し、次のメンチの課題を待ったのであった。
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