×狩人

「オレはキルア。キルア・ゾルディックだよ」

その言葉でオレは確信した。
今年の試験、確実に大荒れになる……。
ゾルディックって言えば、あの暗殺者一族のファミリーネームじゃねぇか。
そう言えば、三男坊が反抗期起こして家出中だとかって聞いた気がする……。
しかも考えてみれば、次の試験官はあのメンチだ。
ブハラは良いが……、あの子はまた熱くなると止まらない性格の子だからな……。

「オビトさん、疲れた?」

思わず遠い目になるオレを心配してくれるのか、ゴン少年にそう話しかけられて、オレはゆるゆると首を振った。

「いや、考え事しててなぁ」
「試験中に考え事なんて、余裕だね」
「まあまだ、三時間程度だし、な」

オレの言葉に、後ろからゆらりと殺気が立ち上った。
発生源から聞こえるのは荒い息遣い。
オレに話しかけたゴンを諌めていた男、レオリオから聞こえている。

「レオリオは大丈夫?」

心配そうなゴンの言葉に、彼は無言のまま親指を立てて返していた。
試験開始から三時間、新人には少しずつ厳しくなってくる頃だろうなぁ。

「フラフラだなぁ……。もう脱落かぁ、新人?」
「う、うる……せぇ……!」

返ってきた言葉も、途切れ途切れで酷く頼りない。

「そう言えば、オビトってこの試験何回目なんだ?」

新人、という言葉を聞いてか、キルアに訪ねられて、そちらへと視線を向ける。

「2回目だ。去年が初受験」
「なーんだ、去年一回落ちてるんじゃん」
「まあ、運がなくってな」

適当に返して、去年の事ははぐらかす。
正規の受験者じゃねぇから、色々と話しづらいことも多い。
深く突っ込まれると困るのだ。
さて……、汗だくで覚束無い足取りのまま走り続けていたレオリオも、段々とスピードが落ちてくる。
このまま、脱落かな。
そう思ってすぐのことだった。

「絶対にハンターになったるんじゃー!くそったらー!!」

心配するゴン達を追い抜き、レオリオは奇声を上げながら駆け抜けていった。
鞄置きっぱなしだし、よだれと汗で顔がヤバイことになってるし。

「今年の新人は元気だな……」

その呟きはゴン達には届かなかったが、無線越しに部下から『おっさんくさいです』とのツッコミを受ける。
まだまだピチピチの30代だぜオレは。
レオリオの置いていった鞄を釣竿で拾って、前の方へと駆けていくゴン達を見ながら、オレもまた気合いを入れ直して前を見詰める。
そろそろ階段に着く予定だな……。
ここから先、かなりの数の人間が脱落するだろう。

「この先、受験生回収よろしく頼むぞ」
『イェス、ボス』

頼もしい返事を耳に、オレもまた少し、スピードを上げたのだった。
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