×狩人

六道骸、彼は世界に3人といない超高レベルの幻術士であり、オレより7つ年下で、……オレと同じ日同じ時間、同じ方法で死んだ男である。
だが今、目の前に倒れる骸は、たぶんオレより少しだけ年下で、何か昔より弱くなった気がする。
そしてオレの知っている六道骸は……

「これ以上ムクロに手を出すな!」
「オレ達が相手になってやる!」
「来るなら来いよ!このモヤシ野郎!」

……こんな風に大勢の子供達に庇われるような柄じゃない、と思ってたんだがな。
いや……だが考えてみれば、奴は一度懐に入れた者に対しては、情の厚い男であった。
それにしたって今回は少し、人数が多い気がするけれど。

「オレはテメーらと戦う気はねぇよ。ソイツの事だって襲ってきたから伸しただけで、別に取って食いはしねぇ」
「そんな言葉信じられるか!」
「まあ信じなくても構いやしねぇがな。それよりも、お前らは何だ?」
「バカねスク、この子らみんな、ここら辺に屯してる孤児よ」

ビスケに言われてみれば、彼らは年齢もバラバラ、着ている服は揃って襤褸で、全員一様に痩せ細っている。

「そのムクロってガキんちょがあんた達のリーダー格ってところかしら?孤児同士協力して生活してんのね」
「この市場の買い物客を襲っていたのも、食料や生活に必要な物を確保するためかぁ」
「てめぇら裕福な人間とは違って、オレ達は毎日必死に生きてんだよ!食い物奪うことの何が悪い!?」
「は?別に良いんじゃねぇの?六道の事だからな、取りすぎたり、奪う相手を良く見て選んでんだろぉ」
「……はあ?」
「生きるためだろ?まあ、本当にやる気あんなら森にでもこもって動物狩れって、オレなら言うが、お前らそんな知恵なさそうだしなぁ?」
「んなっ!?テメーなめてんのかゴラ!?」

事実を言ったまでだぜ。
でも、そうか。
骸が孤児達の世話を……成長したんだな。

「まあ、何はともあれ、このままここにいるのもな……。……六道ぉ、テメー起きてんだろ?移動するからさっさと立ちやがれ」
「……いつから、気付いていたのです?」

このまま騒いで、誰かに見付かるのも面倒だったから、どこか人の来ないところに移動しようと思い、倒れたままの骸に声をかける。
一瞬、ピクリと反応した骸は、嫌そうに顔を顰めながらも起き上がってくれた。
本当に機嫌が悪いと、ずっと狸寝入り続けるからなこいつ。

「直ぐに目が覚めるような簡単な当て身食らわせただけだしなぁ。どうせこのガキどもが出てきた時には、もう目が覚めてたんだろう」
「チッ、ムカつく奴ですね。まあ、場所を変えようという案には賛成だ。皆さん、移動しましょう」
「でもムクロ!」
「この馬鹿は言動こそ乱暴ですが、無闇矢鱈と人間に害を与える者ではありませんよ。僕達の住処へ案内しましょう。着いてきてください」

骸に言われるままに、オレとビスケは彼らの後について行ったのだった。


 * * *


「へー、結構綺麗にしてるんだなぁ」
「あんたが野宿するときは屋根も壁もないものね……」
「相も変わらず、無茶苦茶な生活を送っているようで何よりですよ……。クフフ、そのまま健康を損ねて苦しめばいいのに」

そこはビルとビルの間、壁に囲まれた小さな広間のような場所だった。
廃材を使って作られた粗末な屋根や、風避けのための布はボロいが、綺麗に整頓されていて、場所のわりに清潔な様子だ。

「で、……この女はなんです」
「あ?……オレの師匠みたいなもんだぁ」
「クフ、まあ見た目よりは実力のありそうな方ですが、ガットネロが師事する程の人間には、見えませんね」
「ちょっとそれ、どういう意味だわさ!!」
「まあ落ち着け」

周りには、先程の子供達が鋭い目でオレ達を睨みながら立っている。
居心地わりぃな。

「先程の技はなんです?あれは復讐者の……」
「ヴィンディチェ?」
「……チッ」

骸の言葉に反応したのは、オレではなくてビスケで、正直言って何も知らない彼女や周りの奴らに、前世云々の事を聞かれるのはあまりよろしくない。
目配せをすると察してくれたのか、骸はイタリア語で聞き直した。

