×狩人
とある町の路地裏、そこには常に柄の悪い男たちが行き交い、非合法な事が行われていた。
麻薬、暴力、詐欺、そして……。
「いやぁぁあっ!!」
真夜中、光の刺さない路地裏に、絹を裂くような悲鳴が響いた。
その悲鳴の発生源である女性の後ろを、下卑た笑い声で囃し立てながら、数人の男達が追い掛ける。
「ぶひゃひゃひゃひゃぁあっ!!いいねいいねぇ~!!いい声で鳴くじゃあねぇのぉ!」
「いやっ、誰か……誰か助けてっ!!」
「誰も助けちゃくれねぇよ!!」
「お嬢ちゃ~ん、オレ達と楽しいことしようぜぇ~?」
女が必死で逃げる様子を楽しむように、一定の距離を保ちながら、男達は下卑た鬼ごっこを続ける。
しかし数分後、女は袋小路に入り込んでしまい、逃げ場を失った。
「ざぁーんねぇん!行き止まりだぜ子猫ちゃぁん!!」
「いやいや、どっちかっつーと子ネズミちゃんだろ?『袋のネズミ』ってなぁ!!」
「全然上手くねーんだよこのバカ!!」
壁を背に、ガクガクと震えながら、恐怖に声を出すこともできないまま、女は絶望に涙を流す。
潤み、霞む視界に映る6人の黒い影が迫って……迫って……は、こなかった。
「あ、あれ?」
そもそも男達は6人だったか?
自分に絡んできたときには確か5人しかいなかったはず。
男達もいつの間にかに増えていた、1つの影に気付いた。
「あぁ?なんか一人多くねぇか?」
「はぁ?」
「1、2、3、……4人じゃねーか。多くねぇよ」
「……は?むしろ少なくねぇか?」
「え?」
「え?」
女は見ていた。
霞む視界の先で、掻き消えるようにして彼らの死角に引きずり込まれていった男の姿を。
そして重たいモノが落ちたような音が、一同を沈黙に陥れる。
残った4人と女の、5対の瞳が、路地の先に向けられる。
そこには口から泡を吹いて倒れる巨躯があった。
「なにっ!?なんでオギーが泡吹いて倒れてんだよぉ~!?」
「くそっ誰がやりやがった……!?出てこいやオラァ!!」
そしてその声に応じるように、一人の人物が姿を現す。
「何者だテメーコラァ!!」
「……」
その問いに答えることなく、その人物は地面にへたり込む女の前に立った。
肩を震わせた女だったが、自分に背を向け、守るように仁王立ちした彼に、その意図を察知した。
「そ、そんな……たった一人で4人と戦う気なのっ!?」
「……」
「オレ達もナメられたもんじゃねーか!!お前らっ!!やっちまおうぜ!!」
「ひゃっはー!!」
飛び掛かる男達。
動かない謎の人物。
世界が、一瞬の間スローモーションのように映る。
男達の指先が謎の人物に触れたその瞬間……。
「ぎっ!!」
「がぶぇっ!?」
「ごぉあっ!!」
「ぎゃばっ!?」
目にも止まらぬ早さで繰り出された拳に、男たちは一瞬にして数メートルを吹き飛ばされる。
「す、スゴい……!あなたは一体……何者なんですか!?」
振り向き、女を抱き起こしながら、男は言った……。
『市民の安全を守る……オレ達は自警団"フィアンマ"。困ったときには、必ず駆けつけて守るぜ……』
『自警団フィアンマはいつでも皆様のお力になります。電話番号は――』
テレビの向こうで自分がサングラスを外しニヒルに笑いながら言ったのを見て、団長は隣に座る男に冷静に尋ねた。
「言われるままにCMに出たがな、本当にこれは嫌がらせじゃあないんだな?」
「クフフ、嫌がらせなわけないではないですか……。それとも僕が嘘をついているとでも?」
「……まあ、これで仕事が集まるんなら良いがなぁ」
自警団フィアンマ本部、団長室にて交わされる会話に、他の団員は気付かれぬ程度に顔を強張らせる。
