×狩人

夜、オレは仲間達が寝静まったのを確認した後、音を立てずに起き上がり、近くの建物の屋上に登った。
そこから見える景色は、全てが夜の闇の中に沈み、昼間には犇めき合って見える建物の群れは見えず、妖怪の畏に飲まれてしまったような恐怖さえ、微かに感じた。

「ここは、僕が今までに生きてきた二つの世界とは、大分違いますね……」
「……六道」

背後に気配を感じた。
どうやらオレが起き出したことに気付いて、骸が跡を追ってきたらしかった。
横にならんで、闇を見下ろす骸に、オレは何の気なしに問い掛ける。

「お前、今までどんなとこにいたんだぁ?」
「……そう、ですね。僕達の生きた、現代とそう変わらない世界、でした」
「変な生物とかいなかったのかぁ?」
「変な術を扱う人間や、変な性を持ってしまった人間ならいましたが……。かく言う僕も……あ、」
「あ?」

不自然に言葉を切られて、目の前の闇から、横の少年に視線を移す。
しばらく、骸は何かを考え込んでいたようだが、オレに視線を移すと、いつも通りの余裕そうな顔で言った。

「僕達はどうやら、前世以前の体質や能力を受け継いでしまうらしい。僕の厄介な性質も、今生まで引き継いでしまいましてた」
「ああ、それならオレも、能力をそのまま引き継いでいるぜぇ」
「これから共に行動するのに、お互いの能力を知らないのは不便です」
「じゃあお互いに自分の能力、全部説明するかぁ」
「……先に言わないで頂きたい」

不満そうな骸を少し笑って、オレは先に自分の能力を説明した。

「オレの能力は、まずはじめの世界で取得したのが、陰陽術だぁ」
「陰陽術?」
「符術に式神術に、まあちょっとした封印や結界、かなぁ。それから、相棒を手にいれた」
「は?相棒ですか?」

首に提げていた石を、つんと突く。
直ぐに、紫紺が姿を現した。

「豆狐の紫紺だぁ」
「生意気そうなガキだなぁ。このガキもお主と同じ転生者なのか?」
「喋った……!?」

そりゃ妖だもの、喋るだろ。
骸の匂いを嗅ぎに行った紫紺を放って、他の能力について説明する。

「その紫紺はオレと式神……まあ、使い魔の契約を結んでいてなぁ。ソイツの力を借りることで、2つの術が使えるんだぁ。1つは人式一体『獣爪裂火』。腕に憑依させて身体能力を底上げする。二つ目が式神融合『千姿万態』。オレの記憶にある人間の容姿や能力を真似できる」
「……真似、ですか」

なるほど、と頷いた骸に、オレは首をかしげる。
何がなるほど、なんだ?

「あなたは元々、スペルビ・スクアーロ本体の代替物として生まれた……。つまりはスペルビ・スクアーロの真似をしていたと言うことです。ならばその能力はとても、あなたにお似合いの能力と言えるのだろうと思いましてね」
「あー……なるほど、な」

確かに、言われてみればそうかもしれん。
そして、千姿万態を金型にして作った念の技もまた……。

「まあ、とにかく他の能力も説明する。次の世界では、まあ簡単に言えば忍者の能力をゲットした」
「なんでイタリア人だったあなたが、そんなに日本文化に染まっているのです」

至極不思議そうに訪ねてくる骸だが、そんなことはオレに聞かれてもわからない。

「基礎忍術から、火遁、土遁、水遁……あとは医療忍術かぁ。それから、時空間忍術だなぁ。空間を裂いて、別の異空間に繋げることが出来る。これで武器の収納も自由自在だぁ」

武器をたくさん使いたいオレとしては、こんな便利な術はない。
しかも攻撃にも使えるんだからまた便利。
さらに、転生しても大事なものをここに入れておけば、すぐに取り出せるんだから、さらに便利というわけだ。
そして、残った能力は念能力だけか。
それについても説明するため口を開く。

