×狩人

「君は確か……オビトとか言ったっけ♡」
「まあ、そうだけど」
「去年ぶりかい?君が再受験しているとは思わなかったよ★」
「所詮その程度の実力だったって事だろぉ。ところで……、試験管ごっことはまた、随分とつまらなそうな遊びだなぁ」
「そう?」

辺りを見回す。
ヒソカに致命傷を受けそうになった奴らは、既に纏めて夜の炎で控え室に送っている。
昼間とは言っても、常に霧で薄暗い詐欺師の塒ならば、普段よりは夜の炎も使いやすい。

「おい、何のんきに話してるんだよお前!」
「落ち着け。下手を打ったら、ヒソカのせいで全員脱落するぞ」
「ぐ……!」

レオリオにはそう言って落ち着かせたが、正直オレも困っていた。
馬鹿な受験生どもが消えた分、少しはキャパシティに余裕もできたが、受験生が全員いなくなった訳じゃねぇし(つーかまだ結構残ってるし)、それを考慮したってヒソカと本気でやりあうのはキツい。
他の受験生に気を配る余裕は、間違いなくなくなるだろう。
一番は霧に紛れて逃げることだが、レオリオやクラピカはどうするのだろうか。
こいつらだけ贔屓するのは問題だが、下手においていって、うっかりヒソカに殺られちまった、なんてなったら、自警団としての沽券にも関わる。
オレが引き付けてその間に逃げてもらえば安全だが、それは贔屓になるし……。
あ゙ーくそっ!
成り行きに任せてなんとかしてやる!

「面白くないかい?このタルい一次試験を続けるより、ここで選考作業を手伝ってやった方が、スムーズだし、楽しいでしょ◆」
「知るかよ。落ちてく奴は落ちてくし、受かる奴は受かる。オレ達が決めることじゃねぇ」
「君はそう言う人なのか♡つまんないなぁ。じゃ、こいつらと一緒に君も判定してあげるよ♧」
「……」

困った、本当に困った。
たぶんヒソカは、オレとやる気満々だ。
しかも騒ぎ出した周りの受験生達を、真っ先に始末しようと考え始めている。
受験生を避難させていたら、ヒソカへの注意が疎かになって、下手すりゃ自分が殺られる。
しかしかといって、見殺しにしたらハンター協会との契約違反になる。
……チッ、取り合えず負けそうな奴については、さっさと逃がすか。
それで自分が殺られそうになったら、その時はまあ……紫紺に何とかしてもらおう。

「君達まとめて、これ一枚で十分かな♧」

ヒソカが手にするカードは、オーラを纏った特別製。
下手な刃物よりもずっと切れる。
それを構えたヒソカが受験生の群れに向かっていった瞬間、空から降りてきた大量のカラスが、受験生達を掴んで飛び上がる。
オーラを纏っている分、カラス達も尋常でない力が発揮できるのだ。
そのまま飛び去っていくカラスを見て、ヒソカはつまらなそうにため息を吐く。

「んー、また邪魔された◆ホント、野暮だよねぇ、自警団の団長ってのも」
「……」

オレにはヒソカに答える余裕はない。
カラスは自動で受験生を運んでくれるし、気紛れなヒソカがすぐにオレを襲いに来なかったのはラッキーだったが、さっき連れていった奴らの何人かは切りつけられていた。
式神を新しく放って止血をしたせいで、スタミナがもうだいぶ少なくなってきている。

「残りは君達4人だけ♡」

構えも何もなく無造作に近付いてくるヒソカに対して、オレ以外の受験生がとった判断は、これまたラッキーなことに『逃走』であった。

「今だ!!」

76番の合図で、レオリオ、クラピカが走っていく。
オレもそれに従い、地面を蹴って走り出す。

「なるほど好判断だ♡ご褒美に10秒待ってやるよ♧」

そんな声が後ろから聞こえてきて、少しだけほっとした。
これでヒソカの野郎と追いかけっこなんてなったら、本気で疲れる。

『ヒソカから逃げ切れましたか。クフ、おめでとうございます』
「骸てめぇ……後でヘタ刈るからなぁ」
『戯れ言を。というか、名前で呼ぶなと何度言えばわかるのですか。……そんなことより、置いてきた3人はどうするのですか?ヒソカは二次試験会場につく方法があるようですが、他の3人はないでしょう』
「……式神からの情報が確かなら、ジンの息子が戻ってきているだろぉ」
『は?……ああ、彼か。それがどうかしたのですか?』
「水分身にゴンの仲間……403、404番は見張らせる。死にそうになったら夜の炎で飛ばす。あと一回くらいは使えるからなぁ。そんでもって、76番は無理そうだ。控え室に誘導するぞ」
『ふむ、まあ団長がそう言うのならば』

ふつと切れた通信に、大きなため息を吐く。
本当に今年は手間の掛かる受験生が多い。
取り合えず、ヒソカに鉢合わせないようにさっさと二次試験会場に行くとしよう。
ヒソカから逃がした奴らは……怪我は問題無さそうだが、控え室に着いたらゴネられそうだなぁ……。
ま、それに関しちゃ、骸が何とかするだろう。
オレは懐から出した兵糧丸をバリバリと食べながら、会場への道を急いだのだった。
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