×狩人

「あぎゃぁあー!!」

北に汚い悲鳴が聞こえれば、分身体のカラスが人の姿に戻って受験者を回収する。

「助けてくれぇー!」

南に助けを求める声が聞こえれば、式神を飛ばして受験者を助けてやる。

『クフフ、おやおや、随分とお疲れのようですねぇ?』
「クソ……」
「大丈夫か、オビト?」

イライラと頭を掻いて吐き捨てると、隣を走っていたクラピカに心配された。

「お前……良い子だな……」
「子……って、何を言っているのだお前は。っておい!頭を撫でるな!!」
「まあまあ」

彼の心配に答えるのならば、もちろん大丈夫じゃない。
分身体を使うのにも、式神やら忍術やら炎やら念能力やらを使うのにも、半端でない量のエネルギーがいる。
日常的に、炎を水晶に貯蓄したり、五代目火影やサクラには及ばないだろうが、白毫の術を真似てチャクラを貯めていたりはするのだが、それでも身体が保たない。
仲間達も精一杯サポートをしてくれているのだが、……うん、手が足りない。

「試験が終わるまで、長いなぁ」
「まだ始まったばかりじゃねぇか。ったくやる気のねぇ奴だな!」
「というか、何故オビトはこの試験を受けているんだ……」

仕事だからだよ、とは流石に言えず。
呆れた様子の二人に挟まれて、オレは大きなため息を吐いたのだった。
きっと、一番前ではサトツがオレのことを想像して、笑いをこらえているんだろう。
眉間に寄せたシワを更に増やして、騙されている受験生をまるごと控え室送りにして、頭痛のしてきた額に手を当てたのだった。
どれだけ騙されれば気が済むというのか。

「……ま、お前らは試験に集中してろよ。オレを気にしてて落ちたなんてなったら、洒落にならないだろう」
「……それもそうだな」
「お前ら、淡白だな……」

引き攣った顔のレオリオに言われて、オレとクラピカは肩を竦めた。
さて、そろそろこの『詐欺師の塒』ランニングも佳境だろうか。
うかうかしていたら自分も迷うかもしれない程の濃霧。
その向こうの方から、少年の高い声が響いてきた。

「レオリオー!!クラピカー!!オビトー!!キルアが前に来た方がいいってさー!!」

あのゴンという少年の声のようだ。
まったくのんきな奴だ。

「どアホー、いけるならとっくにいっとるわい!!」

それに返すレオリオもまた、のんきな野郎だけどな。
しかしそれにしても、ゾルディック家の跡取りは、なかなかに良い勘をしている。
きっとヒソカの殺気に気が付いてそんなことを言ったのだろう。
まあヒソカの殺意は、時も場所も選ばずに酷く分かりやすくばらまかれているけれども、だからといってそれをあの年で敏感に感じとるって言うのは至難の技だろう。
11歳くらいだったか?
たった11年の間に、それだけの経験を積んでいるのだと考えたら、これまで如何に苛酷な生活を強いられてきたのかも、同時に想像がついてしまう。

「一段と霧が濃くなってきたな」

レオリオのその言葉に、無言のまま頷く。
そろそろ、さっきよりも多くの人間が騙される頃合いか。
そして、その頃合いを見計らってヒソカも動き始めるはず。

「気ぃ引き締めろぉ」
『はっ!』

元気な仲間の声が返ってくる。
式神やら何やらで移動させた受験者を引き取るのがアイツらの役目だ。
まあ、対して難しいことではない。
問題はオレの方か……。
怪しまれない程度にヒソカの攻撃を止めて、その最中も骸と連携を取りながら受験生の回収をする……って、無茶苦茶だな、おい……!

「うわぁぁああ!!!」
「逃げろ!!」
「うわぁ!」
「ぎゃぁああ!!」

至る方向から聞こえてくる悲鳴。
どうやら後方集団の奴らはまるごと騙されて、サトツからはぐれたらしい。
分身体達は、危険な動物から受験生を救い出し、崖から落ちそうになったやつの背中を掴んで飛び上がり、ジライタケを踏みそうになったやつらを時空間忍術や夜の炎で飛ばしている。
早めに分身体補充しねぇと足りなくなるな……。
そしてオレが霧に紛れてこっそりと分身体を飛ばしているときだった。
あの殺気が、こちら側に向いたのを感じて、カラス達に攻撃を命令する。
ギギギンッ!!と固い音を立てて弾かれたのは、ヒソカが愛用しているトランプだった。

「あ~ぁあ、やっぱりまた邪魔されちゃった★」
「ぎゃっ!」
「うぐぅっ!?」
「ってえー!!!」

と言っても、オレにも限界はあるわけで。
何人かは致命傷こそ負わなかったが、腕やら肩やらにトランプが突き刺さり、痛そうに叫んだり呻いたりしている。

「てめェ!!何をしやがる!!」
「くくく◆試験管ごっこ♡」

腕を負傷したレオリオの叫びにそう答えたヒソカは、トランプを手で弄びながら、にったりと粘着質な笑みを浮かべた。
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