『良いのかよ、そして明らかに嫌がらせだろう』と、思ってはいるようだが、CM出演を果たした団長の容姿は整っているし、正直このCMが流れはじめてから、仕事は徐々に増えてきている。
余計なことは言わないのが吉。
副団長の嫌がらせに目と口を閉ざしているのは、団長に余計な気を使わせないための、彼らなりの優しさなのかもしれない。
そんな彼らは副団長がこのCMを機に、団長をTV業界の晒し者にする計画を立てていることなど知らない。
クフクフと変わった笑い方をする当の副団長は、時折団員に冷めた目で見られていることを知らないのだが。
そして副団長を嫌っている筆頭である団員が、書類を携えて入室してきた。
「団長、お得意様からの依頼が入りました。団長ご指名で」
「お゙う。どこからだぁ?」
「ネイザ国立博物館様から、盗賊団討伐の依頼を受けました」
「あ゙ー、あそこか……」
「クフ、好色家のあの男に気に入られるとは、貴女も災難ですね」
「まあ、盗賊捕らえるのにゃあ丁度良い餌だ。甘い汁を啜るだけ啜ったら、裏と繋がってる証拠突き付けて引きずり下ろす」
「おやおや、物騒なことを言いますね」
口元に手を当てて上品に微笑む副団長に、団員が淡々とした顔で書類を取り出した。
「ところで副団長、貴方の机を探っていたところこのような写真を発見したのですが」
「……なんと?」
「この写真です」
ぴらっと見せた写真には団長とCMに出ていた女性が映っている。
その背景には、なんともそれらしいラブホテル。
団員は躊躇なくそれを破り捨て、さらりと言った。
「雑コラ乙。です」
「クフッ!?」
どうやら合成写真を、週刊誌にでも売り付けるつもりだったらしい。
そんな二人を呆れたように見詰めて、大きくため息をついた団長は、依頼についての資料を手にして立ち上がった。
「早速出立なされますか?」
「ああ、さっさと片してくる。……行ってくるぜ、六道、あとは頼んだ」
「クフフ、うっかり死んでしまわないよう、お気を付けて、スクアーロ団長」
「……はっ、心にもねーことを」
自警団"フィアンマ"。
スペルビ・スクアーロを団長、ムクロ・ロクドウを副団長とし、10年以上前に立ち上げられたこの団体は、クライム(犯罪)ハンター、ブラックリスト(賞金首)ハンターを主体とする警備会社として世間に知られている。
スクアーロ、ロクドウの両名の素性を知るものは、ごく僅かであり、謎の多い組織としても有名だった。
麻薬、暴力、詐欺、そして……。
「いやぁぁあっ!!」
真夜中、光の刺さない路地裏に、絹を裂くような悲鳴が響いた。
その悲鳴の発生源である女性の後ろを、下卑た笑い声で囃し立てながら、数人の男達が追い掛ける。
「ぶひゃひゃひゃひゃぁあっ!!いいねいいねぇ~!!いい声で鳴くじゃあねぇのぉ!」
「いやっ、誰か……誰か助けてっ!!」
「誰も助けちゃくれねぇよ!!」
「お嬢ちゃ~ん、オレ達と楽しいことしようぜぇ~?」
女が必死で逃げる様子を楽しむように、一定の距離を保ちながら、男達は下卑た鬼ごっこを続ける。
しかし数分後、女は袋小路に入り込んでしまい、逃げ場を失った。
「ざぁーんねぇん!行き止まりだぜ子猫ちゃぁん!!」
「いやいや、どっちかっつーと子ネズミちゃんだろ?『袋のネズミ』ってなぁ!!」
「全然上手くねーんだよこのバカ!!」
壁を背に、ガクガクと震えながら、恐怖に声を出すこともできないまま、女は絶望に涙を流す。
潤み、霞む視界に映る6人の黒い影が迫って……迫って……は、こなかった。
「あ、あれ?」
そもそも男達は6人だったか?
