×狩人

自警団フィアンマの活動は、淡々と着実に、しかし驚くほどの早さで展開していった。
オレがプロハンターライセンスを取ったその次の試験で、骸を含めた多くの仲間がライセンスを持ち帰ってきた。
その後も、孤児や外れ者の念能力者、更正の余地のある犯罪者なんかを吸収して、ハンター試験を荒らし回ると共に、自分達の拠点を中心に、治安の強化に努めてきた。
その過程で、協会からシングルハンターだのなんだのという称号ももらったんだが、オレ達の活動にそんなものは必要ない。
とにかくオレ達は、働いた。
初めの内は、猫探しやら買い出しやら、便利屋のような下らない仕事も引き受けていたが(なんせ子共の集まりだ)、すぐに護衛の仕事や、犯罪組織と戦うような仕事まで、様々な仕事が舞い込んで来るようになった。
人が増え、仕事が増え、気付けば世界中にフィアンマの支部が作られ、それぞれが治安を守り、そして今では……

「ああ?ハンター協会から依頼?……あ゙ー、もうそんな時期かぁ」
「はい、今年も仕事を頼みたいと」

そう報告をしてきた新人の顔が、何故か酷くくたびれている。
そう言えばさっき、おしゃべり好きな奴に捕まっていたか。
楽にしていいと言うと、新人は安心したように1つ息を吐き出して、礼を言った。

「三ヶ月前に入ったばかりだったなぁ。なら、オレ達のハンター試験での仕事は、まだわからねぇだろう」
「は……あ、いや、オレが受験した時に、少しは見ていましたから」
「ふん、見える部分だけが仕事じゃあねぇ。今年からはお前にも出てもらうから、先輩連中にきっちり教わっておけぇ」
「……うっす」

年に一度、定期的に開かれるプロハンターライセンス取得試験。
数年前まで、死傷者数が3桁と2桁の間を行ったり来たりしていたほどの、過酷極まりない試験だったが、ここ数年で、その数は激減していた。
オレは目の前で表情を固くしている男に、ニヤリと笑んで問い掛ける。

「緊張しているようだなぁ?」
「それは……そうですね。ハンター試験の監視っていやぁ、この自警団の代表的な仕事の1つ……。オレなんかで、務まるのかどうか……」

そう、自警団フィアンマがハンター試験の監視を始めて以降、試験での死傷事故は驚くほどに少なくなっていた。
元々荒くれ者の多いハンター。
死者の絶えないその試験は、ハンターのイメージ悪化に更なる拍車を掛けていた。
そこにオレ達は目をつけた。
ハンター試験で監視を行い、何かがあれば止める、守る、助ける。
そうして試験での安全性がグッと上がり、それに比例してハンターのイメージも向上した。
更に将来有望な若者を失うことが防げて、ハンター協会は大いに助かり、協会から報酬を受け取ることで、オレ達もまた大いに助かるという寸法なのだ。
しかもハンター試験には、育てりゃ良い芽が出る人間がごろごろ集まる。
そこで新入団員のスカウトも行えるのだから、オレ達としては一石二鳥。
まあこれを協会に提案したときには、受け入れてもらえるとは思ってなかったんだがな。
向こうも向こうで、プロハンターに犯罪者紛いの連中が増えていくことに危機感を覚えていたらしい。
監視のついでに、そういう奴らの人格矯正訓練を行ってくれたら構わない、っつー条件付きで、オレ達の介入を許してくれた。

「……まあ、実際に参加してみればわかるはずだぁ。ハンター試験を受けたときのお前と、今のお前、ガラリと変わっているはずだぜ」
「そう……ですかね?なんかオレの周りが皆化け物揃いで、全然強くなった気がしないんすけど」
「はっ!そりゃあお前と周りじゃあ年季が違うからなぁ。安心しろよ。お前は確かに強くなっている。ハンター試験、楽しみにしておけ」
「は……はい!」

気合いの入った返事に、くくっと笑いをこぼした。
毎年毎年、ハンター試験の監視は大変ではあるけれど、それ以上に楽しみだった。
今年は何が起こるのか、オレもまた、楽しみにしておこう。
しかしその前に、目の前の仕事を片さねぇとな……。
溜まった書類にため息を吐いて、オレは再び、目の前の仕事へと取り掛かったのだった。
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