×狩人

……この世界には、ハンターという職業がある。
宝石、魔獣、遺跡、賞金首……様々な者をハントすることを生業としている。
その事と、プロハンターのことについて知ったのは、随分と幼い頃だったように思う。
自分を育ててくれた親父が、事あるごとにハンターという単語を口にしていたのだった。

「オレは昔っからハンターに憧れていてなぁ!!家を出てまでなろうとしたもんだが、結局なれねーまま、年食っちまった……」

耳にタコが出来るほど聞かされた話だ。
聞けば、そのプロハンターというものになるためには、厳しい試験を受けなくてはならないらしい。
過酷極まりないその試験で、命を落としたものも数多いとか。
親父は全て、一次試験で落ち、5回目の試験で遂に諦めたらしい。
死ななかっただけ儲けものだ。

「スペルビよ、お前がいつか、ハンターになってくれりゃあなぁ」

期待のこもった目で見られながらそう言われたことも、少なくない。
まあ、この世界で三度目の転生を果たし、かつては暗殺者、妖怪の兄、忍者というジョブを経験してきたオレからすれば、そんな試験はチョロいもんだろう。
だから親父が死ぬとき言った、『夢を叶えてくれ』との言葉の通り、オレはハンター試験を受けるために、家を捨て、とある国の市場に来ているのだ。

――スペルビ・スクアーロ、12歳。
超難関と言われるハンター試験を受けるべく訪れたのは、何の変哲もない、ごく普通の洋服屋だった。

「試着、Lサイズの赤い服を探してるんだが」
「!……かしこまりましたお客様!あちらの試着室に靴のまま入ってお待ちください!!」
「ん」

一瞬、驚いたような素振りを見せた店員が、次の瞬間には営業スマイルを取り戻して、店の隅にある試着室まで案内した。
どうやらあれが入り口らしい。
言われた通り靴のまま入り、少し待っていると、カチッとスイッチが入る音が鳴り、床が振動し始めた。
試着室……もとい、エレベーターになっている小部屋は、ごく静かに動き、オレを地下へと運んでいく。
然程距離は降りてないだろう。
せいぜい地下5階……そんなところで止まったエレベーターを降りると、そこには広大な空間が広がっていた。
灰色のコンクリートで覆われただだっ広い広間。
そこにはかなりの数の先客が犇めいていた。
エレベーターから降りたオレを、バカにするような笑い声が所々から聞こえる。
だが大して気にすることはなく、そのまま番号札を受け取って部屋の隅に座り込んだ。

「……46番、か」

死路(46)、とはまた縁起が悪い。
顰めっ面のまま、その札を上着のポケットに突っ込んだオレは、座り込んだまま、周りの人々を観察し始めた。

「おいおい、あんな子供がハンター試験受けるのかよ……」
「受かるわけがねぇ……。バカにしてんのかあの餓鬼」

……自身の存在は概ね不評のようである。
予想はしていたが、いざ実際になってみると面倒臭いな。
変化で大人の姿に化けてくれば良かったか?
しかし後悔しても後の祭り。
仕方なく、好奇の視線を全身に受けながら、オレは試験が始まるのを待っていた。
そして数時間後。

―― ジリリリリ……

「時間だわさ!!早速、一次試験を始めるわよ!!」

溌剌とした甲高い少女の声が、部屋の中に響き渡った。

「私は一次試験の試験官、ビスケット・クルーガー!!ビスケって呼んでね!!」

可愛らしいゴスロリ調の洋服に身を包んだ少女……ビスケは、声高々に、一次試験の開始を宣言したのだった。

「一次試験は宝探し!向こうの階段を降りた先の岩場で、宝石をゲットしたらこの部屋に戻ってくること。時間は無制限!それじゃあ始めっ!!」

マシンガンのような勢いに、受験者達は一瞬圧倒される。
だが次の瞬間、一斉に階段へと雪崩れ込んでいた。
初っぱなから面倒臭そうな試験だ。
ゆっくりと立ち上がり、オレも宝石探しへと取り掛かり始めたのだった。
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