×狩人

―― ドタドタドタドタッ

―― ドタドタドタッ

―― ドタドタッ

試験開始の前に、ビスケット・クルーガーはこう言った。
『向こうの階段を降りた先』と。
まるで『100メートル先のコンビニ』ってな具合で。
だがオレはその言葉に納得が行かない。

「階段、長すぎだろぉ……」

もう既に30分は降り続けているだろうか。
螺旋状の階段は、今だ下へと続いていた。
オレは先頭を走っているので正確にはわからねぇが、恐らく後ろでは何人かの受験者が力尽きているのだろう。
可哀想に。
心にも、思ってはいないが。

「そろそろ飽きてきたなぁ」

変わらない景色に、話す相手のいない状況。
普段から暇な時間が苦手なオレだが、今は先頭に立っているせいで人間観察すら出来ない。
暇だ……。
そして30分後……、ようやく目下にドアが見えてきた。
手を掛けて引っ張ると、思っていたよりも重たい。
力を込め直して引っ張り開けると、中からモワリと、紫がかった煙が漂ってきた。
紫だちたる雲の細くたなびきたる……なんて優雅で雅なもんじゃない。
これは、毒霧だ……!
つんと鼻をつく臭いにすぐに鼻をハンカチで覆って防御する。
毒には強いが、今まで摂取したことのない毒だった。
慎重に部屋を覗き、様子を窺う。

「……おぉ」

部屋の中は、天然の岩の覆う洞窟になっていた。
その中に、毒霧が充満している。
ここから宝石採掘してこいってのか……。

「仕方ねぇ……」

すぐに出ればたぶん平気だ。
部屋に飛び込み、なるべく奥まで進み、薄目を開けて岩の群れをよく観察する。
岩は天然……だが受験者達に持ってこさせる宝石は試験官が埋めたもののようだった。
所々に掘り返した跡がある……。
巧妙に隠されてはいるが、よく見れば分かる。
その跡を素手で抉り、数秒もすればそこから青く輝く宝石が姿を表した。

「……ラピスラズリ、瑠璃か」

美しい宝石だ。
宝石に関しては素人だが、たぶん、偽物ではない。

「……さっさと出るか」

オレの後続の受験者はまだ来ていない。
遅いな、そんなんで試験に受かるわけがねぇぜ。
部屋を脱出し、新鮮な空気を深く吸ったオレは、気を引き閉めて階段を登り始めた。
特に階段に仕掛けがあるとかはなかったな。
本当に受験者達の体力を削るためだけの階段、なんだろう。
警戒しなくて良いのなら、帰りは行きよりも早く進める。
そしてオレはまた、飛ぶように階段を爆走し始めた。
一瞬、他にも幾つか宝石を採っていってしまおうかとも思ったが、いくらなんでも可哀想だよな。
階段を降りる受験者達とスレ違い、倒れた受験者を踏み越えながら、考えを巡らせる。
そして約50分後、オレは元の部屋へと辿り着いていた。

「ま、あんた随分と早かったわね。で、宝石は?」
「これ」
「……確かに、本物のラピスラズリだわさ」

本物の……、ってことはやはり偽物もあったのか。
もう一度あの階段を走ることにならなくて良かったぜぇ……。
試験官ビスケは、オレの渡したラピスラズリをいそいそとリュックにしまいながら(猫ババする気じゃねーだろうなぁ?)、何気ない風に話し掛けてきた。

「どんだけ早くても四時間は掛かると思ってたんだけどねぇ。やるじゃないのさ」
「……まあ、鍛えてるしな」

四時間……て。
どんだけ走らせるつもりだったんだこのアマ。

「あんた何歳?」
「12歳」
「なんでこの試験受けに来たの?」
「親父の遺言が、ハンターになる夢をオレの代わりに叶えてくれ、だったから」
「親孝行者って奴ね」
「ハンターってのは色々あるんだろ?ビスケは宝石のハンターなのかぁ?」
「ストーンハンター!!世界中の珍しい宝石集めてんのよ」
「へぇ……」

そして、沈黙。
ビスケはマイペースに何かの端末……恐らく受験者達を撮しているカメラの映像だろう……を見ている。
オレはまた暇になってしまったため、持っていたリュックの中から本を取り出して、読み始めた。

―― 一次試験、合格。

なんだか呆気なかった一次試験に、拍子抜けしたが、この先もこの調子なら楽勝そうだ。
そう思って、1つ大きな欠伸を溢した。
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