自分に絡んできたときには確か5人しかいなかったはず。
男達もいつの間にかに増えていた、1つの影に気付いた。
「あぁ?なんか一人多くねぇか?」
「はぁ?」
「1、2、3、……4人じゃねーか。多くねぇよ」
「……は?むしろ少なくねぇか?」
「え?」
「え?」
女は見ていた。
霞む視界の先で、掻き消えるようにして彼らの死角に引きずり込まれていった男の姿を。
そして重たいモノが落ちたような音が、一同を沈黙に陥れる。
残った4人と女の、5対の瞳が、路地の先に向けられる。
そこには口から泡を吹いて倒れる巨躯があった。
「なにっ!?なんでオギーが泡吹いて倒れてんだよぉ~!?」
「くそっ誰がやりやがった……!?出てこいやオラァ!!」
そしてその声に応じるように、一人の人物が姿を現す。
「何者だテメーコラァ!!」
「……」
その問いに答えることなく、その人物は地面にへたり込む女の前に立った。
肩を震わせた女だったが、自分に背を向け、守るように仁王立ちした彼に、その意図を察知した。
「そ、そんな……たった一人で4人と戦う気なのっ!?」
「……」
「オレ達もナメられたもんじゃねーか!!お前らっ!!やっちまおうぜ!!」
「ひゃっはー!!」
飛び掛かる男達。
動かない謎の人物。
世界が、一瞬の間スローモーションのように映る。
男達の指先が謎の人物に触れたその瞬間……。
「ぎっ!!」
「がぶぇっ!?」
「ごぉあっ!!」
「ぎゃばっ!?」
目にも止まらぬ早さで繰り出された拳に、男たちは一瞬にして数メートルを吹き飛ばされる。
「す、スゴい……!あなたは一体……何者なんですか!?」
振り向き、女を抱き起こしながら、男は言った……。
『市民の安全を守る……オレ達は自警団"フィアンマ"。困ったときには、必ず駆けつけて守るぜ……』
『自警団フィアンマはいつでも皆様のお力になります。電話番号は――』
テレビの向こうで自分がサングラスを外しニヒルに笑いながら言ったのを見て、団長は隣に座る男に冷静に尋ねた。
「言われるままにCMに出たがな、本当にこれは嫌がらせじゃあないんだな?」
「クフフ、嫌がらせなわけないではないですか……。それとも僕が嘘をついているとでも?」
「……まあ、これで仕事が集まるんなら良いがなぁ」
自警団フィアンマ本部、団長室にて交わされる会話に、他の団員は気付かれぬ程度に顔を強張らせる。
『良いのかよ、そして明らかに嫌がらせだろう』と、思ってはいるようだが、CM出演を果たした団長の容姿は整っているし、正直このCMが流れはじめてから、仕事は徐々に増えてきている。
余計なことは言わないのが吉。
副団長の嫌がらせに目と口を閉ざしているのは、団長に余計な気を使わせないための、彼らなりの優しさなのかもしれない。
そんな彼らは副団長がこのCMを機に、団長をTV業界の晒し者にする計画を立てていることなど知らない。
クフクフと変わった笑い方をする当の副団長は、時折団員に冷めた目で見られていることを知らないのだが。
そして副団長を嫌っている筆頭である団員が、書類を携えて入室してきた。
「団長、お得意様からの依頼が入りました。団長ご指名で」
「お゙う。どこからだぁ?」
「ネイザ国立博物館様から、盗賊団討伐の依頼を受けました」
「あ゙ー、あそこか……」
「クフ、好色家のあの男に気に入られるとは、貴女も災難ですね」
「まあ、盗賊捕らえるのにゃあ丁度良い餌だ。甘い汁を啜るだけ啜ったら、裏と繋がってる証拠突き付けて引きずり下ろす」
「おやおや、物騒なことを言いますね」
口元に手を当てて上品に微笑む副団長に、団員が淡々とした顔で書類を取り出した。
「ところで副団長、貴方の机を探っていたところこのような写真を発見したのですが」
「……なんと?」
「この写真です」
ぴらっと見せた写真には団長とCMに出ていた女性が映っている。
その背景には、なんともそれらしいラブホテル。
団員は躊躇なくそれを破り捨て、さらりと言った。
「雑コラ乙。です」
「クフッ!?」
どうやら合成写真を、週刊誌にでも売り付けるつもりだったらしい。
そんな二人を呆れたように見詰めて、大きくため息をついた団長は、依頼についての資料を手にして立ち上がった。
「早速出立なされますか?」
「ああ、さっさと片してくる。……行ってくるぜ、六道、あとは頼んだ」
「クフフ、うっかり死んでしまわないよう、お気を付けて、スクアーロ団長」
「……はっ、心にもねーことを」
自警団"フィアンマ"。
スペルビ・スクアーロを団長、ムクロ・ロクドウを副団長とし、10年以上前に立ち上げられたこの団体は、クライム(犯罪)ハンター、ブラックリスト(賞金首)ハンターを主体とする警備会社として世間に知られている。
スクアーロ、ロクドウの両名の素性を知るものは、ごく僅かであり、謎の多い組織としても有名だった。