「で、念能力だなぁ。この間使った『黒炎白氷』。あれは夜の炎と……零地点突破の能力だぁ。炎と氷、2つの能力が使える」

正直、零地点突破は使いたくもないのだが、嫌な意味で、記憶に深く残っていたために、気付くと技として完成してしまっていたのだ。

「皮肉な話ですね」

そう言って笑う骸から、鼻を鳴らして顔を逸らし、続きを話す。

「あと、もう1つ。できれば一生使いたくない能力がある」
「ほう?是非ともお聞きしたいですね」
「……『破軍・輪廻』。生きてきた世界、1つにつき1人の人間の能力をほぼ100%再現できる。だから今は、一度に3人の能力が使える」
「ふむ、聞いたところ、あなたが使いたくないと言う要素は見受けられない……と言うことは、それだけリスクが高いと言うことですね」

その通りだった。
『破軍・輪廻』は、今まで生きた年月から力を得て、経験から戦うと言う、言わば元祖『花開院流破軍』の自給自足バージョンみたいなものなんだが、このリスクがまた面倒なのだ。

「使用できるのは、オーラが尽きるまで」
「まあそれはわかります」
「使用中には容姿に変化が現れる……まあ、能力借りた人間の特徴的な部分が、自分の体にも現れるってことだなぁ」

ちなみに借りる能力は、一度設定すると外せない。
今設定しているのは……、ザンザス、乙女、オビトの3人の能力。
だからもしこの能力を使ったとしたら、ザンザスの持つ傷が体に浮かび上がり、乙女の持つ狐の尾が生え、オビトの写輪眼が目に現れる訳である。

「でだ……これのリスクなんだが、まず、ほとんど全ての能力を一時的に無くす」
「無くす能力、とは?」
「まずは戦闘能力、発話機能、念能力、忍術、陰陽術、そして発炎能力。使い終わった直後は、これ全部使えなくなるんだよ」
「うわぁ……」

骸にマジの表情で引かれた。
リスク大きすぎるってことは、自分が一番よくわかってるんだよチクショウ……。

「んで、戦闘能力は3日で戻る。それまでは、ぎりぎり日常生活出来るくらいの身体機能にまで落ちる」
「そこが殺り時って事ですね」
「本気で殺ったら、どんな手使ってでもお前のこと殺すからなぁ。そんで発話機能は、その後3日で戻る。それまでは声が出ない」
「それは楽しそうだ……クフフ」

この野郎は一体何をする気なのだろう。
呆れたオレの前で、紫紺が骸に噛みついている。

「で、他の能力はそれから1日経つごとに戻ってくる。でも問題はそれだけじゃなくてよぉ……」
「いてて……何が問題なのですか?」
「たぶん、リスクがこれでも足りないんだよなぁ。だから、この能力は回数を重ねるごとに、リスクが大きくなってくんだと思う。使いすぎると、オレの魂にまでダメージ受けて、結果的に意識不明で戻ってこれなくなるかも知れねぇ」
「……なんでそうだとわかるのですか?」
「あ゙ー、……勘?」
「適当な奴め……。ですが……念、と言うのは、そういう勘も、重要な要素となるようですしね……。ここは一応、納得しておいてあげましょう」

偉そうに頷く骸に、何となく苛ついた。
つーか、お前も早く能力バラせっての。

「でぇ、オレの能力はこんなもんだがぁ、テメーの能力はなんだぁ?」
「……僕の能力は、大したものなどありませんよ」

目を逸らす様子は明らかに不自然。
オレは紫紺に頷く。
紫紺は一度大きく頷き返すと、骸の頭に噛みついた。

「ぎゃーっ!!!何するんですかケダモノ!」
「早く言えばやめてやるぞぉ」
「ぼ、僕の能力は……!!」
「能力は?」
「水に濡れると梟になることです!」
「……はあ?」

その後、嫌がる骸に無理矢理水をかけたら、本当に梟になった。
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