×狩人

―― ジリリリリリリリリリ……

けたたましいベルの音に、受験生達は顔を揃って上げる。
オレもそれに倣って、壁を伝う太いパイプの上を見た。
紳士然として現れたサトツを見て、ついに始まったかと目を細めた。
ハンター試験、第一次試験。
始めの試験は移動するだけと聞いた。
まあ、サトツらしい、お利口さんな内容だ。

「ただ今をもって、受付け時間を終了いたします。では、これよりハンター試験を開始いたします」

淡々としたサトツの口調。
それを聞いた途端に、受験生達の醸し出す空気がピンと張り詰めた。
まったく、面倒なことだ。

「こちらへどうぞ」

ふわりと降り立ったサトツが、集団の先頭に立って誘導を始める。
動き始めた集団の動きに従い、オレもまた、脚を動かし始めた。


 * * *


「良いかぁ、オレは受験生に混じって、内側から見守る。お前らは外から受験生どもを見ていろ」
「は、畏まりました」

試験の前日、オレは仲間達にそう指示を出していた。
つまり現在、オレは受験生に紛れて試験を受けているのだ。

「二次試験会場まで私について来ること。これが一次試験でございます。場所や到着時刻はお答えできません。ただ私について来ていただきます」

一次試験は、ただただサトツの後を着いていくだけの小手調べ。
だがここで確実に、何人かが落ちるだろう。

「ん……?なんだこれ、カラス?」

新人の一人が、上空を見上げて呟いた。
彼ら受験生の周りを、闇に紛れてカラスの集団が飛行している。
……まあ、その正体は、オレの影分身が変化したもの、なのだが。

「そのカラスはあなた達の命綱です」

サトツが新人の疑問の声に淡々と返す。

「あなた達が試験を棄権せざるを得ない怪我をしたとき、または不慮の事故で死にかけたとき、そのカラスが助けてくれる手筈となっております」

だが、カラスは所詮カラス。
そんな風に考えたのだろう、新人のハゲは鼻で笑った。

「たかだかカラスに、いったい何ができるってんだよ?」
『お前らごときを殺すことくらい、オレには容易いぞぉ』
「うおおっ!?」

突然口を開き、人の言葉で喋りだしたカラスに、新人達は皆、飛び上がって驚いた。
カラスは饒舌に喋り続けた。

『自己紹介が遅れたなぁ。オレの名前はスクアーロ。知っている奴もいるかもしれねぇがぁ、自警団フィアンマの頭領を勤めている。今回もまた、オレがテメーらを監視し、管理し、出来る限りその命を守ってやる』
「か、カラスが喋った!?」
「いや、恐らくは首の辺りにスピーカーでもついているのだろう」
「へぇ、面白いじゃん」

気味悪そうに見るもの、観察して分析するもの、興味深そうに見るもの。
様々な者達が、飛び回るカラスの群れを見ている。

「じけーだんふぃあんま、って何?」
「知らないのかゴン!?」

後ろの方から聞こえた声に、チラッと視線を送る。
さっき最後に会場に着いた黒髪のチビが質問したらしかった。
知らないなら答えてやりたい……ところなのだが、あまり目立ちたくはないからなぁ。
しかし金髪の少年はどうやら知っているらしく、チビに詳しく説明してやっていた。
あの金髪は好感が持てるな。

「さて、喋るカラスは確かに珍しいでしょうが、今は試験に集中してください」

わざわざ忠告してやるサトツは、まったくなんと言うか、人が良い。
オレなら放っておくだろうけどな。
まあ、とにもかくにも、一次試験の出だしは順調だと言えた。
この通路は壁の向こうにもう1つ通路があり、その向こうでは仲間達が常に受験生達を見ているし、何かあればオレだっている。
ヒソカっつー不安要素は大いにあるが、だがその程度は、これまでも乗り越えてきた。

「上手くやらなきゃな」
「え?何を?」
「は?」

思わず口から溢れた言葉に、思わぬ人物が反応した。
さっきからずっと騒がしくしていた、新人のチビ。

「……試験をに決まってるだろう?それ以外に何かあるのか?」
「ん?んー……それはそうなんだけど、何かちょっと違う気がして」
「……へぇ」

当たってる。
これは驚いたな。
なかなかの観察眼だ。
チビの隣にいた同じく新人の、サングラスの青年が、チビの頭をポカリと殴る。

「いてっ!」
「ゴン!お前はどうしてそう知らない奴に平然と話しかけられんだ!?もしヒソカみたいな奴だったらどうすんだよ!!」
「えー、平気だよ!」

本人は声を潜めてるつもりかもしれないが、バッチリ聞こえている。
誰がヒソカみたいだ。

「お兄さん、突然話しかけちゃってごめんね!」
「いや、良いさ。走っている間は暇だし、話し相手がいるのは良い」
「本当?良かったー!レオリオ、やっぱり平気だったよ!」
「今回はな!」
「オレ、ゴン。ゴン・フリークス!よろしくね、お兄さん!」

少年の名乗りを聞いて、オレは一瞬固まる。
そして瞬時に後悔した。
もっと受験生の情報をよく見ておけば良かったと。
フリークスと言えば、『ジン・フリークス』……。
よく見てみれば面影のあるこの少年は、どうやらあの伝説のハンターの息子であるらしかった。

「……オレはオビト。よろしくな、ゴン」
「うん、よろしく!」

何とかかんとか、口を開いて、今化けている人間の名前を名乗った。
そう、オレは今、あのうちはオビトに化けている。
だから何だって話だが、とにかくオレは、オビトの顔でニッコリと笑い、心の中で今年の試験が無事に終わることを祈ったのだった。
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