『先程の技は復讐者のモノだった。一体どのようにして習得したのです?それも、あなたは夜の炎を操りながらも、全く違う言葉を使った。『黒炎白氷』でしたか?』
『あれはオレの念能力だぁ』
『念、能力……?』
『まあ、指輪を使わずに体を巡るエネルギーを操る術、か?ここでは死ぬ気の炎の代わりにオーラというものが存在し、オーラを操る方法を念と呼ぶんだぁ』
『それで何故、あなたが夜の炎を使えるようになるのですか?』
『オレのオーラの性質のお陰だなぁ』

そこまでイタリア語で話すと、オレは骸から少しだけ離れ、腰に手を当てて胸を張った。

「オレのオーラの系統は特質系!能力は再現と実現!オレは能力に制約と誓約をつけることによって、かなり本物に近い『他人の能力の再現』が出来る!」
「制約と……誓約?」
「『黒炎白氷』においての誓約は、ひとつに、使うときに必ず、指に黒い石のついた指輪を嵌めること。ふたつに、自分以外の人に使うときには、相手に決められた紋様を書いた紙を押し付けながら使うこと。みっつに、この能力は夜になればなるほど力が増す。そして制約として、ひとつ、指輪がなければ、この能力は暴走し、無理に使おうとすればオレが死ぬ。ふたつ、紙を用いずに人にこの能力を行使すれば、その人物は必ず死ぬ。そしてみっつ、昼間、明るいところでは、自分を3度ワープさせるくらいの能力しか持たない」
「なるほど、制限をつけることでより強い力を発揮する……。念能力……面白い力ではありませんか。その能力は、僕も使えるのですか?」
「スクと全く同じ能力は使えないわ!あんたにはあんただけが使える能力があるはずだわさ」
「僕だけの能力……。クフフ、その念という力、僕も必ずや習得してみせる。見ていなさい、ガットネロ。次こそはあなたの命を刈り取ってくれますよ……クフフフ!」
「スク、あんた本当にこいつと友達なの?」
「友達だぜ?」
「まさか、こいつは僕の敵ですよ」

オレと骸の意見はすれ違っているが、それは大昔から変わらないことである。
昔と変わらない骸を見て、オレは酷く安心していた。
骸に出会えた。
ならばきっと、他の仲間にも会えるはず。
少なくとも、オレと同時に死んだあいつらとなら……。

「なあ六道、折角会えたんだぁ。オレ達でギルド組まねぇかぁ?」
「ギルド……?何故僕があなたなんかと……」
「お前だけじゃねぇぞ。そこにいる奴らも含めてだぁ」
「……ギルドなど組んで、一体何をする気なのですか?あなたが有能な人間ということは知っていますが、積極的に組織まで作って動くような人間ではなかったと記憶しています」

確かに骸に言われる通り、オレは目立ちたがりでもないし、カリスマ性に富んでいる訳でもない。
組織作りの経験はあるけれど、積極的にやりたいことだとは思えない。
というか正直、やりたくねぇ。
気苦労が絶えねぇし、人を率いる立場とか向かねぇもんな、オレ。

「オレみてぇな変な奴なら、一人でだってある程度生きていくことは出来る。だが普通はそんなこと出来っこねぇ。だから、ソイツらが当たり前に生きれるような居場所を作りてぇ。誰の力も借りられないような人間を、少しでも良いから減らしてぇ。その為に、六道骸、テメーに協力してもらいてぇんだぁ」
「……」
「この世界は、あまりにも混沌とし過ぎている。オレがこの世界を綺麗にする、なんて大層なことは言えねぇがな、少しでも人が人らしく過ごせる世界を作っていきてぇんだよ」

オレは最後に、骸に手を差し出して言う。

「オレに、力を貸してくれねぇか?」
「……あなたの作る組織、いつか僕が、乗っ取ってやりますよ。それまでは、あなたの傍を任されましょう。その日まで、精々怯えて過ごすことですね、スペルビ・スクアーロ」
「は、待っててやるよ、いつまでもなぁ」

骸が差し出した手を取ったのを見て、オレは口角を吊り上げて笑う。
それが、後に作られる自警団フィアンマのはじめの一歩であった。

「……というか、色々理屈を捏ねてはいましたが、あなたの言いたいことは1つだけ、でしょう?」
「……もしかして、お前も思ってたのか?」
「ええ、僕も思っていました」
「「世の中不便すぎる!」」
「一先ずの目標は市場の治安の取り締まりだな……」
「クフフ、まずは人を取り締まれるほどの力をつけねば、ね」

怪しげに笑う骸とオレに、ビスケが物凄く引いた目をしていた。
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